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僭越ながら:論

驕る政府は……

2015年6月 1日 09:30

国会議事堂 少しはましな説明でも聞けるのかと期待していたが、安全保障関連法案の国会論戦がスタートしたとたん、政府側答弁の矛盾が噴出。事実上の答弁拒否や、質問者を愚弄する発言などが相次ぎ、「分かりやすい説明」という安倍首相の言葉が、真っ赤な嘘だったことを露呈してしまった。
 驕り高ぶる政府首脳の姿勢には呆れるばかり。首相や閣僚には、野党議員の後ろに控える「主権者」の姿が見えていない。

答えぬ理由
 とにかく、かみ合わない。先月26日に始まった衆院の平和安全法制特別委員会。野党議員が尋ねたことに対し、首相はもとより関係閣僚からもきちんとした答弁が返ってこない。29日の質疑では、民主党議員が周辺事態を巡る自衛隊派遣の条件について、平成10年の「軍事的な波及のない事態は周辺事態に該当しない」という政府見解が現在も維持されているかと質したのに対し、岸田外相は「平成11年の『政府統一見解』が示され、それを今日まで維持している」と答弁。10年の見解を維持しているのかどうかについては明確な回答を避け、3度の再質問にも同じ文言を繰り返すにとどまった。事実上の答弁拒否。怒った野党側委員が一斉に退席し、審議不能で委員会を閉じてしまった。

 はぐらかしや議論のすり替えは安倍内閣の常套手段。首相自身の答弁を聞いても、訊かれたことに正面から答えようとしていない。延々と持論を展開し、終わってみれば無回答というケースばかりだ。かくして議論は枝葉末節で停滞。安全保障法制についての本質的な議論など、期待できそうにない。もっとも、政府側にしてみれば、それこそ願ったりかなったり。国民世論が沸騰しないうちに、さっさと採決に持ち込もうというのが本音だろう。首相の言う「分かりやすい説明」など、望むべくもない。

どうみても「戦争法案」
 そもそも、審議されている法案の内容が膨大なうえ、専門用語の解釈が多様で簡単に理解するのは不可能に近い。5月14日に閣議決定され、翌日国会に提出された安全保障法案は2本。新たに恒久法として整備される「国際平和支援法案」と「平和安全法制整備法」である。平和の二文字が付けられてはいるが、内容はどう見ても戦争を可能とするための法案。集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈を変えた時点で、政権の意図は明白になっている。

 法案の一つである恒久法の正式名称は「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」。簡単に言えば、戦争を行っている他国の軍隊への後方支援を、随時可能にするための法律である。紛争地域での後方支援は、即ち兵站(へいたん)の一部。攻撃目標になることは明らかだが、政府はそれさえ認めようとしない。

 一方、安全保障法制の議論を分かりにくくしている原因でもある「平和安全法制整備法」。正式な名称は「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」である。集団的自衛権の行使を実現し、いつでもどこでも戦争のできる国にするためには、新法とは別に、最低でも10本の現行法を改正しなければならない。法整備を急ぐ安倍政権は、本来1本づつ審議すべきところをまとめて1本の法律でやっつけてしまおうというのである。下がその10本の法律だ。

 1、自衛隊法

 2、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(「PKO協力法」)

 3、周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(「周辺事態法」)

 4、周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律(「船舶検査活動法」)

 5、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(「武力攻撃事態対処法」)

 6、武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律(「米軍行動円滑化法」)

 7、武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律(「特定公共施設利用法」)

 8、武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律(「外国軍用品等海上輸送規制法」)

 9、武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律(「捕虜取扱い法」)

 10、国家安全保障会議設置法(「国家安全保障会議(NSC)設置法」)

 それぞれの法律の一部を削ったり、加筆したりの作業を、まとめて「平和安全法制整備法」で処理する。法律によっては、条文の字句がわずかに変わるだけで、目的や性格まで変わる可能性ある。例えば周辺事態法――後方支援における地理的条件を撤廃したことで法律の名称まで変わってしまうが、こうなると改正というより新法整備。安倍政権以前なら、この法改正だけで1国会かけていただろう。1本の法律改正に1国会かけても足りそうにない内容を含んでいるのに、10本の法律改正を一つの法律で済まそうというのだから乱暴に過ぎる。まさに十把ひとからげ。議論に要する時間を、できる限り減らしたいという政権の下心が透けて見える。

