平成25年、鹿児島県内の有志が、伊藤祐一郎知事(当時)に対する解職請求(リコール)運動を展開。成立はしなかったものの、15万人の署名を集め、昨年の知事選で伊藤氏が落選するきっかけを作る形となった。その時、リコールの理由として挙げられたのは5項目。上海研修、総合体育館、楠隼(なんしゅん)中学・高校、松陽台県営住宅、薩摩川内処分場(エコパークかごしま)である。
知事選で初当選した三反園訓知事が掲げたのは「県政刷新」と「原発停止」。原発停止が真っ赤な嘘だったことは周知の通りだが、肝心の「県政刷新」はどうなったのか――。三反園就任から8か月。“刷新”の実状を検証すると、前県政時代以上に歪む鹿児島県の姿が浮き彫りとなる。
(写真は鹿児島県庁)
■前知事リコール 理由書の5項目
平成25年の県知事リコール。解職請求書には、次のように記されていた。
伊藤祐一郎知事は、中国東方航空の上海航空路線を維持するため、税金を使って県職員1000人を研修名目で上海へ派遣する計画を立てた。また鹿児島本港区のドルフィンポート敷地に県総合体育館を建設することにし、ドルフィンポートとの定期土地貸借契約を4年前倒しで解約し、解約に伴う補償金を税金で払うとした。
このような事業に税金を使うこと、また関係者への事前説明なしの独断専行的な政治手法に、県民から批判や反発が高まった。このため知事は計画を縮小・休止、再検討すると発表したが、9月までの上海派遣には実際に税金が使われた。外国籍の一航空会社の不採算路線維持のために、どうして税金を使わなければならなかったのか。どうして上海研修なのか。県民の疑念は消えない。
体育館建設見直しに伴い、鹿児島市は市電延伸計画の頓挫を余儀なくされた。市電延伸の効果に期待していた周辺商店街は失望した。くるくる方針を変える知事のやり方は、関係者を振り回し、戸惑わせた。両計画は凍結されたかに見えるが、批判そらしの一時的な言い逃れではないか。これまでの朝令暮改的な政治姿勢からすると、両計画がぶりかえす恐れは十分にある。この懸念を公開質問状でただしたが、知事は「もうしない」とは確約しなかった。
知事は県財政の再建を自負する一方で、県総合体育館あらためスーパーアリーナ、薩摩川内市の産廃施設、鹿児島市の松陽台県営住宅、肝付町の全寮制中高一貫男子校などの建設に合計約500億円の税金を投入しようとしている。いずれも、必要性、不透明な収支予測、環境への影響などについて、疑問視し危惧する声が県民から上がっている。
貴重な税金は、箱物ではなく、医療、福祉、教育、環境向上のために使うべきだ。また県政は、知事が独断で決めるのではなく、県民に開かれたものであるべきだ。次代を担う子どもたちに、借金や環境破壊など負の遺産を残してはならない。これらの理由から、もはや伊藤知事に県政を任せるわけにいかない。よって、解職を請求する。
請求の理由として挙げられた上海研修、総合体育館、楠隼高校、松陽台県営住宅、薩摩川内処分場は、いずれも「無駄な公金支出」が明らかとなっていたもの。県民の批判を受けて上海研修は中止。総合体育館の計画は頓挫したものの、楠隼高校、松陽台県営住宅、処分場は事業が継続され、悲惨な状況となっている。
■疑惑の100億円産廃処分場で県側敗訴
今月28日、鹿児島県が100億円をかけて整備した産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(薩摩川内市。事業主体:県環境整備公社)の土地取得を巡る住民訴訟で、鹿児島地裁が異例とも言える県側敗訴の判決を下した。用地取得費5億円のうち約4億3,200万円を違法な支出と認定。植村組側への未払金1億6,000万円の支出差し止めと、既出金2億6,400万円を土地取得契約締結時の知事である伊藤祐一郎氏に請求するよう県に命じたのである。県側敗訴の判決で、裁判所が鹿児島県による地場ゼネコン側への利益供与を認めた形。県と建設業界の癒着が、厳しく問われる事態だ。
