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読売とニュース女子
「政権の犬」の沖縄蔑視

2017年2月 9日 09:50

1-読売社説-2.jpg 政権の犬の仕事とはいえ、ここまで沖縄を痛めつけることができるのか。2月7日の読売新聞朝刊、「辺野古海上工事 普天間返還の遅滞を避けたい」と題する社説を読んで呆れるしかなかった。
 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に向け、政府が海上での本体工事に着手したことを受けての社としての意見。942字のご高説は、安倍政権の主張をそっくり紙面に落としたものだった。戦中・戦後を通じての沖縄の歴史や、虐げられてきた県民の思いには一切触れず、普天間返還が遅れているのは、沖縄県が、翁長知事が悪いという論調だ。読みながら、最近問題になった「ニュース女子」という番組を想起した。(右は、読売新聞2月7日の紙面)

■権力側の視点で書かれた読売の社説
 まず、読売の社説を、原文のまま紹介しておきたい。

 米軍普天間飛行場の返還をこれ以上、遅らせてはなるまい。辺野古移設を着実に進めたい。
 政府は、沖縄県名護市の辺野古沿岸部で、埋め立てに向けた海上での本体工事の作業を始めた。まずは大型ブロックを投下し、海底に固定する。春にも埋め立て区域を堤防で囲む護岸工事に入る予定だ。
 菅官房長官は記者会見で、「作業の安全と自然環境、住民生活に最大限配慮する」と語った。
 工事主体の防衛省は、国土交通、法務、環境、警察など関係省庁と緊密に連携し、円滑で効果的な作業に全力を挙げてもらいたい。
 日米両政府は早ければ2022年度の普天間飛行場返還で合意したが、沖縄県の反対で作業が中断するなど、工程は遅れている。
 辺野古移設は、普天間問題の唯一の現実的な解決策である。移設の遅れは、危険な現状がそれだけ継続することを意味する。
 昨年12月の最高裁判決で、翁長雄志沖縄県知事の埋め立て承認取り消しが「違法」とされた以上、政府が作業を急ぐのは当然だ。
 政府は、3月末に期限が切れる岩礁破砕許可を県に再申請しない方針を固めた。地元漁協が周辺海域での漁業権を放棄したため、再申請は不要と判断した。更新を不許可にするという翁長氏の対抗手段を封じるためもあろう。
 一連の工事には、反対派の妨害活動も予想される。法に基づく適正な取り締まりが欠かせない。
 工事開始に対し、翁長氏は「認められない。直ちに停止すべきだ」と反発した。埋め立て承認の「取り消し」でなく、状況の変化を理由とした「撤回」を検討し、あくまで移設を阻止する構えだ。
 だが、県は昨年3月の国との和解で、最高裁判決に従い、「誠実に対応する」と確約したはずだ。政府は工事を10か月近く中断し、和解条項を履行した。翁長氏は埋め立てを受け入れるべきだ。
 仮に埋め立て承認を撤回するなら、知事権限の乱用だろう。
 翁長氏は先月末から約1週間、米国を訪問し、下院議員や米政府の担当者と面会して、辺野古移設への反対を訴えた。訪米は3回目で、翁長氏は「柔軟な議論ができた」と成果を自賛した。
 しかし、来日したマティス米国防長官が辺野古移設を推進する方針を表明するなどし、翁長氏の訪米は空回りに終わった。
 代替案も示さずに、「反対一辺倒」を唱えるだけでは、米側の理解は広がらない。知事の責任も果たせない。

 「政府は――」「菅官房長官は――」「防衛省は――」「日米両政府は――」。段落の書き出し=主語が権力側で、社説が国民の視点で書かれたものではないことを如実に示している。一読して分かる通り、内容は安倍政権が主張してきた強行移設の言い訳。普天間返還が遅れているのは、沖縄県が反対しているからで、悪いのは翁長知事だという一方的な見解である。反対派を取り締まれというくだりには、政権に媚びへつらう犬の臭いが満ちており、反吐が出そうだ。読売が言う「反対派」の中には、沖縄県民、それも沖縄戦の悲惨さを知るお年寄りがいる。

