明らかな不正。しかも役場の組織ぐるみである。鹿児島県南大隅町が、「耐震工事」か「新築」かの検討を進めてきた庁舎整備を巡って、町が業者に業務委託して作成させた検討資料の一部を、正式な納品前に都合良く利用していたことが分かった。
役場総務課による検討資料の納品検査は昨年の8月31日。同町は、その8日も前に開かれた有識者会議で資料の一部を配布して、庁舎整備の手法について、現状説明を行っていた。
作成された資料は、明らかに「新築」を有利と判断させる内容。森田俊彦町長が志向する「新築」に向けて議論を誘導するため、不完全な資料を使い回した疑いが濃い。
■検討委で配られた庁舎整備比較検討資料
業務委託の成果物は「南大隅町本庁舎改築比較検討資料」。同町が老朽化した庁舎の整備手法について検討を開始した昨年7月に、耐震工事か新築かを判断する資料を作成するため、民間の設計業者に契約金額約90万円で業務委託していた。契約上、資料の作成期間は平成28年7月7日から8月31日となっている。(*下が契約書。赤い囲みはHUNTER編集部)
町は8月1日に、町内の各種団体代表らで構成する「南大隅町庁舎整備有識者検討委員会」を設置。検討委は同月23日から5回の会議を開き、11月28日に「新庁舎として整備すべき」との答申結果を出したが、8月23日に開かれた1回目の会議で下のA3版資料を配布していた。
同町への情報公開請求で入手した検討委関連文書を確認したところ、この資料は、町から業務委託された鹿児島市内の設計業者が“成果物”として納品した「南大隅町本庁舎改築比較検討資料」(下が、その表紙)の1ページ目だった。検討委で配布された上掲の資料の下部中央にも、ページ数を示す「1」が印字されており、同じデータからプリントアウトされたものであることが分かる。
■明らかに不正 ― 検討資料配布は納品の8日前
一方、設計業者から南大隅町役場に「南大隅町本庁舎改築比較検討資料」が納品されたのは8月31日。この日に役場内で納品検査が行われたことは、開示された決済文書(下参照。赤い囲みとアンダーラインはHUNTER編集部)及び現場写真からも明らかだ。
前述したように、業者が納品した資料の1ページ目が配布されたのは、8月23日に開かれた検討委の1回目会議。つまり南大隅町は、検討資料の完成品を受け取る8日も前に、業者側資料の一部を事実上公表したということになる。未完成、不完全な資料を使って、町の重要課題を討議させた形。役所の手法としては明らかに「不正」であり、他の自治体ではあり得ない暴挙である。事実、九州地方のある県都の契約課職員は、次のように話す。
「納品検査前の成果物の一部を、住民の目にさらすなどあり得ない話だ。納期まで1週間以上あったというのが事実なら、それまでに何らかの変更点が出てもおかしくない。いかなる理由があれ、一部を切り取って公表するのは間違いだろう。南大隅町のやり方が通るのなら、納品検査が有名無実ということになる。不正と言われれば、否定できない。本市では絶対に起こり得ないことだ」
問題の資料には、「耐震工事=約3億5,000万円」「新築工事=約13億円」と、概算ながら予算額が示してある。しかし、納品前に検討委で配布された資料には、事業費の積算根拠が含まれておらず、数字の正確さが確認できない状態だった。新築工事費は、設計次第で大きく変わるのが普通。基本設計や本設計で業者が変われば、予算額が動く可能性が高い。ただでさえ流動的な事業費を、設計図書がそろわない段階で公表するということは、拙速というより無責任。町側が、ルールを無視して議論を急いだ証左だろう。
なぜ役場側は議論を急いだのか――。「南大隅町本庁舎改築比較検討資料」が納品される時期は、契約の段階で「8月31日」と決まっていた。ならば、検討委の開催は、「9月1日」以降に設定するのが道理だ。これまで述べてきた通り、検討委の第一回会議は「8月23日」。そこで、“存在しないはずの(納品前の)検討資料”が配布され、流れのまま「新庁舎として整備すべき」という結論が出された。問題の配布資料を見ると、耐震工事のデメリットばかりを浮き立たせる内容。新築工事については、いいことづくめの記述となっている。あらゆる証拠が指さしているのは、役場と業者が組んだ「新築」への誘導。次稿では、一連の流れを振り返って、南大隅・森田町政の欺瞞を詳報する。
(つづく)