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博多・地下鉄陥没事故 問われる情報公開の姿勢

2016年11月25日 09:30

市役所.jpg 今月8日にJR博多駅前で起きた地下鉄七隈線延伸工事の陥没事故。仮復旧が終わったことで、補償や事故原因の究明に焦点が移りつつある。重要なのは「情報公開」。より多くの視点で検証するためには、市が保有する文書をできる限りオープンにすることだろう。
 大成建設など5社で構成される共同企業体(JV)が請負った『地下鉄七隈線博多駅(仮称)工区建設工事』については、報道各社が関連文書の情報公開請求を行っている状況。だが福岡市は、事故原因につながると見られる工事関連文書の開示に後ろ向きだ。(写真は福岡市役所)

DSC04513.jpg最終責任は福岡市
 陥没事故発生から1週間後の15日未明、道路の埋め戻しと舗装が完了した。「どんなもんだ」と言わんばかりの高島市長。その態度に、違和感を覚えた人は少なくなかったはずだ。復旧の早さに称賛の声が上がったが、本末転倒もいいところ。あってはならない事故が起き、ビル倒壊の危険性まであったのだから、早期の埋め戻しは当然だったと言うべきだろう。
(写真は24日の事故現場)

 そもそも、重大事故を起こしたのは福岡市発注の工事。建設業者に厳しい視線が注がれているが、設計は市交通局で、最終的な責任は福岡市にある。問題視されているナトム工法を選んだのは福岡市。技術専門委員会のお墨付きを得た工事だったとしているが、役所の選んだ学者・有識者の判断を絶対視することはできまい。

 埋め戻しに使われたセメントを含む特殊な土は、時間が経つほどに堅くなる性質。高島市長は「元の地盤より30倍の強度がある」と胸を張ったが、1年も経過すればシールドマシンでも歯が立たたないほどの堅さになるのだという。工事再開は事故原因の究明後。検証作業が遅れれば、掘削工事が困難になることを示している。国交省任せではなく、より多くの視点で事故原因を探る必要があるはずだ。そのために必要なのが「情報公開」。可能な限り早期に、工事関連文書をオープンにするべきだろう。福岡市に、その覚悟があるのか?

地下鉄工事技術提案を黒塗り非開示 
 下は、HUNTERが市交通局への情報公開請求で入手した同工事の入札関連文書。大成建設など5社で構成される共同企業体(JV)が、入札に際し提出した技術提案書である。

1-地下鉄4.jpeg

 JV側の提案内容については、4項目すべてが黒塗り非開示。落札業者がどのような技術提案をやっていたのかまるで分らない状況だ。陥没事故が起きた以上、いずれかの提案に無理があったと考えるのが普通。市側の評価が間違っていた可能性もある。多くの目で検証する必要があるはずだが、市交通局は「(企業の)正当な利益を害するおそれがあるため」として、技術提案書の開示を拒んでいる。

 ちなみに、総合評価で求められた技術提案は次の4項目。注目すべきは「路下工事における工期短縮について」「NATM(ナトム)区間の掘進管理について」という2つの提案内容だ。
 1~表.png

 事故が起きたのはナトム区間。JV側が提案した掘削管理に問題が生じた以上、提案内容は公表すべきだろう。また、「路下工事における工期短縮」が手抜きにつながったのではないかとの疑念も残る。提案内容を公開すれば、JV側の「正当な利益を害する」というが、被害を被っているのは市民。被害を与えた側の情報を隠すというのでは筋が通るまい。

やる気問われる開示決定期限の3か月延長
 今回、市交通局への情報公開請求で開示されたのは、平成26年に行った開示請求で入手したものと同じ文書。再請求だったため開示決定期限が守られたが、新規で請求した工事関連文書については、次の「公文書開示決定等の期限特例通知書」なるものが送付されてきている。

1-通知書.jpg

 HUNTERの開示請求は11月14日。通常なら24日が開示決定期限となるところを、20日間延ばして12月13日までに一部だけの開示を決定。さらに2か月延長して2月17日に残りの文書についての開示決定をするのだという。すべての開示決定まで3か月。「事故対応で業務多忙のため」という理由だが、請求した文書が大量になるとは思えず、後ろ向きの姿勢に呆れるしかない。ちなみに、上掲の通知に「別紙」とあるのが下の文書。丁寧な物言いだが、“有無を言わさず”であることに変わりはない。

1-各位.jpg

 陥没事故を受けて、情報公開請求が殺到するのは予想されたこと。「各位」とあるからには、相当数の請求が出されているのだろう。市民の知る権利に応えるためにも、事故原因の究明を進める観点からも、市は早期の情報公開を行うべき。専従職員を置いてでも作業を進めるのが役所の責任だろう。要は“やる気”のはずだが、高島市政の動きは鈍い。

 市長は、「事故を起こした側が検証するのは市民の理解を得られない」として事故原因の調査を国土交通省に要請したが、国の真相究明が絶対と考えるのは早計。集められた専門家の姿勢次第では、片寄った結論が出される可能性もある。市長は、どや顔で復旧を誇る前に、積極的な情報公開の指示を出すべきだろう。



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