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支持率と株価 安倍政権の不都合な真実
 

2017年1月30日 09:45

gennpatu 1864410756.jpg 通常国会が始まった。安倍首相は冒頭の施政方針演説から、野党批判を繰り返している。
 ――ただ批判に明け暮れたり、言論の府である国会の中でプラカードを掲げても、何も生まれません
 ――かつて、『最低でも』と言ったことすら実現せず、失望だけが残りました。威勢のよい言葉だけを並べても、現実は1ミリも変わりません。必要なことは、実行です。結果を出すことであります
 「天に唾する」とは、このことである。野党時代の自民党も、国会の中でプラカードを掲げていたのだし、TPP、日韓合意、北方領土と、相手のある問題の難しさに、ことごとくぶち当たっているのは当の首相自身である。

■物は言いよう
 だが、野党批判は、これにとどまらない。いくつもの「数字」を挙げて、民主党政権との違いを強調した。一例を挙げる。
 ――相対的貧困率が足元で減少しています。特に子どもの相対的貧困率は2%減少し、7.9%。15年前の調査開始以来一貫して増加していましたが、安倍内閣の下、初めて減少に転じました。

 この数字には、民進党の長妻昭氏が苦言を呈した。というのも、首相が持ち出した数字は、総務省の全国消費実態調査に基づくもので、厚労省が以前から使っている別の数字もあるからだ。子どもの貧困率を考える時は厚労省の数字を使うよう求める政令があり、この数字の最新は2012年で、「安倍内閣の下で減少に転じ」ているかどうかは、まだわからない。長妻氏は、貧困の連鎖の深刻さを裏付ける別の数字を紹介して、「油断してもらっては困る」と釘を刺した。

 このように物は言いよう、数字は使いよう、いかようにでもなる。ならば、込み入った数字にかかずらうのではなく、ここは一つ、よく知られた数字をもとに、ざっくり大胆な物言いをしてみたい。民主党政権下より安倍政権下の方が、景気も雇用も改善しているとして、では、それは首相が誇る通り、アベノミクスによるものなのか、いや、米国の好景気のおかげだ、と。

■株価と内閣支持率は連動している
 よく知られたことだが、内閣支持率と日経平均株価はある程度、連動している(※表1)。首相交代直後の支持率は、ご祝儀相場で跳ね上がるため、生の数字をグラフにしても分かりづらい。そこで、各首相の在任期間中の支持率と株価について、それぞれ平均値を割り出し、グラフを作り直してみると、関連性が見えやすくなる(※表2)。

hu1.jpg       表1

hu2.jpg        表2

 鳩山内閣で、株価に対して支持率が高く出ているほかは、おおむね株価と支持率は連動しているように見える。第2次安倍内閣は他と比べ、より関連が深いように見える。金融緩和に財政出動、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を活用した露骨な買い支えによって、株価をつり上げ、高い支持率を維持してきたこの内閣の特徴が現れているようだ。

■日米の株価は連動している
 だが、ここに米国の株価の指標であるダウ平均株価を持ち込んでみると、違う世界が見えてくる。ざっくり言えば、日本と米国の株価は連動している(※表3)。

hu3.jpg        表3

 日本経済にとって米国経済が大きな存在であることは疑いようがない。日本にとって対米輸出の割合は20.1%と、中国(17.5%)を押さえ、トップ(財務省、2015年)。米国のGDPは日本の4.4倍を誇り、世界全体の24.5%を占める(国際通貨基金、同年)。グローバル化の進展や中国などの台頭によって、「米国がくしゃみをすれば、日本が風邪を引く」ほどではなくなったが、「米国が風邪を引けば、日本も風邪を引く」程度の関係性は続いている。

 その関係性が現れたのが2008年9月のリーマン・ショックだ。日米のみならず、世界中の株価が暴落した。その年の暮れ、東京・日比谷公園に年越し派遣村が開設され、翌年の新語・流行語大賞トップ10に「派遣切り」が入った。時の政権は麻生内閣、その1年後、鳩山内閣が発足する。

