国家戦略特区を利用した「学部新設」に、もう一つの疑惑が浮上しそうだ。
特区認定を受け今年4月に開学した「国際医療福祉大学・高邦会グループ」の医学部新設を巡り、申請自治体の千葉県成田市が、HUNTERの情報公開請求に対し、関連文書の隠蔽を図ろうとしていたことが分かった。
同市が隠そうとしていたのは、法人側に無償で提供された医学部用地の鑑定評価書。4か月がかりで開示された文書の中に鑑定評価書が含まれておらず、成田市に確認を求めたところ、「鑑定書はある」とした上で同市側の判断で開示対象から外したことを認めている。
■露骨な隠蔽姿勢
成田市への情報公開請求は3月初旬。医学部新設に関する文書について幅広く請求をかけたつもりだったが、開示されたものが同市と国際医療福祉大学との間で交わされた協定書などごく一部の文書だったため、やむなく「医学部新設に関する全ての文書」として再度の開示請求を行っていた。
これに対し成田市は、「対象文書の絞り込みが必要」という理由で対応を引き延ばし、正式に請求を受け付けたあとも「文書が大量」などとして開示決定期限を2か月も延長していた。
請求から4か月。ようやく開示決定が出たものの、対象としてリストに記された文書の内容や分量は不明。国際医療福祉大学・高邦会グループ側との協議の記録を作成していないなど、不自然な点が目立つ形となっていた。特区絡みの出張関連文書を、一方的に開示対象から外していたことも分かっている。
所定の手続きを経て、開示された文書のコピーが送られてきたのが今月21日。約750枚程度の文書は、どこか違和感を覚えるものだった。“あるべきものが、ない”――。例えば、会議の通知や決済があるのに、議事録はほとんどない。医学部新設に向けた動きの外形だけは分かるが、核心部分に関する文書が何一つないのだ。一番分かりやすかったのは、『不動産鑑定の依頼について』という件名の文書。民間業者に、医学部建設用地の鑑定評価を依頼した時の伺い文書や見積りなどが揃っているのに、肝心の鑑定評価書が含まれていなかった。
■公文書が登録制?
役所が取得した土地の鑑定評価書は、適正な税金支出が行われたかどうかを判断する上での重要な資料。説明責任を果たす上でも、欠かすことのできない資料だ。請求があれば、どこの自治体もスンナリ開示するのが普通。なのに、成田市はこれを省いていた。
鑑定評価書の存否確認も含めて、事業を所管する同市国家戦略特区推進課に説明を求めたところ、「鑑定書はあるが、こちらの判断で省いた」と言う。なぜ開示されていないのか追及したところ、返ってきたのは役所としての適性を疑わざるを得ない、「鑑定評価書を公文書として登録していなかった」という言い訳だった。
公文書を「登録制」で規定する役所など聞いたことがない。念のため成田市の情報公開条例を確認してみたが、同条例が定めた「公文書」は、≪実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものをいう≫――どこにも「登録」という文言は出てこない。そもそも、役所の勝手で文書をより分け、登録したものだけを「公文書」にするというのでは情報公開は骨抜き。役所にとって不都合な文書が容易に隠されてしまう。登録うんぬんという説明自体、あり得ない話なのだ。
成田市の狙いは、明らかに“隠蔽”だ。強く抗議したところ、再請求すれば早急に開示するというので矛を収めたが、時間をかけて情報開示を遅らせ、不都合な文書は出さずに済ませようという成田市の魂胆が透けて見える経緯だった。
成田市の戦略特区は、「国際医療福祉大学・高邦会グループありき」で進んだ典型的なケース。公費支出に支えられた事業形態、役所による関連文書の隠蔽と、加計学園とまるで同じ形だ。「次の疑惑は成田市・高邦会の医学部新設」――永田町の噂が、真実味を帯び始めた。