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トランプ氏独走 集団的自衛権と安保法の行方

2016年4月 1日 09:20

日本とアメリカの国旗 米大統領選の共和党候補指名争いでトップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏。暴言を吐くたびに支持率が上がり、当初“泡沫”と見られていた彼が、指名に必要な過半数の代議員(1,237人)を獲得しそうな勢いだ。
 そのトランプ氏が、報道機関のインタビューやテレビ局主催の対話集会で、日本の核兵器保有を容認する考えであることを明言。さらに、在日米軍の撤退をちらつかせ、駐留経費について、日本側の負担を大幅に増やすよう主張し始めた。
 米国内でトランプ氏に対する一定の支持がある以上、単なる暴言で済む話ではない。もしこの人物が大統領になった場合、安倍政権がやってきた集団的自衛権の行使容認や安保法はどうなるのか?

狂気の不動産屋 
 日本が世界で唯一の核被爆国であることは周知の事実。原爆を落としたのはアメリカだ。そのアメリカの大統領を目指す男が、核廃絶を願ってきた我が国に「核を持て」というのだから侮蔑も度を超えている。あげく、米軍に守って欲しければ「もっとカネを出せ」――。対北朝鮮対策として核兵器保有を勧めるのも、「いやならカネを出せ」という裏返しの脅しなのだろう。歴史を顧みないその姿勢は、狂気の振る舞いと言うしかない。そもそも、金満不動産屋ごときに米軍駐留経費の負担増を迫られるいわれはない。

在日米軍関係経費に20兆円
 現在、米軍のために支出されているのが3つの流れで構成される「在日米軍関係経費」。1978年度から垂れ流されてきた「在日米軍関係経費」を≪在日米軍駐留関係経費≫≪SACO関連経費≫≪米軍再編関係費≫の3つに分類し、年度別にまとめたのが下の表である。

在日米軍関係経費

【在日米軍駐留関係経費】
 「地域協定に基づく支出」と「特別協定に基づく支出」、「提供国有財産借上費」など4つの支出費目を足したもの。このうち「地域協定に基づく支出」と「特別協定に基づく支出」の合計が、いわゆる『思いやり予算』。思いやり予算は、米軍基地で働く日本人従業員の給与などを日本側が受け持ち、米軍の負担を軽くするために1978年から始められた支出。

【SACO関連経費】
 SACOは「沖縄に関する特別行動委員会」。Special Action Committee on Okinawaの略。普天間飛行場(宜野湾市)を含む沖縄の米軍基地の整理・縮小等を協議した日米両国政府によって1995年に設置され、96年12月に最終報告を取りまとめた。 当時の首相は故・橋本龍太郎氏。97年から土地返還や訓練改善、騒音軽減のための事業が実施されており、それにかかるのがSACO関連経費。1997年から支出。

【米軍再編関係費】
 沖縄に駐留している海兵隊のグアムへの移転費や基地周辺自治体への再編交付金、新たな基地建設を含む移転に関する費用などで構成される。支出開始は第一次安倍内閣の2007年。2014年度に890億円だった米軍再編関係費は、翌年度になって1,426億円に――。

 1978年度から2015年度までの38年間に、米軍のために費消された税金は約20兆円。現在の国家予算(一般会計)の5分の1にあたる血税が、日米安保の代償として支払われてきたのである。平成28年度予算における防衛費は、約5兆540億円。これに在日米軍関係経費を加えると、6兆円近くの「軍事費」が吹っ飛ぶ計算だ。この上さらに「米軍のための負担を増やせ」と言うトランプ氏。だが、日本はアメリカの属国ではない。到底飲めない話だ。

 トランプ氏は日米安保を“片務協定”だと決めつけているが、これは安倍首相の考え方と同じだ。首相は、日本側が「米国を守る義務を負っていない」としてこの条約を“片務協定”と断定。不平等な条約だから、日本も相応の義務や責任を負うべきだと主張してきた。“双務性”を担保するために、集団的自衛権の行使を認めるというのが首相の論理だ。だが、そうなると20兆円もの米軍関係予算は何のための支出だったのか、という素朴な疑問が提起されることになる。米国にとって、その額が多いか少ないかは別として、日本が20兆円に上る負担を続けてきたのは事実。応分の負担をしてきた以上、日米安保は「片務条約」ではあるまい。米軍に守って欲しいばかりに軍国主義国家に戻るというのでは、安保条約の意味がない。

「トランプ大統領」になれば……
 「核兵器を持て」、「米軍のためにもっとカネを出せ」――トランプ氏が大統領に就任すれば、彼は本当にそう迫ってくるかもしれない。日本政府がこれを断れば、「日米安保を見直す」というのが氏の持論だ。するとどうなるか?米軍を守るための集団的自衛権は、行使されることなくお蔵入り。立法目的の主たる部分が消えるのだから、安保法も無意味。廃案に反対する政治家は、黙るしかなくなるだろう。日本は、もともと有する「自衛権」に基づき、自国を守るまでだ。そうなれば、安倍首相が理想としてきた本当の独立国家。もちろん、沖縄の米軍基地は全て返還され、辺野古の自然が壊される心配もなくなる。『トランプ大統領』……良いのか悪いのか。



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