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爆殺されたマルタの記者を冒涜 許されぬ産経新聞コラム

2017年10月25日 10:00

0-産経抄2.jpg 報道の使命が権力の監視にあることは言うまでもないが、徹底した政権擁護と野党批判を繰り返す新聞もある。“弱気をくじき、強気を助ける”――それが産経新聞の報道姿勢だ。
 安倍政権に批判的な人を「左派」「左翼」と決めつけ、紙面やネット記事で攻撃する同紙。右翼の機関紙に「報道」を名乗る資格はあるまいが、ここまで来れば日本の恥というしかない。
 今月19日、紙面と公式サイトに掲載されたコラム「産経抄」は、明らかに矩(のり)をこえたものだった。
(右は、産経新聞10月19日朝刊に掲載された「産経抄」)

■産経抄、驚きの見出し
 インターネット上で見つけた産経新聞のコラム「産経抄」。「日本を貶める日本人をあぶりだせ」というネット配信の見出しに目を疑った。まるで昔の戦時標語。「欲しがりません勝つまでは」「ぜいたくは敵だ」を想起させる危うさだ。過ちを省みない新聞人の成れの果てが書いたとしか思えない。

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 昭和のはじめ、国益、国難、国賊の名の下に、憲兵と隣組による監視網が言論の自由を奪い、社会を窒息させ、国の進路を過たせた。戦後日本で報道に携わる者であれば、誰もが肝に銘ずるべきは“言論の自由”を守る抜くことだろう。言論の自由という土台の上に、自由な言論があり、産経新聞の主張も存在することができる。産経抄の「日本を貶める日本人をあぶりだせ」は、その土台を掘り崩せと自ら言っているのである。愚かであるばかりでなく、新聞人失格である。

■陳腐なコラムに2度ビックリ
 見出しに驚き、中身を見てみると、「日本の新聞記者でよかった、と思わずにはいられない」という書き出し。また目を疑う。念のため、下に同日の産経抄全文を、紹介しておきたい。

 日本の新聞記者でよかった、と思わずにはいられない。地中海の島国マルタで、地元の女性記者が殺害された。車に爆弾を仕掛けるという残虐な犯行である。彼女は「タックスヘイブン」(租税回避地)をめぐる「パナマ文書」の報道に携わり、政治家の不正資金疑惑を追及していた。マルタとはどれほど恐ろしい国か。
▼今年4月に発表された「報道の自由度ランキング」では47位、なんと72位の日本よりはるかに上位だった。ランキングを作ったのは、パリに本部を置く国際ジャーナリスト組織である。日本に対する強い偏見がうかがえる。一部の日本人による日本の評判を落とすための活動が、さらにそれを助長する。
▼米紙ニューヨーク・タイムズに先日、「日本でリベラリズムは死んだ」と題する記事が載っていた。日本の大学教授の寄稿である。安倍晋三首相の衆院解散から現在の選挙状況までを解説していた。といっても、随所に左派文化人らしい偏った主張がみられる。
▼憲法をないがしろにして軍事力の強化を図る首相の姿勢は、有権者の支持を得ていない。最大野党の分裂のおかげで自民党が勝利するものの、政治はますます民意から離れていく、というのだ。米国人の読者が抱く日本のイメージは、民主主義が後退する国であろう。
▼特定の政治的主張だけを取り上げる、国連教育科学文化機関(ユネスコ)には、困ったものだ。いよいよ問題だらけの慰安婦関連資料の登録の可能性が強まっている。田北真樹子記者は昨日、登録されたら脱退して組織の抜本改革を突きつけろ、と書いていた。
▼そもそも国連を舞台に、実態からかけ離れた慰安婦像を世界にばらまいたのは、日本人活動家だった。何ということをしてくれたのか。

 このコラムには、新聞人である前に、人間として、犠牲となった一人の人間を悼む気持ちが微塵も感じられない。万が一、悼む気持ちはないとしても、悼む気持ちを表明するのが礼儀だということも知らないのだろう。「マルタとはどれほど恐ろしい国か」と驚くのではなく、ジャーナリストなら、そんな非道への憤りを文字にするべきなのだ。

 産経は権力の犬。「政治家の不正資金疑惑を追及していた」記者への敬意はおそらくない。森友・加計問題に限らず、甘利氏、下村氏など多くの閣僚に疑惑があっても、問題ないと擁護し続けるのが仕事だと思っている新聞なのだ。不正を追及して殺害されたマルタの記者を悼むどころか、「自業自得」と言いたい思惑が透けて見える。

 コラムは、ニューヨーク・タイムズ紙上で安倍政治批判を行った大学教授の寄稿文を「左派の偏った主張」と決めつけ、ユネスコ批判へと続く。支離滅裂。安倍政権にとって都合の悪いものは認めないとする、それこそ「偏った」言説だ。“偏狭なナショナリズム”をばら撒く産経は、だから日本の恥なのである。

 ユネスコの記憶遺産に慰安婦関連資料が登録される見込みであることを捉え、産経抄は「田北真樹子記者は昨日、登録されたら脱退して組織の抜本改革を突きつけろ、と書いていた」と自賛する。だが、気に入らぬことがあれば脱退してみせる、などという子供じみた行動が、国際社会で尊敬されるものかどうか、よくよく考える必要がある。米国、イスラエルに続いて日本がユネスコを脱退すれば、日本の対米追従姿勢を世界に大宣伝することになるからだ。日米の抜けたユネスコで、中国が存在感を増すことも忘れてはなるまい。

 昭和の時代、松岡洋右(まつおか ようすけ)という政治家がいた。国際連盟脱退と、日独伊三国同盟を主導した人物だ。その後の日本がどうなったかは周知の通り。「突きつけろ」などという威勢の良さは、国際連盟脱退を突きつけた日本とそれを焚き付け、礼賛した戦前の日本の新聞と同じである。産経は、国際協調主義に立って平和を希求する戦後の日本とは、まるで異なる価値観を持っている。ちなみに、松岡洋右は産経が崇める安倍首相の縁戚。歴史は、妙なところでクロスする。

■姑息な産経の情報発信
 ところで、勇ましい産経新聞は、姑息な手法で情報発信するのがお得意だ。問題のコラムで、「日本を貶める日本人をあぶりだせ」という見出しをつけたのはネット配信の記事だけ。紙面には見出しがない(下の紙面参照)。

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 販売部数が少ない産経が、最も力を入れているのがネット配信。紙面では「新聞」を気どり、ネット上では倫理規定ギリギリの見出しを付けて、読者を扇動する。下は、今月18日に配信された記事の画面。産経が伝えたかったのは、「がんばれ自民」という見出しの一言だったとしか思えない。

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■ジャーナリストへの冒涜
 爆殺されたマルタの記者を題材に、結局は形を変えた政権擁護。産経新聞は、マルタの記者だけでなく、権力に立ち向かう全てのジャーナリストを冒涜しているとしか思えない。



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