 焦っているのか、頭が悪いのか、首相は平然と嘘をつく。「戦争に巻き込まれるのことはない」と首相は断言しているが、法案が成立すれば、戦闘地域での後方支援が可能となり、これは現在の自衛隊派遣とまったく違う想定が必要となることを意味している。日本が行っているPKO活動には、憲法9条との関係に問題を生じさせないよう、いくつかの基本方針が決められている。いわゆる「PKO5原則」だ。

 1、紛争当事国の間で停戦の合意が成立していること
 2、当該平和維持隊が活動する地域に属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること
 3、当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的な立場を厳守すること
 4、上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は撤収することができること
 5、武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること

 つまり、支援活動は戦闘が終わった地域であることが前提。だが、法案成立が実現してしまえば、このPKO5原則も事実上の撤廃。新法制のもと、自衛隊が出ていくのは戦闘継続中の地域。危険性が増すのは言うまでもあるまい。

 重ねて述べるが、2本の法案が成立した場合、いかなるケースでも自衛隊の海外派遣が可能となる。法案が2本になったのは、安倍政権が目ざす「切れ目ない対応」をするためなのだ。日本は、世界中のどこででも、好きな時に戦争ができる国家へと生まれ変わる。

傲慢な政治の行く末
 法案の字句を取り上げ、政府側の見解をただしていくのは大事なことだ。しかし、最後までいまのようなかみ合わない議論を続けていれば、結局は時間切れ。政府与党は“審議は尽くした”として強行採決に打って出る。夏までの法案成立を米国で宣言した以上、長々と審議を続けるつもりなど首相にはハナから無い。政権は、現在の国会審議を「消化試合」と見ているフシがある。そのせいだろう、首相や閣僚の態度は傲慢そのものだ。

 27日、野党議員から「武力の行使」と「武器の使用」の違いを問われた中谷元防衛相は、「それが分からないなら議論ができない」と発言。野党側の猛反発を受けて、陳謝に追い込まれた。武力行使と武器使用の違いは、野党議員ならずとも国民の多くが聞きたいところ。しかし、元自衛官の中谷氏にとっては、ばかばかしくて答える気にならなかったのだろう。素人を卑下するのは、中途半端な専門家のやることだ。

 次いで28日の衆院特別委員会。今度は安倍首相が民主党の辻元清美氏に「早く質問しろよ」とヤジを飛ばし、議場が騒然となった。強気で鳴らす辻元氏も、唖然となるほどの醜いヤジ。質問の前提が長すぎる、というのが首相の弁明だが、これはとんだ言いがかりでしかない。自説を滔々とまくしたて、審議時間をむだに消費してきたのは安倍首相の方なのだ。日ごろから野党議員を目の敵にして、質問をせせら笑うことが多い首相の態度は、見ていて不愉快になるほど。政治家の傲慢は、時として国家を崩壊に導くことを忘れてはならない。

 傲慢な権力者が国家を破滅へと導いた例がある。戦前、松岡洋祐という山口県出身の政治家がいた。満州事変をめぐる国際連盟の勧告が採決される総会で、日本首席全権を務めたことで知られる。総会の席上、連盟脱退を宣言して颯爽と議場を後にした松岡は帰国後ヒーロー扱いされ、その後、日独伊三国同盟に向かって突き進む。三国同盟が対米戦の一因になったことは、歴史上の事実だ。

 じつはこの松岡、安倍首相の親戚筋にあたる。松岡の甥にあたるのが岸信介元首相。安倍首相は岸の孫だ。憲法改正を悲願とした岸を尊敬しているという安倍に、松岡の姿がダブって見える。ちなみに松岡は、戦後A級戦犯に指定され、東京裁判の最中に病死。国家を戦争に導いた責任をとることはなかった。“驕る平家は久しからず”というが……。



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