事実上の献金を“会費”として処理し、不適切な政治資金処理を行っていることが明らかとなった森博幸鹿児島市長の政治団体が、“支出”についても不透明な報告を行っていることが分かった。
市長の関連政治団体が鹿児島県選挙管理委員会に提出した政治資金収支報告書によれば、鹿児島市内のマンションに事務所を置く関連3団体の経常経費は、合計して年間900万円から1,000万円。このうち、金額や相手先などの報告義務がない支出が8割を占めており、政治資金の流れが掴みずらい形となっている。
高額な経常経費と事務所の使用実態が合致していないことも分かっており、実際に支出があったのか疑わしい状況だ。(写真は、いつも無人の森市長の事務所)
支出の大半が「経常経費」の不可解
森市長の資金管理団体「もり博幸後援会 博友会」と支援団体である「もり博幸後援会」「活力ある鹿児島市をつくる会」の年ごとの支出を合計すると、次のようになる(*博友会から、もり博幸後援会及び活力ある鹿児島市をつくる会に寄附の形で移動した政治資金を除く)。
・平成25年:15,146,257円
・平成26年:13,558,871円
・平成27年:11,338,616円
一方、下の表は「経常経費」の年ごとの合計をまとめたものだ。
【参考】政治資金規正法の規定によれば、人件費は政治団体職員の給料・諸手当や社会保険料など。事務所費は、事務所の地代や家賃、公租公課、火災保険料等の他、電話使用料、切手購入費、修繕費など事務所の維持に通常必要とされるものとなる。備品・消耗品には、机、コピー機、自動車、封筒などの購入費や、新聞・雑誌代、ガソリン代などが含まれ、光熱水費としては、電気、ガス、水道の使用料を記載する。
いずれの年も、支出総額の7割~8割を経常経費が占めていることが分かる。支出総額に比して経常経費が多いのは、実質的な政治活動が少なかったということ。これは、政治活動費の3団体合計が、平成25年2,834,071円、26年3,070,037円、27年2,272,289円に過ぎないことでも明らかだ。
政規法の規定で、経常経費のうち人件費は内訳の記載が不要。資金管理団体については、事務所費、備品・消耗品費、光熱水費で5万円以上の支出を報告するよう義務付けられているが、それ以外の政治団体は、経常経費の内訳を報告書に記載する義務がない。このため、博友会、もり博幸後援会、活力ある鹿児島市をつくる会の経常経費で、報告書に支出の相手先が記されているのは数件に過ぎない。例えば、26年、27年の経常経費のなかで、支出先が記載されているのは博友会のパソコン代、事務所家賃、複合機のメンテ費、一部の交通費のみ。あとは、「その他の支出」として合計金額だけが記されている。年間1,000万円以上使って、5万円未満の支払いばかりというのは、いかにも無理がある。
年間の光熱水費が2万円台の不可解
注目したのは、「光熱水費」の安さだ。森市長関連3団体の事務所はマンションの一室に同居しており、光熱水費は博友会がまとめて支払った形になっている。前掲の表中、赤字で示した通り、年間で3万円にも満たない額だ。これは、ほぼ基本料金の合計で、部屋は常時使用されていない状態と見るべきだろう。事実、取材のため複数回訪れた市長の事務所は常に不在で、電話は事務担当者の携帯につながるようになっていた。1,000万円を超える経常経費と年間2万円台の「高熱水費」には整合性がなく、収支報告書に記載された支出額は、疑わしいと言わざるを得ない。
2万円台の高熱水費を前提に考えると、すべての経常経費に疑問が生じる。森市長の事務所によれば、給与をもらっている職員は2名。それが常勤でないとしたら、年間500万円近い人件費は高すぎることになる。事務所側に確認したところ、臨時のアルバイト料も人件費に入れたというが、事実かどうか分からない。本来、臨時のアルバイト料は政治活動費として計上すべきなのだ。
一番怪しくなっているのは事務所費。政治資金収支報告書に記載された、3団体が入居するマンションの家賃は年間33万1,800円。毎年その約10倍もの事務所費が支出されているのはどう見てもおかしい。年間2万円台の光熱水費と事務所使用の実態では、とても300万円の事務所費に届かない。この点についても市長の事務所に訊ねてみたが、納得できる説明は聞けなかった。
不透明収支に綻び
経常経費を含む全体の支出にも疑問がある。3団体の支出のうち、使途や支出先が明かされているのは、詳細が確認できた平成26年で8件141万2,824円分、27年で10件158万9,896円分しかない(*26年に博友会から「活力ある鹿児島市をつくる会」に寄附された400万円、27年に同会から「もり博幸後援会」に寄附された300万円を除いた金額)。政治活動費の大半は、経常経費同様「その他の支出」として処理され、合計金額が記されているだけだ。つまり、費消されたとされる政治資金のほとんどは支出先不明で、極めて不透明な収支となっている。
特に不明朗なのは、「もり博幸後援会」の支出。同団体の収入は、年間1,000万円もの「会費」を集めている博友会からの寄附によるもの。いったん、もり博幸後援会に入った政治資金は支出のすべてが「その他の支出」として片づけられており、支出先が一切分からない状態になっている。収入実態を「会費」でごまかし、支出の大半を5万円未満で処理――。うまく政治資金の流れを隠してきたつもりだろうが、あちこちに綻びが見え始めている。