天神-博多駅-博多港(ウオーターフロント)を結ぶ新たな交通システム「都心循環BRT」の形成を推進する福岡市(高島宗一郎市長)。共働して事業にあたる西鉄は、今年8月から連節バス2台を走らせ試験運行を開始している。
内回り、外回りで循環させる形となった9月からは、全長約18メートルの長大な車体を見かける機会が増えた。しかし、天神地区の渋滞は、どう見てもバスの多さが原因。わざわざ混雑を促すような連節バスの登場に、首を傾げる市民は少なくない。
不透明な政策決定過程
「なぜ連節バスなのか?」「なぜ西鉄ばかり優遇されるのか?」「公費投入額は?」――確認のため福岡市に行った情報公開請求では、事業の不透明さが明らかになっただけ。開示された資料の中に、誰が、いつ、どのような理由で都心循環BRT=連節バスの導入方針を決めたのかを示す文書はなかった。不透明な政策決定過程に、連節バスへの疑問は増すばかりだ。
連節バスの現状
では、連節バスの導入で福岡市の交通事情はどう変わるのか?市は、バス路線の再編による道路混雑の緩和につながると説明するが、2台のバスが“ひとつなぎ”になったところで、効果があるとは思えない。次の2枚の写真は、いずれも「渡辺通1丁目」バス停の様子。路線バスが並ぶ光景と連節バスのそれは、大して変わりがない。バス路線の再編は西鉄の企業利益と直結する問題。2台のバスを1台につなげて運転手を減らせる分、得をするのは西鉄だけということになる。バス自体の専有面積が変わらない以上、交通渋滞はこれまで通り。右・左折が大変なだけ時間がかかってしまい、かえって混雑することになる。
「専用レーン」が絶体条件
そもそも、BRT(バス・ラピッド・トランジット)とは専用の道路やレーンを使ったバスによる高速輸送のこと。一般道を使った試験運行では、他の車も同じレーンを走っているため、運行の定時性や速さの優越性を判断することはできない。現に取材した今月20日、外回りの連節バスは15分近くの遅れ、内回りも7分遅れの到着だった。日曜日でこの状況。ウィークデーなら、さらに遅れが出ることが見込まれる。本気でBRTを形成するというなら、専用レーンを設けるしかない。ただでさえ渋滞に悩む福岡市の中心部で専用レーンに一車線奪われれば、渋滞は酷くなる。困るのは市民だ。道幅を広げることのできない現状での連節バス導入は、間違った交通政策と言うべきだろう。
下は、市が連節バス導入までの経緯をまとめた文書、『都心部幹線軸の検討について』である(黄色の囲みはHUNTER編集部)。冒頭「事業の背景」には、連節バスの前提とされる『福岡市都市交通基本計画』(平成26年5月改定)や『ウオーターフロント地区(中央ふ頭・博多ふ頭)再整備の方向性』(同年9月とりまとめ)に出てくる、都合のいい言葉が並ぶ。「活力ある都市部を支える交通」、「回遊性」、「分かりやすく使いやすい公共交通幹線軸」、「福岡市の成長エンジンとなる都心部の国際競争力の強化」……。目的は解るが、そのために実施すべき交通アクセス向上の手法が、どうして“BRT=連節バス”になるのかの説明はない。「はじめに○○ありき」は、高島市政の特徴。都心循環BRTなどと言えば聞こえはいいが、バスの乗務員を少しでも減らしたい西鉄の思惑と、珍しいものに飛びつく市長の方向性が一致した結果にすぎない。
連節バスに多額の公費支出
西鉄の持ち出しで勝手にやるというのなら、連節バスの運行は自由だ。しかし、この事業には多額の公費支出を伴うことが分かっている。福岡市と西鉄の計画では、環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」(補助率2分の1)と国交省の「社会資本整備総合交付金(補助率0.4)、が支給される予定。連節バスで二酸化炭素が減るとは思えないが、計画通りなら平成27年度に環境省から約1億6,000万円、28年度には約3億8,000万円が支給される。これとは別に、停留所整備などにかかる福岡市の支出が3億円程度(市の説明では推測の数字)。事業が進めば進むほど、税金支出が増えることになる。“県内でバス事業を独占する西鉄への過剰な優遇策”――誰の目にも明らかだろう。
結局は「シンボル性」
・バス路線を再編しても、2台のバスをつなげてみても、交通混雑はなくならない。
・連節バス専用レーンを設ければ、都心の道路1車線がつぶれ、交通渋滞はより深刻なものとなる。
メリットは何もない「都心循環BRT=連節バス」。説明に詰まった市側が、メリットとして示したのが、上掲『都心部幹線軸の検討について』の黄色の枠の部分だ(下に拡大。枠はHUNTER編集部)。
≪効果≫とある。しかし、バスの定時性・速達性を担保するためには、述べてきた通り専用レーンの設置が絶対条件。輸送効率の向上やバス路線再編は、西鉄にとっての問題に過ぎず、これも専用レーンがなければ成り立たない。結局、残ったのは「・わかりやすさ・シンボル性」だけ。ばかげていると言う他ない。
市は、公共交通の利用を促進すれば、クルマが減るとも言う。連節バスは54席、130人乗り。たしかに一度の定員は増えるが、乗用車が減る可能性は皆無に近い。好きなところに、好きな時間にいくための自家用車。長大なバスを導入したからといって、並んでバスを待つ人が増える保証はない。