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「脱労組」と野党再建の方向性

2017年10月27日 10:00

 終わってみれば自民党の圧勝。有権者が“安倍一強”を容認した形だが、自民党は風が吹かなくても勝てる政党であることを証明した選挙でもあった。
 自民党の強みは、小選挙区での圧倒的な力。企業や業界団体が分厚く支援し、地域に根ざした後援会組織がフル回転することで、票を積み上げる。加えて、野党を圧する地方議員の数とバーターで得られる創価学会票――。現状で野党候補が勝つ条件は、突風が吹くか、共産党を含めた共闘しかない。
 二大政党制がこの国に合うものとは思えないが、自民党に対峙する野党を作るための方向性について検証した。

■比例区は自民の負け
 自民党が圧勝したのは小選挙区における組織力の差。全国289の選挙区で自民党公認候補が得た票の合計は約2,650万票であるのに対し、野党の総得票は立憲民主党と希望の党、さらに共産党を加えても約2,100万票にしかならない。

小選挙区の得票小選挙区29.png

 だが、これをもって自民党の絶対優位と判断するのは早計だ。比例区の票を見てみると、自民党が約1,855万票であるのに対し、立憲・希望・共産の合計は2,516万票。小選挙区で野党がまとまった場合は、かなり違う結果が出ることを示唆している。小沢一郎氏の持論である「オリーブの木」構想は、極めて現実的な選択なのである。
 今回の総選挙はそれを可能とする絶好のチャンスだったが、小池百合子希望の党代表と前原誠司民進党代表が、「排除の論理」でつぶした形だ。大勝した自民党にとっては、小池・前原が最大の功労者ということになる。

比例区の得票比例29年.png

■自民が圧倒する地方議員の数
 自民党と野党の最大の違いは、地方議員の数である。都道府県議会の構成をみると、いずれの自治体でも自民党系が過半数を占めており、野党系は少数。市町村議会レベルになると、ほとんどが「保守系」で、野党系の議員が一人もいないといった議会は少なくない。田舎では、「野党」が日常の暮らしと隔絶した存在であることの証明だ。自民党と互角に渡り合おうとするなら、野党系の地方議員を一人でも多く育てることが絶対条件となる。しかし、それができない。なぜか――。

■求められる労組依存からの脱却
 旧民主党時代から民進党に至るまで、野党第一党の支持母体は労働組合の「連合」だ。立憲民主も希望も、連合の力なしでは戦えないのが実情である。厳しい言い方になるが、民進系議員の視線の先にあるのは労組。有権者そっちのけで支持母体を優先させるあまり、地域で地力をつけることがおろそかになっている。
 後援会組織が未整備のままでは、風頼みの選挙になるのが必至。今回の総選挙では、多くの民進党議員が小池ブランドに依存して変節し、憲法や安保法制といった自民党との対立軸を自ら放棄してしまった。信頼を失った政治家が、選挙で勝てるわけがない。

 “古い手法”なのかもしれないが、後援会が選挙の重要な基盤であることは疑う余地がない。地域の支持者を増やすことで、地方議員を育てることも可能。だが、野党にはそれができない。労組に引きずられているからだ。
 例えば、憲法改正や安保法制には旧総評系が反対、旧同盟系が賛成。原発に関しても、電力総連や電機連合が推進の立場であるため、民進党の議員たちは言いたいことも言えない状態が続いてきた。「原発ゼロ」と発言すれば、電力労組から猛烈な抗議が来る。民進の議員たちが、原発に関してあやふやな態度に終始してきたのはこのためだ。重要政策で党内議論がまとまらない原因は、連合に依拠する体質にある。これでは地域後援会の整備などできない。

 民進党離党組が立憲民主と希望に分かれたが、迷走する希望に対し、立憲民主党の打ち出した公約はじつに分かりやすい。原発には、再稼働も含めて反対。憲法に関する議論はするが、安保法制を前提とする改正には反対。消費増税は認めないというものだ。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設も見直し――。国民の思いを汲み取ったのは事実で、議席3倍増の躍進はその証明だろう。
 一部の民間労組は反発するだろうが、半数以上の国民は同党の掲げた方向性を支持する。どちらを選ぶべきかはハッキリしている。野党勢力が自民党と対峙するためには、一部の労組と決別してでも自らの信じる政策の実現に政治生命をかけるしかない。
 地域では、自民党の政策に疑問を持つ人が半数以上はいるはず。そうした人たちとひざを突き合わせて話し合い、後援会組織を作ることに専念すべきだろう。二大政党制を磨くのなら、右や左ではなく政策の方向性で違いを鮮明にし、地域に根ざした野党を作り上げるしかない。断っておくが、戦争反対や原発ゼロは、決して「左」の論理ではない。



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