民間の新規事業者に運営を委託することが決まっている福岡空港への対応をめぐり、福岡市が、昨年の7月頃から行われた国や県との協議の場において、当初から出資しない方針で臨んでいたことが分かった。高島宗一郎市長の強い指示があったという。
自民党福岡市議団側が市長の方針を聞いたのは10月頃だったとされ、与党会派に何の相談もなく、市の将来がかかる重大事案を進めていた形。市長の徹底した議会軽視の姿勢に、改めて批判の声が上がりそうだ。(写真は福岡市役所)
■無視された自民党市議団
福岡空港ターミナルビルを運営する第3セクター「空港ビルディング」の株式売却益を、空港の民間委託に伴って発足する新事業者に“出資しない”とする高島市長。これに対し、“出資すべき”と主張する自民党市議団は、出資しないことを前提とした市の基金創設条例案を野党会派と組み議会で否決した。何故、こうした状況になったのか――。背景を探ってみると、高島氏による独裁市政の実態が浮き彫りとなる。
政府筋の話によれば、国・県・福岡市の3者で、福岡空港の新事業者について協議が始まったのは昨年の6月頃。この協議の場に福岡市は、出資しないことを前提に参加していたという。協議は複数回行われ、県のみが出資する方向で新事業者のスキームが決められていた。「いまさら出資と言われても無理。決めた枠組みは崩せない」(同筋)のが現状なのだという。この間の市側の動きは、市議会関係者には一切伝えられていない。市に裁量権があるとはいえ、空港と市の将来がかかった事案。これまでのような市長の独断専行が許される話ではなかった。
■姑息な説明に市議団の怒り
市執行部が、自民党市議団に対し新事業者への出資を見送る方針を打診したのは昨年10月頃。この時、市側は「出資金が戻ってくる」という説明でお茶を濁しており、市議団側は株の売却益約7億8千万円だけが戻ってくるものと考えていた。出資するなら、数億~数十億円の積み増しが必要。「財源の関係から出資断念もやむなし」と判断した市議団側は、市側の報告に異論を唱えず、半ば容認した形となっていた。市側が、市議団側の“早とちり”をうまく利用した格好だ。
国が株の評価を行ったのはその後。株の売却益は約63億円に膨らみ、計算上は出資可能な状態になった。この時点で、市が自民党市議団に持ち込んだのは「空港周辺の整備に56億円の基金。7億8千万を一般会計に」という案。「話が違う」「騙された」「財源があるのなら出資を」――市議団側は態度を硬化させ、改めて市長に出資するよう求めていた。
両者の話し合いが平行線をたどるなか、市側は一方的に「空港周辺の整備に7億8千万円の基金。56億円を子育て支援などの基金に」と方針転換。市議会側の反発を無視して「福岡空港未来基金条例案」を2月の市議会定例会に上程したが、同案は反対多数で否決されている。
■議会軽視で対立激化
市長と自民党市議団の対立は「修復不能」(自民党関係者)の状態。前哨戦となった2月初めの請願審査では、市長派市議3人が紹介議員となって提出された公園の再整備に関する請願を不採択にし、与党会派が市の方針に公然と異を唱える格好となっていた。一連の騒ぎを受けて、市長派と見られていた3人の市議が自民党会派を離脱。高島執行部は、慣例の「予算勉強会」を取り止めることで自民党市議団に報復し、今後の議会運営に暗い影を落とす状況となっている。
対立激化の原因は、市議会側には何も知らせず、いきなり会見などで方針を示すという高島氏の手法。就任以来、何事も事後承諾でことを済ませてきたツケが、ここにきて一気に回ってきたということだ。
「市議会には何も知らせるな!」――平成22年に市長に就任した高島氏は、スタートから市議会を目の敵。「議員は、すぐに情報を漏らす」と公言し、徹底した情報管理を行ってきたとされる。“主役は自分” 。パフォーマンス好きの高島氏が好むのは「日本初」「日本一」で、選挙のためなら「待機児童ゼロ宣言」などという、半ばでっち上げの発表まで行ってきた。福岡空港への出資の可否は、裁量権を持つ自分の仕事。市議会が口を出すことに、我慢がならなかったのだろう。つまりは独裁。少数の側近議員だけを大事にするあまり、支持母体である自民党市議団の大多数を敵に回すことになった。
■空港への出資は未来への投資
市長が強調するのは、出資するより「子育て支援」「市民へ還元」――。確かに聞こえはいいが、空港の問題と同列で扱うのは間違いだ。県内には、福岡空港の他「北九州空港」があり、同空港は利用者増が最大の課題。福岡空港の新事業者に県だけが出資することになれば北九州空港に有利な形で運営される可能性があり、「北九州との都市間競争にマイナス」という自民党側の主張は、正鵠を射ていると言わざるを得ない。空港新事業者への出資は、空港を利用する次代の市民にとっての、いわば未来への投資。県と国に頼み込んででも実現すべきである。
地方自治体は“二元代表制”。住民に選挙で選ばれた首長と議会が、緊張関係を保ちながら地域の発展に力を尽くすことが肝要となる。首長の独裁を止めるのが議会であり、待ったをかけられた首長は、真摯に現実を受け止めなければならない。それができなければ、高島氏に市長としての資格はない。