九州電力が27日から始めた川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の「特別点検」。三反園訓鹿児島県知事からの要請を受け、熊本地震で高まった県民の不安を軽減するとしている九電だが、内容自体は“特別”というほどのものではない。
九電が公表した10項目の検査は、原発を運用する上で当然実施すべきものばかり。原発を止めるように申し入れた三反園知事の顔を立て、この問題に終止符を打とうとする同社の狙いが透けて見える。
国民を軽んじる電力会社の姿勢は相変わらずだが、川内原発をめぐる三反園知事の姿勢にも疑問を禁じ得ない。(写真は鹿児島県庁と川内原発)
“特別”ではない検査内容
川内原発の定期検査は1号機が10月6日から、2号機は12月16日からの予定となっている。27日に始まった「特別点検」は、定検前に知事の要請に応えた形を残すためのパフォーマンスに過ぎない。九電が公表した特別点検10項目の内容は次の通りだ。
難しく書いてあるが、要は点検対象とする機器やシステムの「異常の有無」「変形の有無」を確認するということ。原発の営業運転を続ける上で必ず実施すべきものに、“特別”の二文字を付けただけの話だ。前掲の10項目が“特別”と言うのなら、九電の原発は、これまでまともな点検を行っていなかったことになる。定検前だから“特別”――。知事の要請に応えるから“特別”――。世間を舐めきった九電の体質は、やらせメール事件の時から変わっていない。
高まる三反園知事への不信
スッキリしないのは、川内原発をめぐる三反園知事の言動だ。知事が九電に求めたのは、熊本地震を受けての川内原発即時停止。「止めろ」の一点突破で良かったはずなのに、原発施設の点検・検証、活断層調査、避難計画への支援強化などを合わせて要請したため、九電に逃げ道を与える形となってしまった。九電は、肝心の即時停止を拒否。要請への対応策として「特別点検」、地震観測点の増設、避難用福祉車両の追加配備などを実施すると表明した。お札は出さずに小銭の多さでごまかした格好だが、知事は九電の対応に「一定の評価」を与えている。県内で、知事と九電の“出来レース”を疑う声が上がり出したのはこの頃からだった。
専門家とともに特別点検を視察するという三反園知事だが、通常点検と変わらぬ作業を見学しても、問題点が出てくるとは思えない。新規制基準に基づき安全審査を行った原子力規制委員会が“お墨付き”を出した原発で、瑕疵を見つけること自体が極めて困難。難癖をつけても、九電や規制委に一蹴されるだけだろう。視察は、「安全を確認した」という評価を下すためのセレモニーになる可能性が高い。
そもそも、一番の問題は大きな地震が起きた場合の原発の安全性。熊本地震後に高まったのは、「いったん原発を止めて、地震の終息を見守るべき」という声だったはずだ。つまり、“止めて点検”ではなく“止めて、避難計画も含めたすべての安全対策の見直し”が民意。すり替わった議論を主導したのが三反園知事自身であるだけに、不信感は増す一方となっている。
議論の矮小化も容認できない。三反園知事が目指すべきは県民全体の安全・安心。しかし、川内原発に関する議論の対象地域は、いまだに緊急防護措置区域(UPZ)である30キロ圏内限定だ。40キロ圏、50キロ圏といったUPZ以外の鹿児島県民のことは一顧だにされておらず、九電の思う壺にはまった格好だ。三反園知事に、本気で原発を止める意思があるのか――。問われているのは政治家としての矜持である。