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教育勅語の周縁

2017年3月 6日 09:05

 政権を揺るがす国有地払下げ問題で注目を集める学校法人森友学園。最大の焦点は政治家絡みの不正の有無だが、世間を呆れさせたのは、森友学園が運営する幼稚園の教育内容だろう。「朕惟フニ我ガ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ」――。園児に暗誦させているのは、大人も読解に苦慮する『教育勅語』なのである。
 以下、安倍首相夫妻をはじめ戦前回帰を念願する人たちが絶賛する『教育勅語』について――。

■教育勅語の時代背景
 「勅語」とは天皇が発した意思表示の言葉。天皇主権を規定した大日本帝国憲法下でのみ可能な、事実上の命令である。「教育勅語」は、教育の根本理念を示すため、1890年(明治23年)に明治天皇が内閣に下賜されたもので、正式には「教育ニ関スル勅語」という。まず、教育勅語が発布された明治23年が、どのような年であったのか振り返ってみたい。

 明治23年といえば、前年2月に公布された「大日本帝国憲法」(明治憲法)が施行された年である。7月には第1回衆議院議員総選挙が行われ、11月に第1回帝国議会が開かれていた。この年、日本は不十分ながらも近代国家としての体裁を整えている。教育勅語の発布は同年10月。明治憲法で国民を縛り、「教育」という言葉を借りて「滅私奉公」を奨励したのが教育勅語の本質である。分かりやすいように、原文を段落ごとに区切ると次のようになる。

1-教育勅語.png

■教育勅語が求める「滅私奉公」
 前半部分を要約すると、こうなる。≪はるか昔から、皇室が国を治めてきた。忠と孝を守るのが我が国の優れたところで、教育の根源もそこにある。父母への孝行、兄弟・夫婦の和、友人との信義、慎み深く生き、他に博愛の手を差し伸べ、学を修め、仕事を習うことで能力を養い、徳と才能を磨き上げ、公共の利益に尽くし、憲法や法に従うべし――≫
 
 一つひとつは、現在でも通じる12項目にわたる「道徳」の教え。問題は、その後の一文にある。『一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ』。つまり、≪もし国家に危険が迫れば正義と勇気の心をもって公=国家のために働き、皇室を助けよ≫というのである。勅語の後段はその念押しで、皇室を守ることが国民の義務であり道理なのだから、これを胸に刻み、立派な行いをするよう願うというもの。≪立派な行い≫が、忠孝に励み、皇室を守るということであるのは言うまでもない。教育勅語は、皇室への「滅私奉公」を奨励する国の方針を示した文書なのである。主権在民や法の下の平等を規定した現行憲法とは、まったく相容れない。

■安倍一強、右傾化、日本会議
 首相夫人である安倍昭恵さんは、教育勅語を暗誦させる塚本幼稚園を「すばらしい」と評価し、首相も当初は国会でそれを認めていた。森友学園の理事長夫婦から小学校建設に便宜を図るよう陳情を受け、現金だかこんにゃくだかを提示された自民党の鴻池祥肇参院議員も、塚本幼稚園で講演を行った際には、「教育勅語を暗誦する児童たちの姿に、涙が出そうになった。すばらしい」と激賞していたことが報じられている。学園側に力を貸した形の日本維新の会の大阪府議も、自民党の兵庫県議も、「教育勅語」を暗誦させる幼稚園に共感したからこそ、動いたのだろう。右傾化の証左でもあるが、“ズレている”としか言いようがない。

 国民を「臣民」とする教育勅語のどこがすばらしいのかさっぱり分からないが、安倍首相のシンパは、教育勅語を賛美する人間ばかりだ。森友学園の籠池泰典理事長は、憲法改正を推し進める右翼団体「日本会議」の役員だという。首相自身は日本会議国会議員懇談会の特別顧問。麻生太郎財務相も、首相と共に特別顧問を務めている。森友学園が開校を予定している小学校「瑞穂の國記念小學院」や塚本幼稚園を所管する文科省の下村博文大臣も日本会議国会議員懇談会のメンバーである。元号法制化や右寄り教科書の編纂などを行ってきた日本会議の最終目標は「憲法改正」だが、教育勅語を賛美する団体としても知られている。森友問題の背景には、安倍一強が続く中、こうした右寄りの連中が我が物顔に振る舞うようになった国内状況がある。

■より崇高な教育基本法の前文
 道徳心とは、国が押し付けるものではなく、国民一人ひとりが、人生経験を積む過程で醸成させるもの。言うならば、「心の規範」だ。それを皇室への滅私奉公につなげるのが教育勅語の理念。時代錯誤に賛同する国民は決して多くはあるまい。ちなみに、第一次安倍内閣時代の平成18年に全面改正された教育基本法の前文は、次のように謳っている。

1-教育基本法前文.png

 教育勅語より、よほど崇高な理念に裏打ちされた一文だと見るが、どうだろう。少なくとも、教育勅語に抱く嫌悪感はないはずだ。前文は「個人の尊厳を重んじ」と謳っており、事実上個人の尊厳を否定する教育勅語とまったく違う方向性を示しているからに他ならない。教育勅語は、藩閥政府がそうであったように、為政者にとっては極めて都合の良い道具。“個人より国家”という全体主義を理想とする日本会議や安倍首相にとっては、勅語こそが国の理念で、教育基本法の前文は目障りに相違ない。もちろん「日本国憲法の精神にのっとり」という一文はもってのほか。だから改憲なのであり、教育勅語の賛美なのだろう。だが、多くの国民は教育勅語の理念に懐疑的で、憲法改正にも慎重だ。その証拠に、森友学園の幼稚園で行われている愛国教育の映像を見て「すばらしい」と感じる国民は皆無に近い。

 安倍首相は9日、「2期6年まで」とされていた総裁任期を「3期9年まで」に改正することを決めた党大会で、憲法改正への意欲を露わにした。自民党の改憲草案は、大日本帝国憲法と教育勅語の時代を、色濃く反映させている。



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