原子力ムラは、鹿児島県南大隅町(森田俊彦町長)での核ゴミ施設建設を諦めていなかった――。
核と決別したはずの南大隅町の町民が、青森県六ケ所村の核関連施設視察ツアーに参加していた問題。取材を進める中、建設会社の役員が、一昨年、昨年と町民の参加者を募って別の原子力関連施設を視察していたことが明らかとなった。背後に蠢くのは原子力ムラの中心である電力会社。旅費や現地の案内など世話の一切を、東京電力の関係者がまかなっていた可能性がある。
(写真は、町役場前に設置された核ゴミ施設反対の看板)
核視察は毎年 引率は町長派の建設業者
新たに分かった視察先は、茨城県東海村と北海道幌延町。東海村は、我が国の原子力発電発祥の地として知られ、現在は日本原子力発電の東海(廃炉作業中)・東海第二原発の他、「大強度陽子加速器施設(J-PARC)」などの原子力関連施設が集積する村だ。
一方、幌延町にあるのは国立研究開発法人日本原子力研究開発機構が運営する「幌延深地層研究センター」。高レベル放射性廃棄物の地層処分技術を研究開発する施設で、南大隅町で消えては浮かぶ核ゴミ処分場のモデルである。
原子力関連施設の視察ツアーに参加した南大隅町の住民によれば、昨年は東海村、一昨年は幌延を2拍3日程度の日程で訪れていた。町民らを核施設に連れ出していたのは、森田町長の支援企業として知られる地場業者「大村工務店」の取締役。町内にある自治会長会のトップを務めており、幅広く声をかけることのできる立場にあることから、原子力ムラの代理人になったと見られている。
ツアーにかかる旅費は、昨日報じた六ケ所村視察と同じく出所不明。ほとんどの参加者が、旅費を支払い元を知らされておらず、誰がツアーを主催したのか、まるで分らないのだという。必要な航空券などは、大村工務店の取締役が参加各人に渡していた。
背後に、闇の代理人と東電
森田町長に、東電関係者との核ゴミ疑惑が浮上したのが平成25年。核関連施設の建設推進派は、この騒ぎをよそに、原子力関連施設の視察ツアーを企画し、同町住民への地ならしを続けていたことになる。カネの力にモノを言わせる原子力ムラの手法だが、参加者などの話を総合すると、ツアー代金を支払ったり、視察の説明役として同行していたのは東電の関係者だった可能性がある。
六ケ所や東海、幌延などにある原子力関連施設は、どこも目を見張るような規模。いずれも安全性や地元への貢献を誇ってきた施設だ。原子力ムラは、視察を通じて町民を懐柔し、南大隅での核ゴミ施設建設に道筋をつけるのが狙いだろう。毎年視察を実施するのは、少しづつ理解者を増やし、施設誘致反対の声を減らすため。少人数でのツアーは、情報漏れを防ぐためだったと考えられる。事実、取材したツアー参加者たちは口が重く、「話せない」と下を向く町民も少なくない。
見落とせないのは、町長から核関連施設建設に関する委任状を受け取っていた会社社長H氏の動きだ。かつて、町民のツアー代を支払っていたのは東電の闇の代理人とされるH氏。町長との関係が知られてから表に出る機会を減らしているというが、前出・大村工務店の代表者をはじめ町長支持者と頻繁に会っていることが確認されており、背後に同氏の影がチラついているのは確か。ある電力関係者によれば、核ゴミ施設建設へに対するH氏の意欲は、少しも衰えていないのだという。H氏と東電による裏工作――闇の構図は何も変わっていない。森田町長は平成21年、H氏の自腹六ケ所ツアーに参加した町民らと東京で合流し、H氏から飲食接待を受けていたことが分かっている。
年度内にも核ゴミ施設の「有望地」公表
原発推進の姿勢を鮮明にしている安倍政権は、高レベル放射性廃棄物の最終処分場について、国の主導で場所を決める方針。これまで、原子力発電環境整備機構(NUMO)に任せてきた処分場の選定を国が行い、処分地の適性がある「科学的有望地」を、年度内にも公表する予定となっている。南大隅町は、経済産業省が狙う有力候補。有望地に指定される可能性は高い。
報じてきた通り、南大隅町は核関連施設の受入を否定する「南大隅町放射性物質等受入拒否及び原子力関連施設の立地拒否に関する条例」を制定している。現状では、核ゴミ施設の建設は不可能。町長も、表面上は条例を盾に「核ゴミ施設は造らせない」と主張している。だが、一部に「条例撤廃」への動きもあるとされ、国が南大隅町を核ゴミ施設の「有望地」として公表した場合、騒ぎが再燃するのは必至の状況だ。南国の静かな町が、再び核の是非を巡る争いに巻き込まれようとしている。