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「土人」発言の波紋 政権が拡散させる“沖縄蔑視” 

2016年10月24日 10:45

20160620_os01.jpg 沖縄県東村(ひがしそん)高江の米軍ヘリパッド(ヘリコプター離着陸帯)建設現場で、警備にあたっていた大阪府警の機動隊員が抗議活動中の市民に暴言を吐いた。「ボケ」「土人」……。荒れる現場での出来事とはいえ、公務員の言葉とは思えぬ汚さだ。
 批判が渦巻く中、松井一郎大阪府知事が問題の警察官を擁護し、沖縄差別の深刻さを印象付ける状況に――。根底にあるのは、基地反対の民意を踏みにじる安倍政権と同じ沖縄蔑視の感情。戦後71年、沖縄は“捨て石”のままである。

まるでヤクザ
 報道された機動隊員の暴言。ヘリパッド建設に反対する市民グループが撮影したと思われる動画が、ネット上にアップされていた。フェンス越しのやり取り。怒号が飛び交う中、苛立つ機動隊員が怒鳴っている。

「さわるな、コラァ」
「さわるな、ボケ」
「どこつかんどんじゃ、ボケ。土人が」

 制服を着ていなければ、ただの暴力団。府警の発表によれば、これで巡査部長というだから呆れるしかない。ボケがチンピラの吐く言葉だとしても、「土人」の真意は図りかねる。≪沖縄県民=土人≫とイメージしているのなら、この警察官に公務員としての資格はあるまい。「土人」は差別語であり、公式には使われることのない言葉なのだ。機動隊員が抱いているのは、“沖縄県民は違う民族”だという歪んだ考え。でなければ、「土人」という言葉は出てこない。時代遅れの沖縄蔑視は、松井一郎大阪府知事も同じ。暴言問題が報じられた19日、松井氏は自身のツイッターで次のように述べている。

維新・松井知事の不見識
1ー松井.png 『ネットでの映像を見ましたが、表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました。出張ご苦労様』。「表現が不適切」としながら「ご苦労様」。これでは、沖縄蔑視の機動隊員を擁護したも同然だ。翌20日には、土人発言を問題視する報道陣に対し「警察官個人を叩くのは間違い」とした上で、「もともと混乱地で、無用な衝突を避けるために警察官が全国から動員されている。混乱を引き起こしているのはどちらか」と語り、ヘリパッド建設に反対する沖縄県民を非難した。松井氏は、問題の本質が理解できていない。

 機動隊員の暴言が問題になったのは、権力側の末端構成員である警察官が、死語となった「土人」という言葉を使って沖縄蔑視の感情を剝き出しにしたからに他ならない。土人発言は、機動隊を送り込んだ“安倍政権”が、沖縄県民を異民族だと思っている証拠。県民の4人に一人が犠牲になった沖縄戦以来、本土の捨て石にされ続けてきた沖縄の心情を、安倍政権も松井氏も汲み取ろうとしていない。

 松井氏は「混乱を引き起こしているのはどちらか」とまで踏み込んだが、沖縄の民意を無視して普天間飛行場の辺野古移設やヘリバット建設を強行しているのは政府。松井氏の主張は、悪党の子分が犯した過ちの責任を、被害者に転嫁する強弁に過ぎない。松井氏の不見識は明らかだが、維新の会全体が、沖縄を日本の捨て石と捉えているふしがある。

 2013年、当時日本維新の会共同代表を務めていた橋下徹氏は、旧日本軍の従軍慰安婦を巡る自身の発言が世論の猛反発にあったことを受け、次の様な発言を行っている。 

―― 「慰安婦制度が必要なのは誰だって分かる」
―― 「当時の歴史を調べたら、日本国軍だけでなく、いろんな軍で(慰安婦を)活用していた」
――(在沖縄米軍司令官に)「もっと日本の風俗業を活用してほしい」

 米兵による女性への暴行事件が相次ぐ現状の解決策として、沖縄の風俗嬢に米兵の慰安をしろと言ったも同然。沖縄県民を土人と罵った府警の警察官を擁護した松井知事の思考法と、通底するものがある。維新幹部の沖縄に対する認識とは、この程度のものなのだろう。

沖縄蔑視を助長する政権の姿勢
 沖縄蔑視が拡散しているのは、沖縄の民意を黙殺してきた安倍政権の姿勢が原因だ。それは、沖縄・北方相となった鶴保庸介氏の言動からも明らか。8月の就任会見で、彼はこう述べている。

――「沖縄の振興策と基地問題は確実にリンクしている」

 9月の記者会見では、普天間飛行場の辺野古移設を巡る政府と沖縄県訴訟について笑いながら、

――「注文はたったひとつ、早く片付けてほしいということに尽きます」

 今月、沖縄出身の自民党衆院議員が東京都内で開いた政治資金パーティーでは、

――「沖縄県選出の国会議員に必ず、来たるべき選挙で勝利してもらわなければならない。ぜひご理解を頂きたい。(選挙結果は)振興策とリンクしています」

 就任以来、予算を盾にした確信犯的な恫喝と沖縄蔑視。戦後最低の男を沖縄担当大臣にしたのは、安倍首相である。その鶴保氏、土人発言についても、沖縄の怒りに油を注ぐような発言を行っている。

――「私は、今のこのタイミングで『これは間違っていますよ』とか言う立場にもありませんし、また、正しいですよということでもありません。自由にどうぞというわけにもいきません」

 土人は差別用語。公務員である警察官が市民に発していい言葉ではない。これを「間違っている」と断定できない人間が、大臣の地位にあるというのだから驚きである。鶴保氏の沖縄蔑視は筋金入り。首相の思いを体現していると見るべきだろう。

「黙れ支那人」の滑稽
 沖縄蔑視が拡散するよう主導してきたのは安倍政権だ。辺野古移設に反対する沖縄の民意を黙殺して工事を強行し、ヘリバット建設でも同じことを繰り返している。民主主義が否定され、偏狭なナショナリズムが幅を利かせるようになると、おかしな風説が出回ることになる。土人発言を記録した動画には、別の機動隊員の暴言も記録されていた。こちらはもっと意味不明。「黙れ、コラ。支那人」である。一部の極右が流しているのが、“ヘリパッド建設反対を煽っているのは中国”というデマ。機動隊員にまでこうしたでっち上げが浸透している現実が、この国の歪んだ状況を如実に物語っている。滑稽と言うしかないが……。



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