■固有の事情も当然ある
 一方で、日米の株価が異なる動きを見せることも当然ある。典型は、東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故だ。米国の株価が上向いていくのとは違い、2011年3月からしばらく、日本の株価は落ち込んだ。時の政権は菅内閣、半年後に野田内閣が発足する。

 日米で株価は連動し、時にそれぞれ固有の理由で別の動きをする。ここで確認しておきたいのは、安倍首相が繰り返し批判する民主党政権(2009年9月~2012年12月)は、日米で株価が暴落し、さらに日本だけ取り残された時期にあたるということだ。言い換えれば、麻生氏の言うところの「未曽有」の危機と、原子力ムラの言う「想定外」の危機への対応に追われ続けた「国難の3年2カ月」だった。

■米国の好景気というカミカゼ
 では、第2次安倍内閣が舵取りをする今は、どういう時期にあたるのだろう。ここで、これまで見てきた3つの数字(内閣支持率、日経平均株価、ダウ平均株価)について、各首相の在任期間中の平均値をグラフにしてみよう(※表4)。

hu4.jpg        表4

 第2次安倍内閣の発足は震災から1年9カ月後。日経平均は跳ね上がった。民主党政権への深い失望に対する反動が大きな期待となって現れたと言える。ただ、その頃、米国ではリーマン・ショックの傷口はとうに癒え、ダウ平均が右肩上がりを続けていたことを忘れてはならない。

 表3「日米の株価は連動している」を見れば明らかなように、日経平均は東日本大震災と東電福島第一原発事故による遅れを取り戻した後、ダウ平均と絡み合うようである。両者は互いに影響し合っているが、その規模から考えれば、米国が主、日本が従の関係にあると見るのが自然だ。

■神話の世界を生きてはならない
 改めて、ざっくり大胆に言う。安倍内閣の支持率は、米国から吹き続ける株高というカミカゼに支えられている。その意味で、内を向いては「アベノミクスを吹かし続ける」と勇ましいこの国の宰相が、外を向いては、とにかく米国に媚び続ける「不変の原則」を掲げているのも、うなづける。

 気になるのは、野党への執拗な批判だ。首相は気づいていないのかもしれないが、「数字がいいのはすべてアベノミクスのおかげ」と誇るのも、「数字が悪かったのはすべて民主党政権のせい」と蔑むのも、「すべては政治がコントロールできる」という勘違いの、コインの表裏である。

 確かに政策には成否があり、政権運営には巧拙がある。政治が重要であることは言うまでもない。それでも、株価の大暴落や甚大な自然災害の発生は、いまだに予測できないところがある。全知全能だと勘違いすれば、危機への備えもおぼつかない。全知全能を自認するとすれば、それは神話の世界を生きるに等しい。皇軍の不敗神話、バブル期の土地神話、原発の安全神話。思えばこの国にはいくつもの神話があり、取り返しのつかない失敗を繰り返してきた。無知無能は論外だが、全知全能のもたらす厄災への恐れはあるか。

 何より首相の重責を担う者は、こうした「数字」の裏側にあるものを忘れてはならない。米国と絡み合いながら上向いていった日本の株価の裏側には、被災地と手を取り合って奮闘した人々、生き残りをかけて試行錯誤を重ねた企業の営みがある。それやこれやに目を向けず、良いことはすべて自分の手柄だと胸を張り、悪いことはすべて野党のせい、あいつらは無知無能だと言い募って恥じないのだとすれば、それは権力者のおごり以外の何物でもない。


※表1 内閣支持率は、NHK放送文化研究所の政治意識月例調査を利用。東日本大震災の影響でデータが欠けている2011年3月分は、同年2月と4月の平均値とした
※表2 小泉内閣(2001年4月~2006年9月)の数値は2006年以降のみ
※表3 縦軸の単位は「円」または「ドル」。2016年末では、日経平均が2万「円」近くを、ダウ平均が2万「ドル」近くをつけており、生の数字そのままを使っている



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