政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
社会

辺野古の海は誰のものか ―漁業権への疑問―

2017年5月11日 09:00

辺野古-thumb-280x190-11433.jpg 安倍政権が先月25日、沖縄県名護市辺野古の新基地建設に向け、米軍キャンプ・シュワブ沿岸部を埋め立てる護岸工事に着手した。ついに始まった埋め立て工事。大量の土砂などが投下されれば、ジュゴンが生息するという辺野古の海は原状回復が困難となる。
 平成26年に事業開始を強行して以来、沖縄の民意を無視し続ける安倍政権。強硬姿勢の根拠となっているのは、辺野古沖の漁業権を地元漁協が放棄したという事実だ。漁業権放棄に伴う2度にわたる契約で、国から漁協に支払われた補償金は42億円と言われており、漁協が辺野古の海を売った形となっている。沖縄の海は、誰のものか――。
(写真は辺野古海岸。フェンスの向こう側、米軍キャンプ・シュワブの沿岸部が埋め立て予定海面)

■漁業権放棄をめぐる動き
 「名護漁協の漁業権放棄決議によって許可の前提となる漁業権が存在しなくなっており、岩礁破砕許可を取得する必要はない」と主張し、県の許可を得ないまま工事を続ける政府。一方、沖縄県側は「知事の承認を得ない漁業権の放棄は成立しない」として、岩礁破砕許可のない工事は違法だとする立場だ。漁業権のある、なしで争う構図だが、そもそも沖縄の海は県民全体のもので、漁協の判断だけに依拠して埋め立てにゴーサインを出せるものではあるまい。沖縄防衛局への情報公開請求で入手した文書で、漁業権をめぐる動きを確認してみた。

 はじめに、政府が「漁業権が消滅した」と主張する区域について確認しておきたい。下の図は、今年1月に沖縄防衛局と名護漁協との間で交わされた「損失補償契約書」添付図面の一部。平成26年と今年1月の契約によって、「臨時制限区域」(常時立ち入り禁止区域)とされる辺野古沖約560ヘクタール全域の漁業権が放棄されている。青い矢印で示したのが平成26年の補償契約によって事実上業業権が放棄された区域。赤い矢印で示したのが、今年1月に結ばれた補償契約によって漁業権が消滅したとされる区域である。

20170511_h01-02.jpg

 辺野古海域の漁業権を有していた名護漁業協同組合は平成25年、キャンプ・シュワブ沿岸海域の埋め立てに合意する特別決議を行い、翌26年5月に埋め立て工事に伴う漁業補償金として約36億円の支払いを受ける契約を沖縄防衛局と締結。同漁協の組合員は約90人、準組合員は約30で、一人当たり2,000万円前後の補償金が分配されたと言われている。下が、その時の契約書だ。

20170511_h01-03.jpg 20170511_h01-04.jpg

 損失補償金と引き換えに、“埋め立て区域内の漁業権を放棄すること”、“工事着手から5年間、操業制限杙域内での漁を行わないこと”を定めている。この時の漁業権放棄は、キャンプ・シュワブ沿岸部にあたる167ヘクタールの区域についてのもの。当時の沖縄県知事は、辺野古の埋め立てを承認した仲井眞弘多氏で、政府が埋め立て工事を続けるために必要となる外側区域(約400ヘクタール)の岩礁破砕許可は、仲井眞県政下でスンナリ出るものと見られていた。

 状況を一変させたのは、この年の暮れ、「あらゆる手段を講じて辺野古の基地建設を止める」と公約して知事選に勝利した翁長雄志氏の登場だった。沖縄の心を売ったとして批判を浴びた仲井真氏を大差で破った翁長知事は、国との対決姿勢を鮮明に――。当然、岩礁破砕許可は出ない。

 そこで政府が考え出したのが、岩礁破砕許可を県に申請しないで済む方策。沖縄防衛局は昨年秋以降、密かに名護漁協側に接触。工事区域だけでなく、周辺の臨時制限区域の漁業権も併せて放棄する特別決議を行うよう漁協に働きかけていた。餌が、補償金の積み増しであることは言うまでもない。名護漁協は昨年11月28日、臨時総会を開いて、漁業権放棄の特別決議を行っていた。決議に伴う損失補償契約が結ばれたのは本年1月13日。下がその契約書で、補償額は黒塗りになっているが、マスコミ報道などで金額が約6億円であることが分かっている。

20170511_h01-05.jpg 20170511_h01-06.jpeg

■秘密裏交渉、ドタバタと6億円で決着

 前述したように、昨年秋から今年1月にかけての沖縄防衛局と名護業況側との交渉は秘密裏に行われたもの。表に出てくる公文書を見る限り、通常は時間をかけて行われる役所と民間側との交渉が、ごく短期間で進んでいた。

1交渉過程.png

 防衛局が、漁協に漁業権放棄の要請文を発出したのが昨年11月11日。名護漁協は、それからわずか17日で漁業権放棄の特別議決を行っていた。両者の間で交わされたやり取りを記す文書の記述を見れば、まさに出来レース。裏交渉の記録は、一切残されていない。名護漁協に支払われた補償金は計約42億円。漁協の組合員は、一人当たり数千万円のカネで沖縄の海を売り渡した格好だ。「苦渋の選択」(地元関係者)なのかもしれないが、海が漁協だけの判断で汚されていいはずがない。

■海は漁協のものではない
 海沿いで行われる原子力発電所の建設や公共事業で、権力側がまずターゲットにするのは漁協だ。漁業権放棄と引き換えに莫大な補償金が支払われ、事業にゴーサインが出される。だが、どう考えてもこの構図自体が間違いだ。漁業権は法的に認められたものだが、海は国民固有の財産。漁協にすべての権利があるわけではあるまい。ましてや、辺野古移設反対は、沖縄県の民意。辺野古のを抱える名護市の市長選、市議選、沖縄県知事選や衆参の選挙で、基地移設反対を訴えた「オール沖縄」が完勝してきたことでも明らかだ。県民の一部に過ぎない漁協がOKだから移設工事GOでは、民主主義は成り立つまい。辺野古の海は沖縄県民の宝、もちろん日本の宝でもある。「漁協が業業権を放棄したから、岩礁を破砕し、埋め立てを行ってもよい」という理屈には到底賛同できない。42億円で売り渡された辺野古の海が埋め立てられれば、どれだけカネを積んでも元には戻らないのである。



【関連記事】
ワンショット
 47年前と変わらぬ雄々しい姿が、そこにあった。太陽の塔。...
過去のワンショットはこちら▼
記事へのご意見はこちら
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