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「米艦防護」で露呈した安倍のまやかし

2017年5月 8日 08:45

1-会見安倍.png 安倍晋三首相が集団的自衛権の行使容認を閣議決定した折に強調した「邦人保護」という理由は、やはり絵空事だった。
 海上自衛隊の護衛艦2隻が今月1日から3日にかけて、太平洋上で米海軍の補給艦と合流し一緒に航行。安全保障関連法に基づく「米艦防護」が、初めて実施された。
 補給艦の行動は、米海軍の北朝鮮に対する示威活動の一環。海自の軍事共同によって、安倍首相がフリップまで持ち出して強調した「邦人保護のための米艦防護」が、国民を欺くための便法だったことを証明した形だ。(写真は官邸HPより)

■護衛される海自「ヘリ空母」が防護?
 今回の護衛艦「いずも」と「さざなみ」の出動は、目的自体が怪しいものだった。米国の艦艇は「補給艦」。攻撃力も防御力も皆無に等しく、並行する目的が「防護」であると説明されれば、納得できないものではない。しかし、主力となった自衛艦の性格を考えれば、素直に「米艦防護」が目的だったとは言い切れない。

 「いずも」と今年3月に就役した同型艦「かが」は最新鋭のヘリコプター搭載護衛艦で、ヘリコプターの発着スポットを5カ所有し、哨戒ヘリなど14機以上が搭載可能な「ヘリ空母」(下が「いずも」。海自HPより)。対艦ミサイル防御装置や魚雷防御装置などを備えているが攻撃力は2基の20ミリ機関砲程度という装備で、イージス艦などが周囲を航行し「守られる」のが普通だ。つまり、他の艦艇を護衛するには不適な自衛艦。もう一隻の「さざなみ」がいなければ、補給艦ともども簡単に敵の餌食になりかねない組み合わせだった。

いずも.jpg

■憲法違反
 米軍と海自による太平洋上の共同行動が、北朝鮮に対する威嚇の一環であったことは疑う余地がない。海自の艦艇2隻は15日に開催される国際観艦式に参加するためシンガポールに向かったが、米国の補給艦は北朝鮮の暴発に備えて日本海に展開する原子力空母などに燃料を補給すると見られているからだ。米国が北朝鮮への軍事的圧力を強化しているのは周知の通り。補給艦の任務が対北朝鮮艦隊への燃料補給ならば、これを護衛した海自護衛艦の目的は米軍艦隊と同じということになる。

米艦防護は“たてまえ”。北朝鮮に対する“威嚇”が目的だったとすれば、憲法9条「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」の規定に抵触するのは明らかだろう。海自護衛艦による「威嚇」は憲法違反である。

■安倍が強調したのは「邦人保護」
 そもそも、集団的自衛権の行使は「海外邦人の保護」が、第一の目的だったのではないか。2014年5月、集団的自衛権の行使容認とそれに伴う解釈改憲を閣議決定した安倍首相は、会見を行い、パネルを使ってこう説明していた。

 ――「今や海外に住む日本人は150万人、さらに年間1,800万人の日本人が海外に出かけていく時代です。その場所で突然紛争が起こることも考えられます。そこから逃げようとする日本人を、同盟国であり、能力を有する米国が救助、輸送しているとき、日本近海で攻撃があるかもしれない。このような場合でも日本自身が攻撃を受けていなければ、日本人が乗っているこの米国の船を日本の自衛隊は守ることができない、これが憲法の現在の解釈です。

 ――紛争国から逃れようとしているお父さんやお母さん、おじいさんやおばあさん、子供たちかもしれない。彼らが乗っている米国の船を、いま私たちは守ることができない。

 “だから憲法解釈を変えて、集団的自衛権の行使ができるようにする必要がある”というのが安倍の主張の本旨。米艦防護の目的は、あくまでも“乗船している邦人を救うため”で、首相が使ったフリップには、たしかに邦人親子とみられる人物が描かれていた(下参照)。

フリップ-thumb-600x423-10291-thumb-500x352-14845.png

 安保法制は、安倍が閣議決定を強行した集団的自衛権の行使を実現するためのもの。行使目的がコロコロと変わるようでは、強行採決した安保法制自体の意味合いも変わる。安保法の国会審議が行われていた当時の防衛大臣は「邦人が乗っていない米艦も、防護の対象=集団的自衛権の行使対象=になり得る」との見解を示していたが、集団的自衛権の行使が必要なケースとして首相が国民に例示してきたのは、紛争地域から避難する在外邦人を日本へ輸送する米艦が攻撃を受けた場合のことだけ。北朝鮮を威嚇する目的で集団的自衛権を行使(今回の場合は「米艦防護」)することなど、一度も例示されていない。安倍の説明は、まさに「絵空事」。国民は、まんまと騙されたというわけだ。

■「戦争」に向けて道普請着々
 安倍政権は昨年、安保法制に基づき、南スーダンに派遣されていた陸上自衛隊の国連平和維持活動(PKO)部隊に「駆けつけ警護」の任務を付与しており、集団的自衛権の行使としては今回の「米艦防護」が2例目。どさくさ紛れに、既成事実だけが積み上げられている状況だ。緊迫する朝鮮半島情勢に乗っかる形で、巡行ミサイルの配備まで検討されていることが報じられており、「戦争への道普請」は着々と進む。ペテン師安倍が、今度はどんなまやかしを使うのか?



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