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読売・朝日は100万超 減り続ける販売部数
新聞に未来はあるか?(下)

2017年1月12日 10:00

 昨年、日本国内における「表現の自由」の状況を調査した国連の特別報告者が、権力側の圧力で委縮する報道機関の現状に警鐘を鳴らした。確かに、大手メディアの劣化は誰の目にも明らか。読売、産経、日経はそろって“政権の犬”状態で、朝日も誤報問題以後、かつての勢いが失せたままだ。権力の監視機能が低下する中、インターネットやSNSの普及で情報伝達の手法が多様化し、新聞離れに拍車がかかっている。

減り続ける新聞の販売部数
 聞きなれない団体だが「ABC協会」という一般社団法人がある。広告の売り手=新聞・雑誌・門紙誌・フリーペーパー、買い手=広告主・スポンサー、仲介する広告会社=広告代理店の3者で構成される会員制組織で、広告取引の参考となるよう、新聞、雑誌などの部数を調査して会員向けに提供する団体だ。新聞については、月別の販売部数が分かるようになっている。入手したABC調査の資料から2001年、2013年、2016年の全国紙の販売部数をグラフ化した。

1-全国紙.jpg
全国紙の現状.jpg

 読売は15年間で13%約128万部、朝日に至っては24%約196万部の部数減だ。毎日、日経、産経もそろって部数を減らしており、全国紙の低落傾向は深刻な状況となっている。

 原因は様々あろう。第一に考えられるのはインターネットやSNSの普及。携帯やパソコンの画面から情報を得る人が増える一方で、紙媒体は敬遠されがち。活字離れが加速しており、新聞だけでなく、雑誌の販売部数も落ち込んでいる。

 ただし、例外もある。昨年、甘利明元経産相の口利き疑惑や芸能人の不倫をスクープした週刊文春が、大きく売り上げを伸ばした。「文春砲」の威力は絶大で、同誌が女性スキャンダルを報じた都知事選の候補は、支持率を落として落選している。不行跡をとり上げるのは週刊誌とネットメディアだけ。新聞は、政治家の監視を怠っていると言っても過言ではあるまい。活字離れの背景に、“新聞の不作為”がある。

読売・朝日、誤報で急減
 特筆すべきは、2013年からの3年間で読売・朝日の部数が急激に落ち込んでいること。読売が約100万部、朝日は116万部と他紙に比べて大きく部数を減らしている。
 
 読売は、2012年10月に「iPS心筋」の臨床応用をめぐる記事で世紀の大誤報。一方朝日は、2014年にいわゆる吉田調書と従軍慰安婦に関する誤報が発覚しており、両紙の信用失墜が大幅な部数減につながった可能性が高い。ただし、毎日、日経、産経も苦しい状況であることに変わりはなく、部数減の原因が、誤報だけに限らないことを示している。なぜ新聞の販売部数は減り続けているのか――。

進む若者の新聞離れ
 ある大学の教授が、50人のゼミ生に聞いたところ、一人暮らしで新聞を購読している学生は皆無だったという。若者の新聞離れは顕著で、20代、30代の社会人も新聞をとらないケースが大半。「新聞を読むなんてカッコ悪い」と断言する人もいる。新聞の凋落は、時代の流れと言えそうだ。

 では、若者はニュースや社会の状況についての情報を、どうやって入手しているのか――。福岡市内の大学生20人に取材してみたが、一番多かったのが「SNS」という答え。次がネットのニュースサイト、三番目がテレビで、「新聞」という回答を得ることはできなかった。新聞を購読する予定について確認してみたが、「必要ないですから」とにべもない。中には「新聞報道が正しいというわけではない」と、報道の内容に疑問を呈する学生もいた。印象に残ったのが、ある3年生男子の話。「批判しているのか、擁護しているのか分からない記事にイラっとくる。読者に判断を委ねるという形の記事は、ずるいと感じる。立場をぼかした批判は、批判とは言えない」――思わず握手したくなる歯切れの良さだった。

 欧米のメディアは立場をハッキリさせるが、日本の報道機関は「公平・公正」を盾に、記者の思いを殺すのが普通。議論が二分するテーマであっても、賛成・反対両方の識者のコメントを掲載してバランスをとる場合がほとんどだ。こうした姿勢が、逆に新聞離れを招いているのかもしれない。

 部数減は、経営を圧迫する。広告主も遠ざかる。経営が苦しくなれば、記者を減らさざるを得ない。部数減→広告収入の減少→記者のリストラ→取材力の低下→面白くない紙面→新聞離れ→部数減……。新聞が、負のスパイラルに陥っているのは事実だろう。旧知の新聞記者に片っ端から尋ねてみたが、誰一人処方箋を示せないのが現状だ。

地方紙も部数減
 部数減に苦しんでいるのは、地方紙も同じである。全国紙同様、2001年、2013年、2016年の九州7県の新聞販売部数を、グラフと表にまとめた。

1-グラフ.jpg
地方紙九州1.jpg

 各紙の販売部数は、15年間で軒並みダウン。健闘している佐賀新聞も、2013年からの3年間では6,000部減らしている。熊本日日の落ち込みには一部熊本地震の影響がありそうだが、西日本、長崎、大分合同、宮崎日日、南日本各紙の部数減は、新聞業界が抱える構造的な問題に起因していると見るべきだろう。「新聞は衰退産業」――多くの記者が自嘲気味に語る言葉だ。

それでも期待
 落ち込む一方の新聞販売部数、本当に処方箋はないのだろうか?ある地方紙の記者は、こう話す。
 「権力の監視という新聞の最大の使命を果たすべく、怠らず脇を締めて地に足をつけた報道をしていくことに尽きると思っています。ウォッチドッグとして目を光らせ鼻をきかせて足でかせぐ。それしかないのですから」

 地方紙の記者が言う通り、“権力の監視”こそが新聞の使命である。こういう記者が増えれば、新聞も面白くなる。だが、現実には週刊誌やネットメディアにお株を奪われているのが実情で、政権や地方の実力者にはまるで手が出ない。甘い批判でお茶を濁し、体裁を繕っている新聞ばかりだ。何もできないくせに、週刊誌やネットメディアを蔑む記者も少なくない。この結果が、いまの新聞離れであり、部数減であることに、新聞社の記者も経営陣も気付いていない。

 昨日の配信記事で、地元権力に弱い南日本新聞と西日本新聞のケースを取り上げた。残念ながら地方紙の多くが、似たり寄ったりの状況だろう。全国紙に至っては、一強・安倍になす術もなく暴走を許しており、権力の監視どころか追随する有様だ。紙面構成も書きぶりも旧態依然。これでは、購読者が減るのも当然ではないか。新聞の紙面は、国や自治体、企業の発表ものと広告で埋められているのが実情。主語は、常に権力側である。これを変えない限り、新聞に未来はない。頑張れ、新聞!



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