先月、自宅の郵便受けに「防災タウンページ」なるものが入っていた。発行は「NTTタウンページ」のようだが、監修は「福岡市 市民局 防災危機管理課」。ページをめくると高島宗一郎福岡市長の挨拶文が掲載されており、この冊子がNTTと福岡市の地域共働事業によって作成されたものであることが分かった。内容は充実しており、災害への備えから避難・応急手当といった対処の仕方、さらには防災マップや浸水ハザードマップなどの入手方法まで多岐にわたっている。
注目したのは、「福岡市揺れやすさマップ」の存在。どんなものかと携帯電話用QRコードで開いてみたところ、そこには、福岡市の都市計画を真っ向から否定する現実が示されていた。
「揺れやすさマップ」――真っ赤に染まった天神周辺
内閣府の公表資料によれば、「揺れやすさマップ」とは、地域の揺れやすさを地盤の状況とそこで起こりうる地震の両面から評価し、色分けした地震動の強さ(震度)で表したもの。福岡市版は、7つの区(中央、城南、南、博多、東、早良、西)ごとのものと、全域版の8種類。平成17年(2005年)に福岡県西方沖地震を引き起こした「警固断層帯南東部」を震源とする地震が発生した場合の、地域ごとの揺れやすさを色分けして示している。
気になったのは「中央区」の状況。警固断層の真横に位置する天神地区では、巨大再開発プロジェクト「天神ビッグバン」が進められているからだ。どの程度の揺れが予想されているのか――。マップの画面を見たとたん、正直ゾッとした。下のマップ画面は上から順に、市内全域⇒中央区⇒天神地区。各画像の右下から左上にかけて斜めに走るラインが警固断層帯だ。(以下、画像はすべて福岡市HPより)
まず、市内全域マップで、特に赤くなっているのが警固断層帯の東寄り地域。赤色は、震度6強以上を示す色の中でも最大規模となる「6.4~」として区別されており(下参照)、中央区は目立って赤い部分が多い。
とりわけ真っ赤な状態となっているのが警固断層に沿った「天神地区周辺」。拡大した3枚目の画像で確認できるように、真っ赤っかの中心は「西鉄天神駅」及び「地下鉄天神駅」である。
危険地帯で進む「天神ビッグバン」
福岡市は現在、その天神地区で再開発プロジェクト「天神ビッグバン」を推進している。「天神ビッグバン」は、2024年までの10年間で同地区にあるビル30棟の建替えを誘導し、新たな空間と雇用を創出するという壮大な計画。市のホームページにある天神ビッグバンの説明によれば、建替えによって延床面積が444,000㎡から757,000㎡へと約1.7倍に、雇用者数は現在の39,900人から97,100人へと約2.4倍になり、建設投資効果2,900億円、経済波及効果8,500億円(年)が生まれるのだという。天神ビッグバンの中心は言うまでもなく「西鉄天神駅」と「地下鉄天神駅」だ(下の図参照)。
天神ビッグバンの対象地である中央区天神は、タテに走る警固断層の真横かもしくは直上にある格好。危険と隣り合わせの、もっとも再開発にむかない場所なのだが、高島宗一郎福岡市長は自らが描いた特区絡みの未来図に酔いしれ、活断層の怖さを計算に入れることができていない。
「防災タウンページ」を監修した市防災危機管理課は、市として天神ビッグバン実現後の地震被害について予測を行っておらず、昼間・夜間を問わず天神地区におけるビッグバン実現後の滞在人口数も算出していないことを認めている。市が公表しているのは、≪現在の39,900人から97,100人へと約2.4倍になる≫という雇用者数の予測だけ。つまり、地震発生時の被害状況などお構いしに、派手な計画の内容だけを宣伝しているということだ。市民の暮らしや安全は二の次、パフォーマンスばかりに精を出す市長さんの姿勢には、呆れるしかない。
天神地区の再開発が福岡市に活気をもたらすのは確かだろう。しかし、地震規模がもっとも大きいと予想される同地区の安全性は、何も担保されていないのが実情だ。同地区と競い合う形となっている博多駅周辺にしても、“博多口側”の震度が高くなることを「揺れやすさマップ(博多区版)」が示している。福岡市の都市計画は間違ってはいないか――市が作成した「揺れやすさマップ」が、そう語りかけているように思えてならない。