■50億円投資の中高一貫校は……
開校にあたり、鹿児島県教委が「全国初の公立全寮制男子校」として売り込みに躍起となっていた中・高一貫校『楠隼中学・高校』も、厳しい状況にある。投資額約50億円。男女共同参画の時代に、男子限定。しかも、目指すのはエリート養成校――。公立で行う教育としては疑問が多く、県内でも同校の先行きを懸念する声が少なくなかったが、高校で60名の定員に対し平成27年度の入学者は37名(県内28名、県外9名)、平成28年度は受験者ベースで50人(県外12人。倍率0.83倍)、29年度は22人(県外5人。倍率0.37倍)と、年々生徒が減る状況となっている。3年連続の定員割れで、入学辞退や中途退学者も多いという。中学の方は健闘しているというが、抜本的な見直しが必要であることは、言うまでもない。
■松陽台県営住宅問題で見えた三反園の「嘘」
リコールの理由に挙げられた事案は、県民が「刷新」が必要と判断したもの。しかし三反園知事は、処分場や楠隼について事業停止はおろか、見直しさえ行っていない。酷い例が、鹿児島市松陽台町で進む県営住宅増設工事への対応である。
松陽台町にある「ガーデンヒルズ松陽台」は、鹿児島県住宅供給公社が「変わらぬ環境」や「交通の利便性」をアピールし、宅地販売を行なってきたニュータウンだ。戸建用地を購入しマイホームを構えた住民によれば、誰もが緑豊かで静かな住環境に満足し、「終の棲家」を得て満足していたという。状況が一変したのは平成23年3月。伊藤知事が、松陽台に県営住宅390戸を増設するという計画を唐突に打ち上げたのである。
驚いた住民は反対署名を集め、県や市に陳情、要望を繰り返したが事実上の門前払い。県は捏造した住民アンケートの数字まで使って反対陳情を不採択にし、強引に計画を進めてきた。平成26年春、地元には何の相談も説明もなく、投げ込み文書1枚で工事に着工。平成27年度に第2期工事が、今年度には3期工事が行われている。同町には、建てられるとされてきた小学校も、保育園や幼稚園も、商業施設も避難所も未整備。増設された県営住宅には「子育て支援」という皮肉な言葉が冠され、子供たちは一駅先にある小学校まで列車通学を余儀なくされているのが現状だ。一昨年秋には小学校のある薩摩松元駅で児童の転落事故が発生している。地元住民らが、事業の即時中止・凍結を強く要望するのは当然なのだが、県政刷新を掲げたはずの三反園知事には、「聞く耳」がないことがハッキリしている。
先月、松陽台町内会は、新知事への期待を込めて事業見直しを求める要望書を提出。対応について聞くため、県に連絡したという。「要望書は、知事に届いたのか」――たったこれだけの質問に、県は広報課➡住宅政策室➡広報課とたらい回し。要領を得ないまま、数週間後に県が送ってきたのが下の回答文書だった。
内容は、伊藤県政時代から県が地元向けにばら撒いてきた文書とまったく同じ。商業施設誘致についても通学の安全対策についても、ここ数年間繰り返されてきた釈明そのままだ。松陽台の県営住宅増設問題は、前知事のリコールで理由の一つに挙げられた事案。知事が要望書を読んだ上での回答なら、「県政刷新」は真っ赤な嘘。読まずに、所管課の判断に任せたのなら、「県民の声を聞く」とした公約も「嘘」だったことになる。
■土建屋県政
就任後の三反園知事が力を入れているのは、「体育館」「ドーム球場」「サッカー場」の新設。伊藤知事時代をはるかに超える“土建屋県政”だ。刷新どころか、悪化が現実。県民の税金でハイヤーを乗り回す知事は、まさに希代のペテン師なのである。