 社説の結びは、≪代替案も示さずに、「反対一辺倒」を唱えるだけでは、米側の理解は広がらない。知事の責任も果たせない≫。“正気ですか”と言いたくもなる。移転先を「辺野古」と決めたのは国。沖縄が代替案を示す必要はあるまい。辺野古はダメだと地元が主張する以上、国が責任をもって移転先を探すべきで、県外移設を唱えてきた沖縄県に代わりの土地を提示しろと迫るのは筋違いだろう。そもそも、狭い沖縄本島に基地が集中するから危険なのであって、本土に持ってくるか、基地そのものをなくせば済む話なのだ。読売新聞社には、「こんな社説で、報道の責任が果たせるのか」と問いたい。

■無視される沖縄の歴史
 読売の社説で一番問題なのは、先の大戦から今日にかけて、国の捨て石となってきた沖縄に寄り添おうという思いが微塵も感じられないことだ。沖縄を語る時、よく枕に振られるのが「県民の4人に1人が犠牲になった」「国土の 0.6%に過ぎない沖縄に、国内米軍基地の75%が集中」といった文言。だが、沖縄には、これだけでは済まない悲惨な歴史がある。

 ひめゆり学徒隊、鉄血勤皇隊、護郷隊――。沖縄戦では、14歳から18歳の“子供”たちが、事実上強制的に軍事活動の一翼を担わされ、多くの命を散らした。ひめゆり学徒隊は200人以上が戦火の犠牲となり、鉄血勤皇隊や護郷隊に組み入れられた子供たちは、皇軍の兵士として米軍と戦い、戦闘の中で多くが亡くなった。護郷隊については、自らの手でふるさとの集落を焼き払うという痛恨の経験を強いられたことが知られている。沖縄の他に、子供が戦争をやらされた都道府県などあるまい。加えて、戦後の米軍基地支配。歴史を知るジャーナリストなら、辺野古移設に反対する沖縄の思いを記事の行間ににじませるものだが、社説を書いた読売の論説委員は一顧だにしていない。政権におもねる姿勢は、哀れと言うしかない。気になるのは、こうした沖縄蔑視が顕在化していることだ。

■ニュース女子と読売社説―沖縄蔑視で政権擁護
 今年1月、東京MXテレビの番組「ニュース女子」が、沖縄県東村高江の米軍ヘリパッド建設現場の反対運動を特集。基地反対派の人たちを「テロリスト」「犯罪者」などと決めつけた。内容は、お粗末極まりないもので、反対派への取材もせずに40キロ以上離れた場所から自称・軍事ジャーナリスが“現地レポート”。次々と裏付けのない話を垂れ流し、反対派を社会の敵であるかのように扱った。反対運動の黒幕と名指しされた女性は、「ニュース女子」に人権侵害があったとして、放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権員会に申し立てを行っている。ニュース女子問題の根底にあるのは、沖縄蔑視。ニュース女子と読売社説に通底しているのは、本土から遠く離れた沖縄になら、何をしても構わないという権力側の考え方だ。

 ニュース女子や読売社説の攻撃対象が、本土の都道府県に対するものだったら、どうなったか?おそらく、ニュース女子は即刻打ち切り。抗議された読売は、大きく部数を減らすだろう。MXテレビは東京ローカルで、沖縄の人たちは視聴できない。読売新聞の沖縄県での販売部数はわずかに570部(昨年11月の数字)。いずれも沖縄県内での影響力は皆無に等しく、ネット上で事実確認され、騒ぎになる程度だ。だが、読売は国内販売部数900万部を誇る全国紙であり、MXの視聴対象は首都圏数千万人。多数の日本人に、捻じ曲げられた沖縄の姿を刷り込むことになる。報道機関のやることではあるまい。

 ちなみに、ニュース女子を制作しているのは「ボーイズ」という番組制作会社。同社は、読売テレビで放送している右派の論客を集めた「そこまで言って委員会」を制作している。ニュース女子の司会者と件のインチキ軍事ジャーナリストは、そこまで言って委員会の常連。二つの番組は、安倍晋三や橋下徹氏を応援してきた人たちが頻繁に登場することでも共通している。ニュース女子も読売の社説も、目的は辺野古移設を進める政権の擁護なのである。沖縄の声など歯牙にもかけない輩が、社説を書き、テレビ番組を作るという現実。政治や報道が、戦前同様の歪みを見せている。



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