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政権ぐるみで便宜供与 前川証言を裏付ける特区諮問会議議事録(下)

2017年5月30日 09:05

1-岡山.png 安倍晋三首相の“腹心の友”が理事長を務める学校法人・加計学園の獣医学部新設問題。「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと記された文書の存在をめぐる前川喜平前文部科学事務次官の爆弾証言によって、国家戦力特区を使った便宜供与への疑いが深まった。
 戦略特区の方向性を決定付けてきたのは「国家戦略特別区域諮問会議」。議事録を確認してみると、同会議の関係者すべてが、前川氏の証言を裏付けるような動きをしていたことが分かる。(写真は、加計学園・岡山理科大学。同グループHPより)

■諮問会議でアリバイ作り
 前川氏は、今月25日に開いた記者会見で、次のように述べている。
「(文科省の大学設置基準には)獣医学部は新設させないという基準が既にある。将来需要が見込まれないためだ。どこが責任を持って見通しを立てるのか。農水省は獣医師国家資格を所管している。どんな分野でどういう獣医師が必要か、見通してくれないといけない。文科省としては責任ある省庁がはっきりと見通してくれない限りは学部の新設には踏み切れない」

 11月9日の諮問会議には、臨時議員として松野博一文科大臣と山本有二農水大臣が出席していた。同日の議事録には、前回の会議で安倍総理が示した“ご意向”を山本幸三特区担当大臣が説明。「法改正を要しないものは直ちに実現に向けた措置を行うよう総理から御指示をいただきましたので、今般、関係各省と合意が得られたものを、早速、本諮問会議の案としてとりまとめたものであります。内容といたしましては、先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置、農家民宿等の宿泊事業者による旅行商品の企画・提供の解禁となっております」と話した後で、松野、山本両大臣に発言を求めていた。

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 議論の流れからいって、獣医学部を所管する文科省と農水省のトップが、加計学園の学部新設を認めた格好。とくに農水省は、前川前次官が会見で語った「どんな分野でどういう獣医師が必要か」という問いに回答を示した形となっていた。政府の上層部が、ぐるになってアリバイを作り上げたということだ。

■文科省告示めぐりオーバーラン
 諮問会議における獣医学部新設に関する議論は、内閣府あたりがシナリオを書き、関係者がそれぞれの役割を演じた形だ。しかし、急いだあまりシナリオの一部が狂ったらしく、ワーキングチーム座長の八田達夫氏がオーバーランしていた。それが、下の発言部分――「先ほど文科大臣のお話にもありましたように、この件については、今度はちゃんと告示で対象にしようということになったので、改正ができるようになった」――だ。

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 この日、松野博一文科大臣が発言したのは1回だけ。前掲の議事録に記されたものがそれだ。「文部科学省におきましては、設置許可申請については、大学設置認可にかかわる基準に基づき、適切に審査を行ってまいる考えでございます」。八田発言にある「今度はちゃんと告示で対象にしようということになったので、改正ができるようになった」などという発言内容は、議事録のどこを探しても出てこない。シナリオにはあったのだろうが、結論を急いだ八田氏の思い込みが、こうしたオーバーランを生んだとしか思えない。

 諮問会議の議論に出てくる「告示」とは、前稿で述べた文科省告示のこと。同省が平成15年に告示した「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準」第1条第4号には、大学の新設等に関する認可基準について「歯科医師、獣医師及び船舶職員の養成に係る大学等の設置若しくは収容定員増又は医師の養成に係る大学等の設置でないこと」と規定しており、獣医師養成のための学校・学部の新設は認められていなかった。

 諮問会議の結果を受けた文科省は昨年11月18日から12月17日の期間で、獣医学部の新設を認める告示案についてパブリックコメントを実施。反対意見多数を無視して今年1月4日、獣医学部新設を認める告示を出していた。獣医学部新設は、学会も日本獣医師会も反対していたこと。ごく一部の人間だけで構成された諮問会議が、50年以上慎重姿勢だった文科省もねじ伏せ、国民が望みもしない加計学園の獣医学部新設に道をひらいていた。“総理とお友達”が、行政を歪めたのは確かだ。

■便宜供与は明らかだ
 改めて、前川証言に出てくる「官邸の最高レベルが言っている」・「総理のご意向」といった文言が記された文書の受け取り日を、加計学園の獣医学部新設に向けた動きに当てはめてみるとこうなる。

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 一連の流れは、前川前次官の告発内容を証明したも同然。政府内の特区関係者をあげて、加計学園の獣医学部新設を後押ししたのは紛れもない事実だろう。明らかに“腹心の友”への便宜供与。「岩盤規制に穴をあけた」などという安倍晋三の強がりが、真っ赤な嘘であることもまた事実だ。



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