たった2回の会議で結論――。鹿児島県は7日、九州電力川内原子力発電所(薩摩川内市)の安全性を審査するため設置した「原子力安全・避難計画等防災専門委員会」の第2回会合を開き、川内1号機の定期検査と熊本地震を受けて実施された特別点検の結果を了承した。今後、避難計画などの検討課題について三反園訓知事への提言をまとめるというが、原発自体の安全性を議論せぬまま、営業運転にお墨付きを与える形となった。
経過から見て、専門家会議は知事の公約達成を証明するための道具。三反園氏には、はなから原発を停止させる気などなかったと言うべきだろう。県民を騙し続ける知事に対し、「ペテンだ。リコールを視野に入れるべき」との声が出始めている。(写真は三反園知事)
■囲む会、同じテーブルには……
今月4日、指宿市内のホテルで開かれた知事を囲む会の会場。同じテーブルの三反園氏から一つ置いた席に、電力業界と深いつながりを持つ会社社長の姿があった。昨年7月、初登庁を数日後に控えた三反園氏から「九電の役員にお知り合いがいらっしゃるなら、九電に、『悪いようにはしない』と伝えて下さい」とメッセージを託された人物だ。指宿に別荘を持つ会社社長は、地元では知る人ぞ知る存在。HUNTERが会社社長と知事が会談した時の様子を報じた直後だったこともあり、会場でこの光景を見た知事のある支援者は、「やっぱり」と感じたという。≪参照記事⇒「悪いようにはしない」 ― 三反園知事、九電にメッセージ ≫
■公約違反の証明
三反園氏に、“原発を止める”という意思がなかったことは、会社社長へのメッセージからも明らか。「原子力安全・避難計画等防災専門委員会」は、公約違反を咎められるのを避けるための“アリバイ作り”に他ならない。2度に渡る九電への原発停止要請と専門委の設置で公約を守った形になった知事だが、実態は明確な公約違反。知事の発言を時系列で並べると、一連の対応が、ただのパフォーマンスであることがよく分かる。
知事はこのほか、「原発を止める権限がない」とも明言しており、公約自体が“虚偽”だったと判断せざるを得ない状況だ。もう一度、知事の「お約束」を振り返ってみたい。まず、「原発を止める」という公約。知事が選挙前に公表したマニフェストには、原発について次のように記されている。
マニフェストでは、「川内原発を停止して、施設の点検と避難計画の見直しを行う」と断言している。しかし、実際には定期点検前に川内原発は停止しておらず、公約が果たされた形にはなっていない。知事就任後、「原発を止める権限がない」と開き直った三反園氏だが、これは公約した「川内原発を停止」が、票目当ての虚偽だった証明だ。
専門委設置が決まった折、あたかも公約が達成されたかのような報道が相次いだ。だが、専門委に関する約束こそ、最大の虚偽である。下は、知事選前に候補者一本化が実現した際、三反園氏と立候補を見送った反原発団体代表・平良行雄氏との間で交わされた政策合意の原文である。(合意文書は、「とめよう原発!かごしまの会」ホームページより)
九電への原発停止要請、専門委(合意文書では「原子力問題検討委員会」)の設置――。合意内容を守った格好だけはつけているが、停止要請は空振りに終わっており、「原発を止める権限がない」との発言が、合意の形骸化を物語っている。一番の問題は、この合意が、「廃炉」を前提に交わされたこと。じつは、行間に出てこない肝の部分が、無視されているのだ。
候補者一本化は、三反園氏側から持ち掛けた話である。合意にあたって三反園氏は、平良氏らに対し重大な約束をしていた。――『検討委員会(専門委)のメンバ―半分を反原発派にし、必ず平良氏を加える』――これがのめなければ合意はないとした反原発派に対し、三反園氏は「信じて下さい」と懇願したという。当選後、平良氏を含む脱原発派の電話、メールに一切反応しなくなった三反園氏の態度が、すべてを物語っている。熊本地震以来、川内原発に不安を抱くようになったという鹿児島市在住の40代女性は、知事選で三反園氏に一票を投じたとした上で、こう話す。
「三反園さんはペテン師ですよ。反原発派はもちろん、県民も騙された。熱心に応援した後援会のメンバーを切り捨て、自民党にすり寄る姿勢には怒りを感じる。約束が守れないなら、きちんと説明すべきなのに、反原発派と向かい合って話し合う気配さえない。卑怯ですよ。これなら伊藤さん(祐一郎前知事)の方がましだった」
■現実味増す「リコール」
平成24年の鹿児島知事選挙で、反原発派は、反原発・かごしまネット事務局長の向原祥隆氏を擁立し、20万518票を獲得した。この時の伊藤祐一郎前知事の得票は39万4,170票。知事選初挑戦の三反園氏にとって、向原氏の20万票は喉から手が出る票だった。反原発派は、知事選で勝ち抜くために不可欠な勢力。本音は原発擁護の三反園氏だったが、なりふり構わぬ懐柔策に出た。その結果が、廃炉を前提とした前述の「政策合意」である。昨年の知事選で三反園氏の得票は42万6,471票。伊藤前知事の得票が34万2,239だった。反原発派の票がなければ、“三反園知事”の誕生はなかったということだ。
選挙終了後、反原発派との交流を断ち、県民向けのパフォーマンスに明け暮れる三反園氏。平良氏や向原氏のメールを無視し、電話にも出ないという徹底した脱原発派排除は、まさにペテン師の手法である。利益を得たとたん、用済みの関係者を捨てるというのは時代劇の悪代官を彷彿させる。悪代官が好むのは利権だ。就任後、知事が特別に意欲を示しているのはドーム球場、サッカースタジアム、体育館。伊藤県政時代以上の「箱モノ行政」になる可能性が高い。
反原発派の間からは、「リコール(解職請求)」の声が上がるのは当然。薩摩川内市在住のある市民運動家は、次のように話している。
「廃炉どころか、専門委に反原発派を入れるという約束さえ守らない。県民を欺いた三反園さんは、まさに希代のペテン師だ。『九電を困らせるようなことはしない』というメッセージを九電に送ったというが、これほど県民をバカにした話はない。リコールを視野に入れるべき事態だろう。リコールは選挙から1年間できない仕組みだというから、今年の8月からは可能。原発の問題だけではなく、間違った方向に向かいつつある県政全体の現状を、県民に訴えていく必要がある。鹿児島県人は「嘘」や「卑怯」を嫌う。三反園さんは、そこのところがまったく分かっていない」
伊藤前知事のつまづきは、県職員による上海研修と総合体育館が、県民から厳しい批判を浴びたことだった。その伊藤氏を退けた三反園氏が打ち出したのは、なんと前県政を上回る公共事業優先主義。土建屋を喜ばすだけの歪んだ県政と言えよう。自信家だった伊藤前知事は、上から目線ではあるが「嘘」はつかなかった。嘘をつく必要がなかったからだ。三反園氏の場合はどうか?
鹿児島県内で取材してみると、ドーム球場やサッカー場に巨額の税金を投入することには、ほとんどの人が消極的。逆に、「そんなことのために、三反園に(票を)入れたわけではない」(鹿児島市の会社社長)、「“県民所得を上げる”という公約は、どうなったんだ」(指宿市の自営業者)と厳しい批判の声ばかりだった。九電に「困らせるようなことはしない」というメッセージを送ったことは、県民を欺いた証拠。リコールが、現実味を増している。