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本土最南端の汚れた町長選 密着取材の顛末
ゴキブリ右翼が選挙妨害 雇い主は?

2017年4月20日 07:55

1-ポスター.jpg 南国鹿児島の静かな田舎町を、こわもての男たちが乗った街宣カーが走り回る。「核廃棄物を持ち込もうとしている」「町民を騙した」として大音量のスピーカーから流されていたのは、特定人物への攻撃。得体の知れない街宣車に「極悪人」とまで罵られたのは、今月11日告示、16日投開票の南大隅町長選挙に立候補を表明していた同町の元商工会長・肥後隆志氏だった。
 肥後氏は、核廃棄物(核ゴミ)町内持ち込み反対運動のリーダー。核ゴミ誘致と最も縁遠い肥後氏へのいわれなき攻撃は告示後も続けられ、選挙結果に大きな影響を与えたと見られている。得をしたのは、核ゴミ関係者からのデリヘル接待が明らかとなった現職の森田俊彦町長。大差で3選を果たしたが、森田陣営が裏で「肥後は放射性廃棄物を持ち込む」などと怪しげな街宣車とまったく同じ内容の「選挙運動」をしていたことが、HUNTERの取材で分かっている。
 汚れた選挙戦、現職の厚い壁に挑み、妨害工作に敗れた肥後陣営に密着取材した。

■チンピラの言いがかり街宣が選挙に重大な影響
 町長選の告示を3日後に控えた今月9日。選挙準備に追われる肥後氏の事務所内が騒然となった。突然やってきた街宣カーから、肥後氏を「極悪人」と罵る声が聞こえてきたのである。表に飛び出す陣営関係者。憤る事務所スタッフを前に、どう見てもチンピラヤクザとしか見えない男が、街宣カーの中でせせら笑っていた。この連中の街宣内容は、次のようなものだった。

 町民の皆さん、肥後隆志は、核廃棄物の持ち込みの賛成派と私共は判定いたしました。肥後隆志は、今日まで反対派を装ってきましたが、肥後隆志は核廃棄物の推進派である○○組合長と面談をし、選挙の応援と推薦状を要請したとのことであります。その時、○○組合長に対して、肥後隆志は、核廃棄物の持ち込みに賛成するとの約束をしたのです。
 選挙資金と選挙の票を求めるため、このように変わったんでしょうか。極悪人肥後隆志は、これ以上町民を騙してはなりません。また町民も、肥後隆志に騙されてはなりません。

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 ここに出てくる組合長とは、地元漁協のトップ。町内での人望があり、かつては森田町長と同じく核ゴミ処分場の誘致に賛成していた人物だ。チンピラの街宣部隊は、組合長が「嘘つき町長」を見限って肥後氏の支持を決めたことをとらえ、肥後氏が票と組合推薦をもらう見返りに、核ゴミ処分場誘致を約束したとして言いがかりをつけてきたのである。現場を見てきたかのような語り口だが、しょせんは反社特有の言いがかり。「私共は判定いたしました」などという文言は、裏付けのない話を勝手にこうと決めつけた証拠だった。一方的な「判定」で、名誉を傷つけられた方はたまったものではない。明らかな選挙妨害であり、「極悪人」の一言は、表現の自由をはるかに超える侮辱に過ぎなかった。誹謗中傷も、ここまで来れば犯罪。肥後氏は刑事告訴したが、連日の街宣が確実に陣営の足を引っ張る形となっていく。

 肥後氏のもとに寄せられるのは、「右翼の言っていることは本当か?」という問い合わせばかり。「酷すぎる」と憤る声もあったが、人口約8,000人の町は町域だけが広く、インターネットにもなじみの少ない同町にあっては、打ち消して回る時間も術もなかった。チンピラの雇い主にとっては、狙い通りの展開だったろう。肥後氏は、「役場の新築より暮らしの予算」と訴え続けたが、森田陣営は核ゴミの話ばかり。政策論争は聞かれずじまいだった。森田氏が選挙はがきに記載したのは、町の基金が何十億か増えたという自慢話。裏を返せば、何もやっていないということの証しなのだが、気付いた町民は少なかったはずだ。8年前の町長選で、「人口減少に歯止めをかける」と公約した森田氏。同町の人口は減る一方で、9,000人が8,000人を切るまでの状況となっている。無能な町長の下、過疎化はより急速に進む。

