労働基準監督署の外郭団体「公益法人 鹿児島県労働基準協会」の内部で、国家資格である「ガス溶接作業者」の試験を巡り不正が行われていたことが分かった。
不正の手口は、筆記試験の答案用紙を偽造し、合格ラインに届くよう仕組んだというもの。同協会は不正を知りながら公表しておらず、事実上の隠蔽を行っていた。
HUNTERの取材に応えた複数の現役職員は、答案用紙の偽造と組織ぐるみの隠ぺいを認めている。
■労基の外郭 地場有力企業の代表らが役員
都道府県ごとに組織される労働基準協会は、労働基準監督署の外郭団体。労働基準法や労働安全衛生法等の関係法令に基づき、勤労者の福祉向上を図る目的で労働条件等に関する各種啓発事業を行っているほか、国家資格であるクレーンやフォークリフトといった様々な建設機械の運転、特定化学物質、石綿作業主任者などの技能講習を実施している。役員には、都道府県内に本社を置く有力企業の代表者らが就任。収益の柱は各種講習の受講費や健康診断費、その他会員の事業所から会費も徴収している。
鹿児島県労働基準協会は、鹿児島市新屋敷町に本部事務局を置き、川内、鹿屋、加治木などの8支部が存在。その他、教習所、ヘルスサポートセンターといった施設を有している。
■不正、組織的に隠蔽
不正が行われたのは、同協会加世田支部で実施されたガス溶接作業者技能講習の最後となる筆記試験。合格ラインに達しなかった受講者の答案用紙を偽造し、試験をパスするよう仕組んでいた。
誰も気づくはずのない不正が発覚したのは、偽造された答案用紙と不合格のはずの答案用紙の2枚を、加世田支部が誤って協会本部に送ったため。国家資格の試験で行われた不正に協会内部は大騒ぎとなったが、結果的に幹部が隠蔽。多くの職員が知るところとなっているが、これまで外部には漏れていないという。一連の経緯について、HUNTERのの取材に応じた複数の職員が事実関係を認めている。
ある職員の話。「いつかバレると思っていた。本部や加世田支部だけでなく、他の支部の職員も不正があったことを知っている。幹部が隠しても、どこかで話が漏れるものだ。国家資格の試験で、答案用紙を作り変えるなど犯罪行為に等しく、実力のない人間を合格させたとすれば、事故につながる可能性もある。協会は、この際しっかりと膿を出すべきだろう」
国家資格に関する試験の答案用紙を偽造するという犯罪的行為を、なぜ公表しなかったのか?同協会を訪ね常勤の専務理事に話を聞いたが、「誰に聞いた?」「証拠はあるのか?」。裏返せば事実関係を認めた形ともいえるが、正式には否定も肯定もしていない。改めて文書取材を行ったが、出稿までに回答はなかった。
労働基準監督署が所管する外郭団体での不正。国家資格の正当性に、重大な疑義が生じている。