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安倍晋三 “不敬”の証明(上) -憲法と今上陛下-

2017年1月16日 09:00

20150623_h01-01t--2.jpg 右寄りと思われてきた安倍晋三だが、後にも先にも、この人ほど天皇陛下を軽んじる保守政治家はいない。
 皇室に対して敬意を欠いた言動をとることを「不敬」というが、歴代の中で、安倍は唯一「不敬」を体現している首相と言えるだろう。
 今上天皇が節目ごとに発せられたお言葉を振り返ってみると、陛下のご真意とは全く逆の方向に走る、安倍政権の実相が浮き彫りとなる。

天皇陛下の憲法への思い
 陛下は、即位やご結婚などの周年記念日、お誕生日といった節目となる日に、談話や会見などの形でお気持ちを示さるのが通例だ。平成元年の即位から昨年のお誕生日までに発せられたお言葉からは、憲法と沖縄に対する陛下の“特別な思い”が伝わってくる。まず、憲法について、陛下のお言葉を確認してみたい。

 平成元年1月9日、陛下は即位後に行われた朝見の儀で、「皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓い、国運の一層の進展と世界の平和、人類福祉の増進を切に希望してやみません」と述べられ、憲法遵守の意思をお示しになられた。同年8月の記者会見で、改めて憲法への思いについて聞かれた陛下は、次のように答えられている。

 憲法は、国の最高法規ですので、国民と共に憲法を守ることに努めていきたいと思っています。終戦の翌年に、学習院初等科を卒業した私にとって、その年に憲法が公布されましたことから、私にとって憲法として意識されているものは日本国憲法ということになります。しかし、天皇は憲法に従って務めを果たすという立場にあるので、憲法に関する論議については言を謹みたいと思っております。

 “憲法遵守”を繰り返される陛下が、それ以上に踏み込んだ発言をされることはなかった。憲法公布から50年目にあたった平成8年のお誕生日でのご発言でも、その姿勢に変わりはなかったことが分かる。

 日本国憲法が公布された時は、私が学習院の中等科1年の時でした。その当時のことで新聞や人の話として記憶していることは、後に日本国憲法を審議することになった大日本帝国憲法下最後の衆議院の総選挙が行われ、初めて婦人代議士が選ばれたこと、選挙後、自由党の吉田内閣が成立したこと、11月3日,公布の日に昭和天皇、皇后を迎えて皇居前広場で式典が行われたことなどが挙げられます。新憲法が口語文で書かれたことが印象に残っていますが、憲法の内容については、その後に折々理解を深めてきましたので、当時、どの程度憲法を理解していたかは記憶に定かでありません。
 天皇は日本国憲法によって、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴と規定されています。この憲法に定められた天皇の在り方を念頭に置きながら、私は務めを果たしていきたいと思っております

大日本帝国憲法を否定された今上陛下
 「象徴天皇」であることに徹し、頑なに憲法に関する発言を控えられていた陛下が、踏み込んだご発言をされたのが平成21年。天皇皇后両陛下御結婚満50年に際しての会見でのご発言だ。50年を振り返って、皇室の在りようや伝統を次代にどう引き継ぐか聞かれ、こう語られていた。

 時代にふさわしい新たな皇室のありようについての質問ですが、私は即位以来、昭和天皇を始め、過去の天皇の歩んできた道に度々に思いを致し、また、日本国憲法にある「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」であるという規定に心を致しつつ、国民の期待にこたえられるよう願ってきました。象徴とはどうあるべきかということはいつも私の念頭を離れず、その望ましい在り方を求めて今日に至っています。なお大日本帝国憲法下の天皇の在り方と日本国憲法下の天皇の在り方を比べれば、日本国憲法下の天皇の在り方の方が天皇の長い歴史で見た場合、伝統的な天皇の在り方に沿うものと思います

 守ってきた皇室の伝統についての質問ですが、私は昭和天皇から伝わってきたものはほとんど受け継ぎ、これを守ってきました。この中には新嘗祭のように古くから伝えられてきた伝統的祭祀もありますが、田植えのように昭和天皇から始められた行事もあります。新嘗祭のように古い伝統のあるものはそのままの形を残していくことが大切と考えますが、田植えのように新しく始められた行事は、形よりはそれを行う意義を重視していくことが望ましいと考えます。したがって現在私は田植え、稲刈りに加え、前年に収穫した種籾を播くことから始めています。学士院賞や芸術院賞受賞者などを招いての茶会なども皇后と共に関係者と話し合い、招かれた全員と話ができるように形式を変えました。短時間ではありますが、受賞者、新会員皆と話をする機会が持て、私どもにとっても楽しいものになりました。

 皇室の伝統をどう引き継いでいくかという質問ですが、先ほど天皇の在り方としてその望ましい在り方を常に求めていくという話をしましたが、次世代にとってもその心持ちを持つことが大切であり、個々の行事をどうするかということは次世代の考えに譲りたいと考えます。