■漁協組合長、肥後氏支援の真相
 問題の街宣カーによる宣伝内容が、でっち上げであることは確かだ。関係者への取材を続けていたHUNTERの記者は、肥後氏と組合長の両方から、話を聞いていた。両人は、もともと2軒隣りの家で生まれ育った竹馬の友。幼い頃は、日が暮れるまで、二人で遊び回る関係だったという。核ゴミ処分場や、南大隅沖での海砂採取問題などで対立したままとなっていたが、森田町長が核ゴミ誘致派を裏切ったことで、歩み寄る素地が出来ていたのである。「嘘つきとは付き合いきれん。昔に帰って、応援するよ」――組合長の言葉に「涙が出る思いだった」と肥後氏は語っている。友人同士の絆に、核ゴミだの、密約だのがあるはずもない。人の情を悪用し、政治的に利用する手法は人間としては最低。まさにゴキブリ以下の連中がやることだろう。

■ゴキブリ右翼が立候補、背景には……
 異常な選挙妨害は、告示後も続いた。告示日前日に立候補表明した町外の人物が、問題の街宣カーに乗って登場。選挙ポスターも選挙事務所もないまま、肥後氏を核廃棄物持ち込みを図る裏切り者として徹底攻撃したのである。ゴキブリ集団の親玉は、町長選第三の候補だったというわけだ。実はこの人物、4年前の町長選直前、肥後氏に難癖をつけ暗に現金を要求して拒否された自称右翼の男だった。その時も、街宣カーで肥後氏を誹謗中傷していたというのだから、呆れるしかない。今度は、供託金50万円を積んでの妨害行為。裏に誰かいると考えるのが普通である。

 気になるのは、現職・森田陣営の関係者が「肥後は、組合長と組んで核廃棄物の持ち込みを狙っている」と話して回っていたこと。信じられないことに、役場の副町長までが「肥後は、2年前から核ゴミ処分場誘致に賛成していた」という話をしていた。チンピラ街宣カーと同じでっち上げを、現職陣営が役場の幹部まで使って広めた格好だ。選挙戦はわずか5日間の短期。肥後陣営には、次々に入ってくる妨害工作の進行を、止める手立てがなかった。南大隅町の世帯数は約4,100。高齢化率は県内一位という環境で、インターネットなど無縁という町民がほとんど。ホームページを開設して、事実関係を告知するという最低限の防御さえできなかった。理不尽と言うしかない。

■肥後つぶしの実態
 肥後つぶしの謀略は、これだけに止まらなかった。町長選と同じ日程で行われた南大隅町議会議員選挙には、定数12のところに15人が立候補。そのうちの一人が肥後氏の長男だった。“親父が町長、子供が町議”では、町政私物化との批判は免れない。肥後氏周辺は、必死にそのことを説いたというが、長男は聞き入れなかったという。肥後氏の長男を町議選に出馬するよう仕向けたのは、長男が勤める法人の代表者。森田町長と近い筋の親戚であり、森田派を自認する人物だった。3人落選が決まっている町議選。敵対する森田派の候補たちが怒り、結束を強めるのは当然だ。案の定、森田派町議候補12人の得票を合算してみると、ピッタリ森田氏の得票と重なる結果だった。ちなみに、利用された肥後氏の長男も落選。森田派の汚れた戦術に、してやられた形となっている。森田派は、人の家族の絆を、平気で断ち切る連中ということだ。ちなみに、森田氏のキャッチコピーは「正々堂々」。残念ながら、真逆なことばかりやっており、東京のホテルでは素性を隠してデリヘル嬢を招き入れていた。

■問われる住民の意識
DSC04770.jpg ポスター掲示板のない選挙風景も異例なら、チンピラが街宣カーに乗って公然と選挙妨害を行うのも異例。本土最南端に位置する風光明媚な町には、海の美しさが相容れない歪んだ町政がまかり通っていた。森田氏がついてきた数々の嘘を知りながら、それでも“しがらみ”にとらわれ、森田氏を大勝させる同町の有権者。将来、子供や孫たちに「どうして辞めさせなかったのか?」と嘆息されること請け合いだ。デリヘル接待を許すようなら、この町の住民に、自治を語る資格はない。
(写真は、本土最南端「佐多岬」から見た南大隅の海)



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