初当選から6年。得意の絶頂にあると見られていた高島宗一郎福岡市長を取り巻く状況に、大きな変化が現れた。
今月20日に始まった福岡市議会定例会で、「福岡空港ビルディング」の株式売却益活用方針を巡って市長と自民党市議団が対立。ギクシャクしながらも、2度の選挙で高島氏を支えてきた同市議団が、敵に回る形となった。
「我々は、反高島に舵を切った」――そう言い切る市議もいる。一体何が起きているのか?
(写真は高島福岡市長)
■市長VS自民市議団 初の激突
市議会定例会は初日から大荒れ。福岡空港ターミナルビルを運営する第3セクター「空港ビルディング」の株式売却益を、空港の民間委託に伴って発足する新事業者に“出資しない”とする市長と、“出資すべき”と主張する自民党市議団が激しくぶつかった。
執行部側は、出資しないことを前提に、売却益約63億円で約56億円と約8億円の二つの基金を創設する計画。今議会には、約8億円を空港周辺のまちづくりに活用するための「福岡空港未来基金条例案」を上程している。
一方、自民党市議団側は出資しないことを前提の条例案は認められないとする立場。両者とも譲らぬ状態で、市長と与党第一会派が真っ向から対立する展開となった。
顔をこわばらせて新運営事業者への出資を拒否する高島市長。新事業者に出資しなければ、空港運営に市の意向が反映されなくなるおそれがあるとして、方針見直しを迫る与党自民党の市議。議会で両者が激しくやり合うのは、高島市政誕生以来、初めての光景だった。
結局、条例案は22日の常任委員会で自民などの反対多数で否決。23日の本会議でも否決される見通しとなっている。執行部提出の条例案が否決されるのは、じつに約7年ぶり。高島市長になって、これまた初めてのことだ。
予兆は、あった。2月3日に開かれた委員会の請願審査では、市内南区にある長住中央公園の再整備を巡り、市長の側近と目される3人の市議が紹介議員となって提出された園内のソフトボール場廃止を求める請願を不採択に――。一方で、反市長派市議らが紹介議員となったソフトボール場存続を求める請願を採択し、与党会派が市の公園整備計画に公然と異を唱える格好となっていた。
平成22年の初当選以来、高島氏を支えてきたのは自民党と公明党。アナウンサーあがりの知名度と発信力を武器に市民の人気もさらい、盤石の市政を築いてきた。独裁に等しいと言われる市政だが、実態を知らない市民の市長への評価は高く、一昨年の市長選では次点に13万票以上の大差をつけて再選を飾っている。独断専行が議会軽視との批判を招くこともしばしばだったが、自民系会派と公明が擁護してきたため、執行部提出の議案が否決されたことは一度もない。自民党としては、「担いだ責任」(同党関係者)を果たす必要があったということだ。
■確執
市長と自民党市議団との確執が表面化したのは、平成26年。議会を無視して事を進める市長の態度に業を煮やした市議団の一部が、市長選での党推薦に難色を示してからだ。対立候補の応援に回る市議もいたほどで、両者の間にすきま風が吹く状況となっていた。
市長選直後に行われた総選挙では、市長が市議団の制止を無視して、分裂選挙となった福岡1区の井上貴博氏(自民)を支援。顔をつぶされた形の市議団は怒り心頭で抗議文を突き付けたが、市長はこれも無視し、両者の関係は「修復不能」(市議会関係者)と言われるまでになっていた。翌年の統一地方選で当選した自民党市議団所属の議員は20人。純然たる市長派は3人ほどとなっており、勢力図にも変化が起きていた。
前述した長住中央公園がある地域を地盤としているのが、市長と最も近いと言われる市議。ソフトボール場の廃止に動いてきた張本人だ。空港周辺のまちづくり基金に、最も関係が深いとされているのも市長派とされる別の市議で、市長派と市長が組んだ利権の臭いがする議案や計画を、自民党市議団が潰した形となっている。
ある自民党関係者は、次のように話している。
「これまでは、ベテラン議員が市長寄りの裁定で反市長派を抑えてきたが、それが通用しなくなった。市長の議会軽視の姿勢に、堪忍袋の緒が切れたということだ。市議団は、執行部案に対抗して、空港ビルディングの株式売却益を新会社に出資することを求める議案を提出し、これを可決させるだろう。対立というより決別。おそらく、来年の市長選では、市議団の高島推薦はない。党本部や麻生(太郎副総理)さんが何と言おうと、地元の市議団がノーと言えば組織は動かない。市長は、自民党の推薦や市議の応援などなくても勝てると思っており、関係修復など考えてもいないはず。下手をすれば、与党は公明だけということにもなりかねない。自業自得。議会軽視のツケは重いということだ」
■岐路に立つ高島市政
やれ観光だ、特区だと派手な施策にばかり力を入れてきた高島市長。人口が増え、福岡一極集中が進む状況だが、足下には綻びが目立つ。市長を一躍全国区にした博多駅前の地下鉄陥没事故は、あくまでも「仮復旧」の状態。評価を上げた早期埋め立てだったが、「30倍の強度になった」と胸を張った現場は、掘り返して埋まったままの信号機などを産廃として処理しなければならないことが分かっている。いずれ発言との整合性が問われるのは必至の状況だ。また、自身の発案で進めてきた「屋台」の公募は、選定に不正があったことが明らかとなり訴訟にまで発展。選定過程を含めて、公募そのものに疑問符が付く事態となっている。
パフォーマンスだけでは乗り切れないと見れば、部下に任せて逃げるのが高島流。しかし、人気取りが先行した案件だけに、頬かむりは許されまい。自民党市議団との対立が決定的となったいま、庇ってくれるのは首相と麻生さん、公明党・創価学会だけ。高島市政は、大きな岐路に立っている。