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市民の足ピンチ! 鹿児島市交通局長 事実上の市バス民営化宣言

2016年8月16日 08:35

 交通局.jpg市民の足がピンチだ。鹿児島市の鞍掛貞之交通局長(交通事業管理者)が、先月行われた局内の研修で、「雇用は守る」などとして“市バス民営化”を前提にした話を繰り返し、事実上の民営化宣言を行っていたことが明らかとなった。
 同市の交通事業を巡っては今年3月、鹿児島経済同友会が地域公共交通システムの再構築などを協議する場を設けるよう市に提言。これを受ける形で、市バス民営化の是非も含めた交通事業全体のあり方を考える協議会が年内にも設置される予定となっている。交通局長の発言は、議論を前に、民営化ありきで進む市側の姿勢を露呈したもの。前のめりになる交通局トップの姿勢に、市民やバス乗務員から疑問の声が上がりそうだ。
(右が鹿児島市交通局)

民営化に前のめり
 問題発言が行われたのは、先月行われた市バス運転手の研修会でのこと。鞍掛交通局長は、受講者ごとに4回に分けて開かれた研修のうち3回挨拶に立ち、同様の話を繰り返していた。同局長の発言要旨はおよそ、次のようなものだった。

  • 鹿児島市のバス事業は約毎年4~5億円の赤字。先は難しい。
  • 全国の市営バスは減り続けており、2000年の34から19になった。九州では北九州、佐賀、鹿児島、佐世保。佐世保はなくなることが決定的。
  • 今年3月、鹿児島経済同友会が利便性の向上、地域公共交通システム再構築のために公・民が連携して検討・協議する場を設置すべきだという提言を知事と鹿児島市長に出した。
  • 同じ時期に、鹿児島市交通局の経営審議会も、利用者や事業者が席について鹿児島市の交通事業全体のあり方を協議する場を作るべきとの答申を出した。
  • 協議の場は、今年の暮れにも立ち上がる予定。
  • 報道が先行すると思うが、先に話しておく。
  • 市長も私自身も、皆さんの雇用や生活に影響がないように、全力を挙げる。だから、業務に集中してもらいたい。

 鹿児島市交通局が保有する市バスは204台。北、桜島両営業所の市バスは南国交通に運行を委託しており、「公務員運転手」の数は台数以下の153人(うち59人が嘱託=非正規)となっている。局長の話に出てくる“協議会”とは、市バスを民間のバス事業者に譲り渡すためのアリバイ作りの一環。あくまでも経済界主導で、市民の声やバス乗務員などの声は反映されないと見られている。こうした中で発せられた、交通局トップによる事実上の民営化宣言。結論ありきの姿勢は、市民や市民の足を守る市バスの乗務員をないがしろにするものだ。

「雇用を守る」が意味するもの 
 市バス民営化を既成事実であるかのように話した交通局長が強調したのは「雇用を守る」という点。つまり、公務員ではなくなるが、バス運転手の仕事は保証すると言っているわけだ。だがこれは、民営化の話が進んでも、騒ぐなと言っているに等しい。民営化の障害になるとすれば、バス乗務員の反対運動。このため、事前に「雇用」で脅しをかけて、黙らせる狙いがあるともとれる。

民営化――赤字を理由に挙げる矛盾
 民営化が必要な理由として交通局長が挙げたのがバス事業の「赤字」。市バス事業は年間4~5億円の赤字が続いているとされるが、この主張、実はかなり矛盾している。市内高麗町にあった交通局は昨年、JT跡地に移転。これにともない、市バスの施設(営業所と整備工場)も、昨年5月から11月にかけて新栄町と浜町の2カ所に分割整備された。市交通局への情報公開請求で入手した契約書類から、3カ所の土地取得にかかった費用をまとめると次の様になっている。

かごしま交通局.png 市バス.jpg移転のために取得した土地の代金は、合計約27億円。建物等の整備費を加えると、30億円前後の予算を費消した計算だ。これに加え、単年度黒字を目指した今年度までの5年計画で、1台1,000万円とも言われる新型バス70台を購入しており、市バスへの公費投入額は約40億円。赤字、赤字と騒ぐ市側の姿勢とは、明らかに矛盾する大判振る舞いだ。民営化といえば聞こえがいいが、せっせと整備してきたシステムのすべてを民間企業に譲渡すること。税金で、特定の業者を儲けさせることに他ならない。

問われる避難計画との整合性
 鹿児島市民が公営のバスを手放してはならない大きな理由がある。鹿児島市は、市域の一部である郡山地区が川内原子力発電所から30キロの圏内。緊急避難の折は、市バス2台が住民の移送にあたることになっている。また、桜島の噴火にともなう住民避難も、市バス運転手の出動が必須だ。

 県と公益財団法人鹿児島県バス協会及び33のバス事業者との間に結ばれた『災害時等におけるバスによる緊急輸送等に関する協定』は、原発事故を含む災害発生時に、県がバス事業者に緊急輸送等の協力を求める場合の要件を定めたもの。だが、同時に締結された「原子力災害時等におけるバスによる緊急輸送等に関する運用細則」によって、協力要請が行えるのは、≪運転手等の計画被ばく量を算出し、平時の一般公衆の被ばく線量限度である1ミリシーベルトを下回る≫場合のみに限定されている。協定は有名無実で、過酷事故でのバス輸送は不可能。唯一、「公務員」である鹿児島市交通局の市バス運転手だけに、出動要請ができる形となっている。桜島の住民避難も同様で、民間のバス運転手は、計画から除外されているのが実情だ。民営化した場合、住民避難のバスを運転する人材はいなくなる。
 
信頼性ゼロの交通局事務方
 事務方主導で民営化の議論を進めるのは、極めて危険だ。鹿児島市交通局の事務方職員のお粗末さは、これまで報じてきた通り。JT鹿児島工場跡地を取得した折の「土地評価額」の隠蔽、いったん出した開示決定の取り消し、さらには前述した新栄町と浜町の土地取得に関する公文書を毀棄(きき)した疑いが浮上するなど、でたらめ放題。信頼性ゼロの交通局が、市民の立場に立って交通体系の見直し作業ができるとは思えない。市バス民営化に前のめりとなる交通局長の姿勢は、市バスに頼る市民を無視するもの。民営化後に待っているのは「値上げ」であることを、鹿児島市民は忘れてはならない。



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