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論語読みの論語知らず

2017年7月27日 09:25

gennpatu 1864410756--2.jpg 老子は「大道廃れて仁義あり」と喝破した。大道とは人が歩むべき正しい道のこと。仁だの義だのと騒ぎ立てるのは、道理が失われた世の中だからこそだと老子はいう。
 きれいごとを並べ立てる人間ほど、裏の顔が違っているのが相場。日本の政治家を見ていると、“なるほど”と唸るしかない。「論語」の教えや「真摯」を連発していた安倍首相や閣僚たちが、国会審議でそれを証明してみせた。

■論語好きの安倍首相だが……
 よほど孔子がお好きなのだろう。支持率低下に悩む安倍さんがは、論語の一節を引用する機会が多い。先月19日の緊急記者会見では、加計学園の獣医学部新設に触れ「信なくば立たず」「何か指摘があれば、そのつど真摯に説明責任を果たしていく」と明言。今月23日の日本青年会議所(JC)会頭との公開対談では、「『六十にして耳順(したが)う』と言う。私はあまり人の話を聞かないイメージがあるけど、結構人の話を聞くんです」と語っている。

 「信なくば立たず」は安倍首相がよく使う言葉で、正確にいえば「民信なくば立たず」。孔子は、治世上で大切なものとして軍備・食糧・民衆の信頼の三つを挙げ、中でも重要なのが信頼であると説いた。政治は民衆の信頼なくしては成り立たないということだが、24日から25日にかけて開かれた衆・参予算委員会の閉会中審査で見せた安倍首相の姿は、とうてい「信頼」を勝ち得るものではなかった。言葉は丁寧だが、説明の中身は空虚。付け焼刃の低姿勢が、疑惑を膨らませた形だ。

 「六十にして耳順う」も論語の一節。「吾十有五にして学に志す、三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、六十にして耳順う、七十にして心の欲する所に従えども、矩を踰(こ)えず」は、漢文の教科書では定番だ。「耳順」は、人の話によく耳を傾けるという意味だが、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安全保障法制、共謀罪法と国民の声を黙殺してきた首相には縁遠い言葉。沖縄の民意無視でも明らかなように、首相が人の言葉に耳を貸すことはない。

■「真摯」連発も……
 「何か指摘があればその都度、真摯に説明責任を果たしていく」も、空証文だった。首相への質問なのに、再三山本幸三特区担当相を答弁に立たせ、審議が止まることしばしば。首相が真摯に説明責任を果たしていると感じた国民は、皆無に近かったろう。安倍側近の山本氏は野党の議員に、「細かいことまで総理に聞くな」。政権の姿勢は、やはり「真摯」とは無縁だった。

 孔子、老子の言葉ではないが、首相も使った「真摯」で逃げるのが、政治家の常套手段。「真摯に反省」「批判を真摯に受け止め」と言っておけば、格好がつくと思っているらしい。このところ、首相をはじめ稲田朋美防衛省、菅義偉官房副長官などが「真摯」を連発してきたが、その後の言動には真摯さがまったく伴っていない。

 都議選の応援演説で、「(2期目の当選を)防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたいと思っている」と自衛隊法や公職選挙法に抵触する発言を行い、都議選敗北の一因を作った稲田防衛相。批判を真摯に受け止めるとしていたが、南スーダン PKO派遣部隊の日報問題をめぐって、隠蔽に関わっていたことが発覚。いまや、政権の安全保障を崩壊させる存在となっている。だが、彼女は辞めない。

 民主党政権時代、当時の一川保夫防衛相を政治とカネの問題で追求した稲田氏は、一川氏を「安全保障の素人」「部下に厳しくて自分に甘い。決して責任を取らない。不用意な発言が多すぎる」などと罵倒。「あなたは自分の役割を分かっているのか?あなたの役目は国を守ることであって、あなたの身の保身を守ることではありませんよ!いい加減にしてください」などと厳しい言葉で辞任を迫っていた。自身の言葉に責任を持つのが政治家。「安全保障の素人」「下に厳しくて自分に甘い」「決して責任を取らない」「不用意な発言が多すぎる」稲田氏は、即刻辞任すべきだろう。

■言葉の影響を理解しない二階氏
 一方、「信なくば立たず」も「耳順」も「真摯」も無関係とばかり、本音をむき出しに語る政治家もいる。自民党の二階俊博幹事長。加計学園疑惑で内閣支持率が急落したことに業を煮やしたのか、自派の会合で「いい加減なことを言って、そればかり喜んで書く人おるでしょ。われわれも、ちゃんと料金払って(新聞を)購読しているんだから、書く方も責任を持ってくださいよ」と新聞に逆ギレ。さらに、「今、自民党がいろいろ言われていることは知っている。しかしそんなことに耳を貸さないで、正々堂々と自信を持ち、次の世代にこの国をバトンタッチできるまで頑張らなくてはならない」と発言し、国民の批判を黙殺する構えを示した。今年6月には都議選の応援演説で「落とすなら落としてみろ。マスコミの人たちが選挙を左右すると思ったら大間違いだ。われわれはお金を払って(新聞を)買ってんだ」と語り、結果自民は惨敗。老練な割に、二階氏は言葉の影響度が理解できていない。

■劣化した政治
 思えば、政治家の言葉が軽くなったのは、「三角大福中」と言われた時代が終わりを告げた頃から。見栄えの良さと饒舌で当選する政治家が増えてからは、政治の質が著しく劣化した。ただし、学歴社会だけあって議員さんたちは知識だけ豊富。口だけなら、一流だ。論語の一節を引用するもよし、「真摯」を連発するものよかろう。だが世間では、知識を行動に生かせぬ連中のことを「論語読みの論語知らず」という。代表格が安倍さんであることは言うまでもない。



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