博多駅前で陥没事故を起こした地下鉄七隈線延伸工事の工法などを検討した「福岡市地下鉄七隈線建設技術専門委員会」(委員長:樗木武九州大学名誉教授)が、6回開かれた会議の度に委員を入れ替える形で議論を行っていたことが、関係者の話などから分かった。
委員の枠は8。このうち5枠はポストメンバーで、異動により毎回のように顔ぶれが変わっていた。6回すべての会議に参加したのは委員長を含む2名で、5回参加のメンバーを合わせ、すべて九州大学の関係者だった。
注目される「ナトム工法」へのお墨付きは、市交通局が主導し、九大の学者が追認するという形で出されている。
(写真は、仮復旧後の陥没事故現場)
交通局主導
地下鉄七隈線延伸工事の工法などについて検討する「福岡市地下鉄七隈線建設技術専門委員会」(以下、専門委)は、平成24年1月から今年8月までに計6回開かれ、注目される「ナトム工法」の問題点などについて議論していた。委員会のメンバーは委員長を含め8人。九大教授3人の他、鉄道建設・運輸施設整備支援機構や東京地下鉄、JR九州などの幹部職員がポストメンバーとして参加していた。
6回を通して議論に参加したのは、委員長と九大工学研究院教授の2人。九大工学研究院のもう1人の教授が、5回の会議に出席していた。残りの委員は異動などで毎回顔ぶれが変わっており、同じメンバーがそろった会議は1度もなかった。継続性を持って会議に参加したのは市交通局と九大の関係者だけ。専門委は市交通局が主導し、九大の教授が助言や承認を与える形で進められていた。
注目されるナトム工法については、平成25年2月に開かれた第2回の専門委から設計の在り方などについて議論。以後、すべての会議でナトムについての討議を重ねていたが、他の工法との比較はまったく行われていなかった。“ナトムありき”で進んでおり、市側が、専門委をナトムにお墨付きを与えるための場にした格好となっている。ナトム採用に至った経緯について、設計段階の詳しい検証が必要となりそうだ。
報告されていた沈下、クラック、薬剤注入
専門委では、陥没事故につながる可能性がある現象が起きていたことも報告されていた。近隣ビルの建設現場で確認された大きな地下水位変動、薬剤注入の必要がある地盤、延伸工事による地表面沈下やトンネル上部でのクラック(ひび割れ)出現……。いずれも、今回の事故原因との因果性が疑われる現象だった。波打つ現場周辺の地層のことや地下水対策の重要性も指摘されていたが、議論はいずれもナトム工法で工事を進めるための助言、市側方針の承認という形に終始。結果的に、専門委での議論は実際の工事に生かされなかったことになる。
専門委メンバーが第三者?
陥没事故を巡っては、原因究明のため国交省が設置した「福岡市地下鉄七隈線延伸工事現場における道路陥没に関する検討委員会」(第三者委員会)に専門委のメンバー2人が委員として参加していることも分かっている。事故検証の対象が検証する側に回った形。本来、専門委メンバーは参考人的な扱いをするべきで、客観性を欠く人選に疑問符が付く状況となっている。