議会制民主主義や二元代表制を真っ向から否定する暴挙である。
福岡県大川市の市議会が、例年19日間開催している9月定例会を5日間に短縮。市民の代表として、市政について議論する責任を放棄した形となっていることが分かった。
衆院福岡6区の補欠選挙(10月11日告示、23日投開票)に出馬を表明している鳩山二郎大川市長の事前運動を助けるためと見られ、事情を知った市民から厳しい批判の声が上がっている。
(写真は大川市役所)
9月定例会、たったの5日間
下は、大川市議会9月定例会の日程。会期は、9月5日から9日までの5日間となっている。
日程が短いため文書はスカスカ。議案には平成28年度大川市一般会計補正予算をはじめ、介護保険事業特別会計や後期高齢者医療事業特別会計の歳入・歳出決算認定など市民の暮らしに直結する課題が含まれているが、この短期間では、まともな議論が行えるはずがない。一方、下は昨年の大川市議会9月定例会の日程表。会期は8月31日から9月18日までの19日間だ。
市民より選挙優先
アベノミクスが行き詰まる中、地方自治体が抱える課題は山積しており、大川市も例外ではない。市民の声を市政に届けるためには、年に数回しかない市議会定例会は極めて重要な場だ。なぜ今年は昨年の4分の1の会期になったのか――。不審に思っていたところに、大川市民から「鳩山二郎(大川)市長の衆院選出馬を後押しするため、市議会が大幅に会期を短縮している。市民より市長が大事ということだ。議会の役割放棄は、議会制民主主義に対する冒とく。市民を愚弄するにも程がある。絶体に許せない」(原文のまま)という怒りのメール。5日、議会開会前の古賀龍彦大川市議会議長に話を聞いた。以下、古賀議長とHUNTERの記者との一問一答である。
記者:今年の9月議会は、5日から9日までの5日間ということで間違いないか?
議長:はいそうです。記者:昨年の9月議会は19日間、今年は5日間。選挙との関係でこうなったというのは本当か?
議長:そうですね。はい。記者:鳩山大川市長のために日程をはしょったということか?
議長:それだけということではないですがね。記者:市議会の補選もあると聞いているが。
議長:そうですね。10月23日に市議会の補選がありますので、なるだけその時に一緒に、合わせて選挙をした方が、市からの持ち出しとかも少なくて済みますし。市長が一応出馬する意向を発表しましたので、次の市長さんなり、市議会議員さんですね、補選もありまりますので、その方たちに十分な選挙準備期間を考えていただいた方がいいだろうと、いうような判断です、記者:選挙の準備期間を与えるということか?
議長:そうですね。うちの選管の方もバタバタする格好になると思いますので……。記者:市長は、後継指名してトリプル選挙と公言している。大川市議会は、市長とたった一人の議員のために、市民の暮らしに直結する議論の時間を省いた、ということでいいか?
議長:省いてはいませんよ。記者:19日間と5日間。日程を省いているのは明らか。議会制民主主義の否定ではないのか?
議長:え~、中味についてはですね、通常の議会ですと「整理日」とかがあるんですけど、それをできるだけ短くし、まあ、中味の審議についてはですね、議案自体は少ないのと、特別会計の審査については、通常と変わらぬ時間をとっていますから。記者:とはいえ、5日間と19日間ではあまりに違い過ぎる。
議長:まあ、通常ですと、それくらい(19日間)の時間をとってます。記者:大川市民の方から、議会は市民を愚弄しているというメールが寄せられているが?
議長:……。記者:議会の責任放棄ではないのか?
議長:そういうふうには考えていません。記者:中味がどうのとおっしゃっているが、形だけの定例会。まさに形骸化ではないのか?
議長:……。記者:昨年は本会議で8人質問されているが、今年は1人だけ。しかも、質問は鳩山市政の3年間の総括についてだ。市民の暮らしのことについては、何の議論もない。
議長:そうですね。記者:市民のためではなく、市長のために、議会をあげて応援するということだろう。
議長:市長がですね、もうお辞めになるので、え~、市長に対するその~、え~~~。記者:市長に便宜を図っているということ。市議会あげて市長を応援する形であることに変わりはない。
議長:推薦ですね。推薦。記者:だから、そのために議会を短くする。先ほどはそうはっきりおっしゃった。
議長:だから、それも一つです。記者:“市民のために”という本来の議会のあるべき姿とはかけ離れていないか?
議長:そういうふうには考えておりません。
選挙のための日程短縮であることを、あっさり認めた古賀議長。あろうことか、市民のためではなく、選挙に出馬する人に準備期間を与えるため会期を5日間に縮めたというのだ。選管がどうの、持ち出し(経費)がどうのと言っているが、議会に課せられた使命は市民の目線で市政をチェックし、市議会を舞台に論戦を行うこと。地方議会は、“市民ありき”が絶対条件だ。市民より選挙が大事だというのであれば、議会制民主主義は成り立つまい。
市長選や市議補選に立候補する人に準備期間を与えるためと称しているが、誰が出馬するかも分からない状況。実際は、衆院6区の補選に出馬する鳩山二郎市長が選挙に専念できるよう、早期辞職の環境を整えることが狙いだ。議会が閉会すれば市議団もおおっぴらに鳩山氏の支援活動に走り回れる。会期短縮が、鳩山氏のためであることは疑う余地がない。
問われる市議会と市長の責任
5日間という会期がいかに異例であるか――。確認できた平成21年から今年までの9月定例会の会期と、本会議質問者の人数を調べ一覧表にまとめてみた。
平成21年からの27年までの7年間、9月定例会の会期は、23年の18日間以外すべて19日間。「5日間」という日程がいかに異例なものであるのか一目瞭然だ。毎年5~13人の市議が行っていた本会議での質問も、今年はたったの一人。しかも、質問内容は『三年間の市政を振り返って』というふざけたもの。流れから見て、任期を1年近く残し市政を放り出す無責任市長を責めるどころか、褒め称えることを目的としているようだ。大川議会は、機能不全をきたしていると言っても過言ではあるまい。「議論の時間は省いていない」と反論する議長だが、5日間で十分というのなら、それまでの19日間という会期は無駄だったということ。大川市議会は、税金泥棒の集まりである。
“地方自治は民主主義の学校”と言われる。住民が、身近な問題をあつかう地方自治に参加することで民主主義や政治への理解を深めることが可能となるからだ。だからこそ地方議会の役割は重要で、議論を深める努力が求められるのである。それが、選挙のために会期短縮……。市民参加の機会を奪うという意味では、まさに暴挙と言う他ない。地方自治体は二元代表制。緊張関係をなくした首長と議会が、まともな地域社会を構築できるとは思えない。大川市議会の議員たちはもちろん、会期の短縮を容認した形の鳩山氏にも、政治を語る資格などあるまい。