今年7月の鹿児島県知事選挙で初当選を果たした三反園訓知事の周辺が騒がしくなってきた。九電に対する川内原発(薩摩川内市)の停止要請に注目が集まる中、何故か陣営内の反原発派とは距離が開くばかり。さらに、同氏を支えた後援会組織もゴタゴタ続きで多くが離反し、後援会長が辞意を漏らす事態になっているという。
一体何が起きているのか――。関係者に取材したところ、三反園氏の意外な一面が浮き彫りとなった。
(写真は三反園知事。みたぞのさとし後援会ホームページより)
分裂含みの後援会組織
三反園知事の関連政治団体は、総務省届出の「みたぞのさとし後援会 三訓会」と鹿児島県選管届け出の「みたぞのさとし後援会」の2団体。三訓会は政治資金作りのための団体で、地元鹿児島での活動を支えてきたのは「みたぞのさとし後援会」だ。知事の出身地である指宿市の同窓生や県スポーツ関係者、反原発団体のメンバー、元自民党の地方議員など県政刷新を願う幅広いメンバーが集まり、寝食を忘れて三反園支援を呼び掛けたという。4選を目指した独裁者・伊藤祐一郎前知事との戦い。投開票日の夜、選挙事務所に集まった支援者が、「当確」の報に喜びを爆発させたのは言うまでもない。しかし陣営内部では、この瞬間に分裂の萌芽が見え始めていた。
鹿児島県で官僚出身者以外の知事が誕生したのは県政史上初。原発に慎重な姿勢を見せる知事の登場も初めてのことだ。県政刷新への熱の高まりが生んだ結果だが、勝因の一つが彼が掲げた公約――≪熊本地震の影響を考慮し、川内原発を停止して、施設の点検と避難計画の見直しを行う≫(みたぞの後援会のホームページより)――だったことは疑う余地がない。熊本地震後、川内原発への不安が高まっていたからだ。実際、知事は公約を守る形で8月26日に九電に対し川内原発の一時停止を要請。拒否された後、再度の停止要請を行っている。
原発立地自治体の首長が、電力会社に原発の停止を申し入れるのは異例。全国注視のやり取りとなったが、内容自体は陳腐なものだった。九電は肝心の原発停止を拒否、代わりに提示したのは「特別点検」、「地震観測点の増設」、「避難用福祉車両追加配備」など、原発事業者として当然やるべき内容ばかり。“一時停止”を除き、知事要請がハードルの低いものばかりだった証拠だ。しかし知事は、九電の対応を遺憾としながら「三歩ぐらいは進んだ」と一定の評価。出来レースを疑わせるようなやり取りに、反原発派から「騙されたんじゃないか」「アリバイ作りのパフォーマンス。停止要請の公約は、候補者一本化のための便法だった」といった声さえ上がっていた。不信は亀裂を生む。九電とのやりとりが続く中、原発停止を最大の公約に掲げた三反園知事が、なぜか反原発派を遠ざけるように――。そして、亀裂は後援会組織全体に拡がることになる。
三反園氏の勝因は、原発だけではない。陣営には原発の是非に関係なく、「反伊藤」という一点にかけた関係者も少なくなかった。むしろ、最大の勝因は底流にあった「反伊藤」の感情。ある後援会関係者が、投開票日の夜に語った言葉が象徴的だった。
「三反園さんが勝ったんじゃない。伊藤さんの人格が、この結果を招いた。伊藤さんが負けたということ。三反園さんや側近が、勘違いするのが怖い」
反原発、反伊藤――二つの大きな力が、三反園知事誕生の要因であることは確かだ。知事は当然、そうした声に応える動きをするものと思われていたが、九電への要請という大きな節目を過ぎたとたん、後援会関係者が抱いていた“勘違い”への懸念が現実のものとなる。
九電とのやりとりに注目が集まる中、知事は反原発派だけでなく、後援会の主力メンバーとも距離を置くようになったのだ。噴き出す不満の声。ある後援会関係者はこう語る。
「選挙から2か月。後援会長がクビになったという噂が聞こえてきた。事実関係は分からないが、後援会の主要メンバーと三反園事務所側に険悪なムードが漂っているのは事実。知事もそのことは承知している。多忙なのは分かるが、後援会の関係者と会わないどころか、連絡も取れないというのだから、呆れる。付き合う人間を選別しているらしく、会っているのは自分に甘い言葉をかけてくれる人間ばかり。残念だが、三反園さんは、感謝という言葉を知らない。用が済めばポイ。それが彼の流儀なんだろう。いまや、後援会内部は爆発寸前。『騙された』『がっかり』という声がどんどん拡がっている」
「後援会長」は形だけ、届出書類では三反園氏が代表
選挙に勝った陣営で、後援会長がクビになった話など聞いたことがない。取材してみたところ、表面上の後援会長が、実は正式な手続きを経ていない、便宜上の存在であったことが明らかとなった。下は、「みたぞのさとし後援会」が県選管に提出した政治団体設立届。代表者は、三反園氏本人となっており、10月11日現在も変更はない(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。
政治団体設立届に添付された「後援会の規約」を確認してみたが(下の規約参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)、同団体の役員は「会長」がトップ。役員は「総会」で選出すると定めている。しかし、みたぞの後援会の会長は、届出上「三反園訓」。選挙を通じて前面にでていた「後援会長」は名ばかりの存在だったことになる。ちなみに、福岡県知事の後援会長は九電の松尾新吾元会長。選管への届出も代表者は松尾氏で、実態と合致している。鹿児島県知事の後援会は、いびつな形なのである。
じつは、“後援会長がクビになった”という話、単なる噂ではない。選挙後、みたぞの後援会は事務所側主導で整理が進められ、選挙まで会長を務めていた人物は、事実上のお払い箱。15日に開かれる選挙後初の後援会の集会には、知事の出席さえ危ぶまれる状況なのだという。「15日の集会には出るな」――事務所側の妨害工作も明らかとなっており、知事側は別の日に地区ごとの集会を開く予定だという。
知事側近は元議員秘書
なぜこうした事態になったのか?取材に応じた後援会関係者が口を揃えて批判するのは、三反園氏の側近政治だ。三反園知事を「操っている」(後援会幹部の話)と言われているのは、元参院議員秘書のB氏。現在は東京都内に本社を置くコンサルタント会社の代表で、知事選前から後援会事務所や選挙戦全般の仕切りを行っていたとされる。みたぞの後援会のメンバーたちは、B氏や、B氏の言いなりになっている三反園氏に不満を募らせているのである。
次稿(13日配信予定)では、知事の側近B氏や県民を裏切る知事本人の動き、それによって生じた後援会内部の深刻な状況について詳細を報じる。