国際都市福岡にとって、福岡空港は都市戦略上、欠くことのできない最重要施設。運営に、市の方針が反映できなければ意味がない。しかし、“アジアのリーダー都市”を標榜する高島宗一郎市長は、空港運営への積極関与を頑なに拒否。空港の運営が政府から民間に委託されることに伴い、公募される新事業者への出資を独断で断るという暴挙に出た。
早々に出資を決めた県との違いが際立つ状況。「出資は必要」とする市議会の多数派と対立し、与党だったはずの自民党市議団が、出資を前提とする条例案を定例市議会に上程する事態となっている。
改めて、空港新事業者への出資が必要な理由を確認しておきたい。(写真は福岡市役所)
■空港事業者は超優良な投資先
現在、空港の運営を行っているのは県、市、航空会社などが出資してできた福岡空港ビルディング株式会社。福岡市は、昭和42年設立の同社に、約7億8千万円を出資していた。市への情報公開請求で入手した資料(下の文書参照)によれば、平成18年度から27年度までの10年間に市が得た出資に伴う配当金は約3億5千万円。それ以前の配当を考えると、市はこれまでに、出資金を大きく上回る配当を得ていたことになる。投資先としては極めて優良。投資した公金は、莫大な利益を生む。規模が大きくなる新事業者ならなおさらで、高島市長が出資を拒む理由にはあたらない。
■懸念される空港への影響力低下
出資をしないことのマイナスは甚大。まず、福岡空港ビルディングに出していた「取締役」が、出資を止めることで新事業者には出せなくなる。市側の方針を内部で主張する取締役がいなければ、新事業者の空港運営に市の意向を反映させることは困難。市にとっても、市民にとっても不利益ということだ。県内には、福岡空港の他「北九州空港」があり、同空港は利用者増が最大の課題。新事業者に県だけが出資することになれば北九州空港に有利な形で運営される可能性が膨らむ。事実、北九州市は福岡空港の新事業者に、北九州空港の運営を委ねる意向を示しており、懸念が現実味を増しているのが現状だ。「北九州との都市間競争にマイナス」という自民党市議団側の主張は、正鵠を射ていると言わざるを得ない。空港新事業者への出資は、空港を利用する次代の市民にとっての、いわば未来への投資。県と国に頼み込んででも実現すべきことなのである。
■市長の暴走
新事業者への出資拒否が、高島市政の暴走であることは明らかだ。情報公開請求によって入手した新事業者に関する国、県、市の協議記録からは、出資に消極的だった市の姿勢が浮き彫りとなる。下は、県と市の協議記録から、ポイントだけを抜き出したもの。県と市の違いがよく分かるはずだ。
県が協議開始直後から出資に前向きな姿勢を見せていたのに対し、福岡市は初めから消極的。政府筋の話によれば、国・県・福岡市の3者協議で、出資について詰めに入ったのが昨年の6月頃。この協議の場に福岡市は、出資しないことを前提に参加していたという。「いまさら出資と言われても無理。決めた枠組みは崩せない」(同筋)のが現状だ。この間の市側の動きは、市議会関係者には一切伝えられておらず、市長の独断で進められていたことが分かっている。
協議の場で、わがままな高島市政らしい、やりとりがあったことも分かってきた。福岡市側は、出資しないとしながらも、空港運営についての「報告」は、これまで通り受けたいと申し入れていたのである。あまりの身勝手な主張に、国や県が呆れたのは言うまでもない。出資を断ったあげく、市議会と対立する事態になった市長を、多くの関係者が冷ややかな目で見ているのだという。
空港への積極関与の機会を潰し、優良な投資案件を自ら放棄した高島市長。その判断が、どれほど福岡市のマイナスになるのか、理解できていないのかもしれない。