11月8日に起きたJR博多駅前の陥没事故から、もうじき50日。国交省が設置した「福岡市地下鉄七隈線延伸工事現場における道路陥没に関する検討委員会」(第三者委員会)は来年1月に2回目の会合を開く予定だが、原因究明がいつになるのか判然としない。当分、現場は“仮復旧の事故現場”。本格的な復旧や、地下鉄七隈線延伸工事の再開は望むべくもない。
ここに来て、明らかになってきたのが福岡市の隠蔽姿勢。報道各社の情報公開請求を無視している上、市議会にも工事に関する重要文書を開示しておらず、時間稼ぎに終始する状況となっている。一体何を隠しているのか?
どうする道路法40条 ― 回答渋る福岡市
HUNTERは今月15日、福岡市交通局に対し、「道路法」と事故現場の本格復旧との関係について訊ねた。道路法40条の規定に従えば、本格復旧前に、陥没事故現場に埋まったままとなっている信号機や配管、コンクリートがら、土嚢などを掘り出す必要があるからだ。所管課の指示通りメールで質問事項を送ったが、10日経っても回答なし。27日に確認したところ、「道路管理者と協議中のため、時間が欲しい」のだという。
【参考:道路法】
(原状回復)
40条 道路占用者は、道路の占用の期間が満了した場合又は道路の占用を廃止した場合においては、道路の占用をしている工作物、物件又は施設(以下これらを「占用物件」という。)を除却し、道路を原状に回復しなければならない。但し、原状に回復することが不適当な場合においては、この限りでない。
2 道路管理者は、道路占用者に対して、前項の規定による原状の回復又は原状に回復することが不適当な場合の措置について必要な指示をすることができる。
事故現場は市道。道路管理者は福岡市だ。一方、地下に水道管などの埋設物を設置している「道路占有者」も福岡市。交通局は、所管部局である道路下水道局や博多区役所と協議を続けているということらしい。だが、道路行政においては法律の規定がすべて。産廃を違法に埋めたまま、「復旧しました」というわけにはいくまい。答えは一つしかないはずだが、即答できないところに、問題の根深さがある。
道路法40条に関する取材に、何故即答できないのか――。考えられる理由は二つだ。
流動化処理土による道路の仮復旧は早かった。だが、それは法的な問題に目をつぶったか、あるいは気付かなかったかのどちらかであることを意味している。問題点を指摘されてから今後の対応を協議しているのが、何よりの証しだ。“方針が定まっていなかった”――それが第一の理由だろう。
市側の最大の悩みは、法を順守すれば、市長発言との整合性がとれなくなることだろう。高島市長は仮復旧後、テレビカメラに向かって「地盤は30倍の強度になった」と胸を張った。埋まったままの信号機などを撤去する必要があることを承知していれば、「強度30倍」を自慢することなどなかったはずだ。この時点で市長は、道路法の規定を知らなかった可能性が高い。頑強になった地盤を再び掘り返せば、「30倍の強度」は何だったのかということになるのは必至。本格復旧に向けて多額の追加予算も必要になる。答えたくない現実を前に、狼狽する福岡市といったところだ。法的には“掘り返して産廃撤去”だが、そう答えると早期の埋め戻しを指示した市長の決断を否定することにもなる。「市長を守るためには、掘り返せない」――それが市の本音と見るべきかもしれない。重ねて述べるが、「強度30倍」と掘り返しには整合性がない。
「情報非公開」
陥没事故に関する福岡市の隠蔽姿勢は、異常と言うしかない。条例で定めた情報公開にも、極めて不誠実な態度を続けており、地下鉄工事に関する報道各社の開示請求に対しては、いずれも開示決定期限を2か月~3か月延ばすという異例の対応。一方、請求の対象文書である「福岡市地下鉄七隈線建設技術専門委員会」(委員長:樗木武九州大学名誉教授)の議事録だけは、早い段階でいずれかに提供されていたことが分かっている。テレビの報道番組で、早くから現物の画像が流されていたのがその証拠だ。市議会側への資料提供だったと見られているが、議員に提出可能な文書なら、情報公開請求に対しても同様に開示すべき。開示請求者からの抗議を受けた市は、渋々議事録だけを開示してお茶を濁している。一部への情報提供から2週間以上遅れての対応だった。現在は、市議会の資料請求にも応じなくなっているといい、注目されるナトム工法採用の経緯や、陥没事故当時のトンネル内の様子など、肝心の情報が秘匿された状態となっている。
福岡市のシナリオは、国交省の第三者委員会で事故検証を済ませ、施工主体の大成建設に責任のすべてを押し付けるというもの。この間、議会を含めた外部の検証を避ける必要があるため、重要な文書は開示しない方針なのだという。つまりは隠蔽。市長に傷をつけないための、組織ぐるみの隠蔽である。地下鉄工事の原資は市民の税金だ。市民の検証を阻むようなマネは、絶対に許されない。