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問われる「有事」への対応

2017年5月17日 09:25

gennpatu 1864410756--2.jpg 昭和53年、当時の統合幕僚会議議長栗栖弘臣氏が週刊誌上や会見で「現行の自衛隊法には穴があり、奇襲侵略を受けた場合、首相の防衛出動命令が出るまで動けない。第一線部隊指揮官が超法規的行動に出ることはあり得る」と発言。有事法制の早期整備を促す超法規発言によって更迭された。
 シビリアンコントロール(文民統制)の観点からすれば、不適切極まりない発言と言うしかないが、有事法制について議論を巻き起こすきっかけとなった出来事だった。
 北朝鮮のミサイル危機に揺れる日本。「有事」への対応はどうなっているのか。

■有事法制の歴史
 来栖氏の超法規発言は、当時のソ連を仮想的とみなしてのもの。その後の有事法制整備に大きな役割を果たしたのは事実だが、これより以前の昭和38年に、自衛隊統合幕僚会議が極秘裏に北朝鮮と韓国の間に第二次朝鮮戦争が勃発した場合のシミュレーション(机上作戦演習)を行っていたことが国会で暴露されている。

 「三矢研究」と呼ばれる図上演習で、朝鮮半島で武力衝突が発生することを前提に、日本防衛のための諸問題を統幕の立場から研究する目的だった。研究対象の中に、現行法制にない国家総動員体制の整備まで含めていたため社会問題化。これ以後、来栖発言が飛び出すまで有事法制を含む国防議論はタブー視されることとなる。

 敵の先制攻撃から、どうやって日本を守るのか――。来栖発言に虚をつかれた政府は、これをきっかけに有事の際の態勢をどう整えるべきかの研究に着手。小泉内閣の平成15年に、武力攻撃事態法を成立させ、安全保障会議設置法と自衛隊法を改正(有事関連三法=武力攻撃事態対処関連三法)。翌16年に、国民保護法などのいわゆる有事関連七法(事態対処法制関連七法)を成立させ、有事法制を整えている。

 有事関連法は、日本国憲法9条の規定に従って、あくまでも「専守防衛」を前提にしたもの。このうち武力攻撃事態法は、次の3つのケースを「有事」として規定していた。
・武力攻撃:我が国に対する外部からの武力攻撃。
・武力攻撃事態:武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態。
・武力攻撃予測事態:武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態。

 あくまでも「専守防衛」だが、攻撃を仕掛けてきた敵の基地を叩くことは妨げられないというのが日本政府の一貫した考え方。現行憲法下での有事の際の法整備としては、十分だった。ところが安倍政権は、集団的自衛権の行使容認に伴う安全保障法制整備のため、上記3ケースの他に“存立危機事態”(「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」)を新設。憲法解釈をねじ曲げ、専守防衛の枠を勝手に広げるという愚行を犯している。

■現行法制で対処可能 備えは不十分
 肝心の北朝鮮ミサイルへの備えはどうなっているのだろう?自衛隊のミサイル防衛システムは2段階。飛来する弾道ミサイルをイージス艦(6隻)から発射する艦対空ミサイル「SM3」で迎撃し、討ち漏らしたミサイルを地上配備の地対空ミサイル「PAC3」(32基)で撃ち落とすというものだ。だが、自衛隊の迎撃システムは万全とは言えず、「数」で劣るというのが定説になっている。北朝鮮はスカッド、ノドン、テポドン、ムスダン、KN08、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)といったミサイルを多数保有しており、今年3月のケースのように同時に複数を発射されれば、撃ち漏らすことになる。あとは米軍頼みというのでは、自衛隊の意味がない。そこで出てくるのが、先制攻撃を模索する動きである。

 北朝鮮の脅威を前に、安倍政権は敵基地攻撃能力を持つ巡航ミサイルの導入に向けて本格的な検討を開始した。自衛隊が北朝鮮の基地を叩く場合、航空機に頼るしかないのが現状。自衛隊が装備しているのは迎撃用ミサイルだけで、北朝鮮に届くミサイルを保有していないからだ。そこで巡航ミサイルというわけだが、敵の領土に届くミサイルは「専守防衛」の原則を逸脱する可能性が高い。求められているのは、迎撃システムの向上であり、外交努力による解決なのである。

 右傾化著しい日本に訪れた「北朝鮮有事」の脅威。だが、見てきたように、憲法を含む現行法制のなかで対応できること。もともとある「自衛権」を行使すれば済む話なのである。憲法に自衛隊を明記する必要もなければ、集団的自衛権を行使する必要もない。



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