首長と議会が緊張関係を持って切磋琢磨していくのが2元代表制。首長や行政を監視し、間違いを正すのは議会の使命である。主戦場は「議会」になるが、ここでの議論に嘘やごまかしがあれば、議会制民主主義は成り立たない。
首長が議会で「虚偽」を申し述べれば、厳しく責任を追及し、時に辞職を迫るのが議会の責務。だが、町政トップの明らかな虚偽答弁を知りながら、4年間も放置している議会がある。
平成25年3月に開かれた鹿児島県南大隅町議会。そこで実際にあった森田俊彦町長(写真)の「嘘」と、同町議会の不作為を問う。
■取材に議会に「嘘」連発
南大隅町の町長は、現在2期目の森田俊彦氏。核ゴミ処分場を巡る数々の「嘘」で、全国に町の恥を広めた人物だ。HUNTERは、平成25年以来たびたび同町の腐敗を追及してきたが、疑惑の中心には常に森田町長の存在があった。疑惑逃れのために森田氏が連発したのが姑息な嘘。とにかくこの町長、「息をするように嘘をつく」(同町住民の話)。
平成25年2月に発覚した町長のモーターボート疑惑は、町長が、同町内に放射性廃棄物(核ゴミ)の処分場を整備しようと動いていた会社社長からモーターボートを貰い受け、その前後に処分場に関する委任状を書いたというもの。HUNTERの取材に対し森田氏は、委任状など書いたことはないとした上で、町長就任後は会社社長と会っておらず、モーターボートは“知人への貸金のカタ”にもらったものだと説明していた。
ところが、その後の追及に森田氏は一転。主張は「モーターボートは会社社長から15万円で買った。領収書もある」に変わり、会社社長との付き合いも認めることに――。さらに、TBSテレビの報道番組で会社社長に宛てて書かれた委任状の存在が暴かれ、「疑惑の町長」「嘘つき町長」として全国に存在を知られるようになっていた。辞任必至と見られていたが、開き直った森田氏は再び自己弁護のための「嘘」を重ね、町長の座に居座った形となっている。責任は、「議場での虚偽答弁」という議会制民主主義を冒涜する行為を追及せず、不作為を続けてきた議会にある。
■議会の不作為
下は、HUNTERが一連の疑惑を報じた直後の、平成25年3月19日の南大隅町議会議事録。森田氏は、核ゴミ処分場に関する全てを任せるという内容の念書にサインしたかどうかを問われ、次のように答えていた。
実際には念書ではなく「委任状」だったのだが、森田氏はこの日、何度も委任文書のことについて確認を求められ、その度に「覚えがない」と断言していた。「記憶がない」「覚えがない」は嘘つき政治家が使う常套句だが、その数十日後にTBSが実物を示して委任状の存在をスクープ。森田町長が、HUNTERの取材や議会質疑で、虚偽答弁を繰り返していたことを証明する格好となっていた。また森田氏は当時の議会で、会社社長には平成22年以降「会っていない」と答弁しており、これも虚偽だったことが明らかとなっている。だが、町議会は嘘つき町長を野放しにした。平成25年3月の議会後、町長を追及した二人の議員は、相次いで引退、辞職。南大隅町議会は虚偽答弁を4年間放置し、森田氏が町長の座に居座り続けることを容認したのである。これでは、2元代表制の一方としての機能を果たしたとは言えまい。
■新たな虚偽答弁明らかに
町議会による、これ以上の不作為は許されない。25年3月議会での町長答弁には、他にも虚偽があったことが最近になって分かったからだ。森田氏は同議会でモーターボート疑惑について聞かれ、次のように答弁している。
モーターボートを譲ってくれた会社社長を「(モーターボートを)買った相手が悪かった」とけなした上で、「買値は15万円、領収証もある」と断言。しかし、この時の答弁が真っ赤な嘘であったことが、先月になって明らかになっている。電話取材に応えた会社社長の証言はこうだ。
――町長の発言は嘘。モーターボートは、ただで(森田氏に)譲ったものだ。『取材が入って、知人への借金のカタと言ってしまったので、話を合わせてほしい』と頼んできたので、断った。『せめて、売り買いという形にして、領収書を書いてもらいたい』と言うので、やむなく15万円を振り込むように伝え領収書を渡したが、15万円は振り込まれてこなかった。1円ももらっていない。
町長に文書取材を申し入れたが無回答。事実上の取材拒否である。町民の前では「HUNTERと会社社長を訴える」と息巻いたらしいが、取材には答えず、記事への抗議もない状況。またしても、その場しのぎの嘘で町民を欺く構えである。次から次へと明らかになる虚偽答弁を、同町の議員たちはまたも放置するのか――。南大隅町議会は、今月22日から一般質問の予定となっている。
平成25年3月の議会で森田氏は、犯罪につながる可能性のあった事実を隠すため、別の「嘘」をついていたことを付け加えておきたい。