 注目すべきは、この時陛下が述べられた「大日本帝国憲法下の天皇の在り方と日本国憲法下の天皇の在り方を比べれば、日本国憲法下の天皇の在り方の方が天皇の長い歴史で見た場合、伝統的な天皇の在り方に沿うものと思います」のくだり。陛下は、「天皇制=日本の歴史」に沿うのは現行憲法だと明言されていたのである。大日本帝国憲法の否定であり、戦前回帰へとひた走る安倍政権とは、まったく逆の考え方を示されていたことになる。

 大日本帝国憲法と現行憲法を比較してみる。大日本帝国憲法の第1章は第1条から第17条まで。要約すれば、神聖にして侵すことのできない万世一系の天皇が国を統治し、軍の統帥を含むすべての権限を集中させるというものだ。統治権=主権と考えるなら、明らかに天皇主権。第2章以降の条文によって、国民は「臣下」と定められる。

 一方、現行憲法で天皇について規定した第1章は、第1条から第8条まで。天皇は「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」であり、「内閣の助言と承認」により、国民のために、一部の国事に関する行為など限られた役割しかない。もちろん、主権は国民にある。今上陛下は、大権を有する大日本帝国憲法下の天皇ではなく、現行憲法下の天皇こそ、本来の天皇の姿だと考えておられるのだ。

 天皇陛下に大日本帝国憲法を否定されて困るのは、安倍首相と自民党だ。陛下のお考えを尊重するなら、必然的に、自民党の憲法改正草案に規定する天皇像が否定されることになるからだ。大日本帝国憲法、日本国憲法、自民党憲法改正草案の、それぞれの条文を並べてみれば分かる。

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 自民党の改憲案では、第1条に大日本帝国憲法第4条にあった「元首」の二文字が復活。これだけで、うさん臭さが漂う状況だ。安倍政権が目指す自民党の改憲草案が、陛下にとっては受け入れがたいものであることが分かる。

 自民党の改正案は、「個人」より「国家」を優先する考え方に基づくもの。そのため、「緊急事態条項」などという戦前の国家総動員法をなぞった極めて危ない仕掛けも含まれている。しかも、権限の多くを握るのは天皇に代わって内閣総理大臣。自民党が示す国家像は、平和の希求という崇高な理念を破棄した「戦争ができる国」で、大日本帝国憲法下の日本と極めて似た国家と言わざるを得ない。陛下が大日本帝国憲法を事実上否定していたことを、安倍首相が知らないはずがない。安倍はつまり、現行憲法擁護という陛下の思いを、無視して事を進めているのである。

両陛下の警句を無視した安倍
 現行憲法擁護の姿勢を鮮明にされた陛下は平成25年12月、集団的自衛権の行使容認や改憲に前のめりとなる安倍政権の動きを受けた形で、天皇誕生日に際する記者会見において次のように述べられている。

 80年の道のりを振り返って、特に印象に残っている出来事という質問ですが、やはり最も印象に残っているのは先の戦争のことです。私が学齢に達した時には中国との戦争が始まっており、その翌年の12月8日から、中国のほかに新たに米国、英国、オランダとの戦争が始まりました。終戦を迎えたのは小学校の最後の年でした。この戦争による日本人の犠牲者は約310万人と言われています。前途に様々な夢を持って生きていた多くの人々が、若くして命を失ったことを思うと、本当に痛ましい限りです。

 戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、様々な改革を行って、今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し、かつ、改善していくために当時の我が国の人々の払った努力に対し、深い感謝の気持ちを抱いています。また、当時の知日派の米国人の協力も忘れてはならないことと思います。戦後60年を超す歳月を経、今日、日本には東日本大震災のような大きな災害に対しても、人と人との絆を大切にし、冷静に事に対処し、復興に向かって尽力する人々が育っていることを、本当に心強く思っています。

 陛下にとっての憲法とは、「平和と民主主義を、守るべき大切なものとしての日本国憲法」。これほど端的な憲法擁護の言葉はあるまい。この年には、お誕生日に際しての文書のなかで皇后陛下も憲法について言及。翌年2月には皇太子殿下が「今日の日本は、戦後、日本国憲法を基礎として築き上げられ、現在、我が国は、平和と繁栄を享受しております。今後とも、憲法を遵守する立場に立って、必要な助言を得ながら、事に当たっていくことが大切だと考えております」と現行憲法遵守を明言されていた。両陛下、さらには皇太子殿下までが、そろって憲法に言及されるというのは極めて異例。憲法改正への動きを加速させる安倍政権への警句であったとも言えよう。しかし安倍は翌27年、皇室の御心痛をよそに、安保法を強行採決。日本が戦後70年かけて築いた「平和国家」の根幹を、あっさり崩している。安倍政権は、天皇や国民を欺き続けた戦前の軍部と同じなのだ。

 現行憲法が第99条に定めた「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」という規定を遵守されてきた天皇皇后両陛下――。天皇陛下の思いを無視し、99条はもちろん、現行憲法をGHQの押し付け憲法だとして真っ向から否定する安倍晋三――。これほどの不敬を犯す政治家が、保守政治家であるはずがない。



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