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福岡6区鳩山の乱 反故にされた「誓約書」

2016年8月 2日 10:05

gennpatu 1864410770.jpg 東京に次いで福岡も保守分裂――先月31日、鳩山邦夫元総務相の死去に伴い10月23日に投開票が行われる予定の衆院福岡6区の補欠選挙に、邦夫氏の次男で大川市長の鳩山二郎氏(37)が無所属で立候補することを表明した。
 一方、自民党県連は29日に候補者選考委員会を開き、林芳正前農水相の秘書・蔵内謙氏(35)を擁立する方針を決定。翌30日の県連三役会議で承認されたことから、同氏を党本部に公認申請している。
 選考に漏れた二郎氏が党に反旗を翻した形。「小池の乱」に似た状況だが、取材してみると事情はかなり異なる。違いを決定付けているのは、一枚の「誓約書」の存在である。

邦夫氏次男、自民に反旗
 邦夫氏の死去は6月21日。22日が参院選の公示日だったことから、自民党県連による福岡6区の候補者選びは選挙明けを待つ形となっていた。県選出の参院議員や福岡6区内の県議らで構成された候補者選考委員会は、2回目となった7月25日の会議で公認予定者候補を8人に集約。29日の会議で、出馬の意思が確認できた3人の中から満場一致で蔵内謙氏の擁立を決めたという。選考に漏れた鳩山氏は31日、かねて公言してきた通りに無所属での出馬を表明。自民党県連の決定に、公然と反旗を翻した格好だ。

本人は未練たらたら
 小池の乱と違うのは、二郎氏がまだ党本部の裁定に未練を残している点。小池百合子氏は都連の動きを読んで自ら推薦願を取り下げたが、二郎氏は31日の会見で「党本部から公認をいただけるよう最大限努力する」と発言。あくまでも「公認」にこだわる構えだ。分からないのは、「(党本部による公認が)うまくいかなくても当然、出馬する」との二郎氏の姿勢。“公認をくれないなら、自民党を割ってやる”と迫ったに等しく、脅された自民党が「はいそうですか」と応じるわけがない。

「誓約書」の文面とは
 自民県連は蔵内謙氏の公認申請と同時に選対本部を立ち上げており、本部長には麻生太郎副総理、顧問には古賀誠元幹事長や謙氏の父で県連会長の蔵内勇夫県議ら4人を就任させ、万全の体制を敷いている。政権の要である麻生氏が選対本部長を引き受けた候補者に、党本部がダメ出しをするとは考えられない。勝負はついているのだが、二郎氏は未練たらたら。出馬会見で「県連の候補者選考委員会が公平・公正だったのかは、はなはだ疑問」と選考への不満を口にする始末だ。自民党東京都連をブラックボックスだと指摘し、都知事候補選びを批判した小池百合子氏にならってのことだろうが、こと福岡6区の公認レースに関しては、鳩山二郎氏の主張は政界でも一般社会でも通らない。二郎氏、蔵内謙氏ら出馬の意思を示した3人は、29日の選考委員会を前に県連に対して「誓約書」を提出していたからだ。HUNTERが独自に入手した誓約書の文面はこうなっている。

 私は、今般施行される衆議院福岡県第6区補欠選挙の公認候補者予定者として選考していただくにあたり、党の綱領・政策に従い、党則を厳守し、党規に違反しないことはもちろん、選考委員会に身を委ね、いかなる事情があろうともその決定に従うことを誓います。

縛りを否定する鳩山氏側だが……
 文面は二郎氏の自筆。説明するまでもなく、≪選考委員会に身を委ね、いかなる事情があろうともその決定に従うことを誓います≫がすべてだ。政党人なら選考委、県連の決定に従うのが筋。誓約しておいて、「結果が気に入らないからやっぱり出馬」というのでは、ただの駄々っ子、“お坊ちゃんのわがまま”としか映らないだろう。党を割ってでも出馬するというのなら、選考委員会に誓約書など出さず、さっさと離党して無所属出馬を宣言すれば良かった。なぜ誓約書を書いたのか――?1日、二郎氏の選挙について対応を任されているという「鳩山邦男事務所」の責任者に、一連の経緯を聞いた。

 記者:二郎氏が誓約書を書いたのは事実か?
 ―― 書いたのは事実。しかし、「出馬の意思確認のため」ということだった。話が違う。

 記者:誓約書は二郎氏の自筆ということで間違いないか?
 ―― 自筆。確かに書いた。

 記者:県連に言われて書いたということか?
 ―― 出馬の意思確認のためだと大川市選出の県会議員が言ってきたので、書いたということ。

 記者:県議に騙されたということか?
 ―― そういうことになるのかもしれないが……。そもそも、支部から上がってきた人を選ぶと言ったのに、支部推薦がない人が選ばれるのがおかしい。

 記者:どういうことか?
 ―― 福岡6区の支部は4つ。そのうち3つの支部が鳩山二郎を推している。別の人を選んだということは、最初から(二郎氏に)決めるつもりがないということだ。

 記者:支部推薦があった人間の中から、候補者を選ぶという規定になっていたのか?
 ―― そういうわけではないが……。

 鳩山氏側は誓約書の縛りを否定するが、自筆で書いたという文面がすべて。ただの意思確認だったとする主張が、通るとは思えない。気に入らないものなら、初めから書かなければいいだけの話で、終わってから騒ぐのはルール違反だろう。しかも、鳩山氏側の言い分には、かなりの無理がある。

 県連関係者の話を総合すると、選考委員会の場で最後まで鳩山公認を迫ったのは大川市選出の県議。誓約書をその県議に「書かされた」とする鳩山氏側の説明とは、まるで違う状況だったという。さらに、二郎氏は、誓約書提出までの過程で、≪選考委員会に身を委ね、いかなる事情があろうともその決定に従うことを誓います≫という部分の修正を申し出ていたとされ、それが事実なら誓約の意味を理解していたことになる。言いがかりをつけられた自民県連側にしてみれば、いい迷惑ということだろう。

 次に、支部推薦がない人間が云々という鳩山氏側の見解だが、これも終わってから言う話ではない。選考過程で候補に挙がったのは8人。現職国会議員、県議、大学教授など支部推薦のない人たちばかりだ。選考委の合意事項はその都度新聞、テレビで報道されており、25日の会議で残った顔ぶれは二郎氏も推定可能だったはず。支部推薦の有る・無しに異議を唱えるのなら、この時点までだったが、二郎氏は28日に誓約書を提出している。つまり、選考委の決定を容認していたということ。自己矛盾に気付いていないとすれば、かなり見苦しい。

「違約」に厳しい批判
 そもそも、政党の公認・推薦決定過程を、「密室で決めた」だの「公平・公正ではなかった」とする主張は、選ばれなかった方の遠吠えに過ぎない。公開の場で公認候補を決める政党など存在していないのだ。公募の形で透明性を演出するケースが増えたが、それにしても最終決定の場が公開されることはない。政党の選挙は、挙党体制が組めるかどうかがカギ。候補者に求心力がなければ、勝利は覚束ない。ましてや衆院の補選ともなれば総力戦。結果が政権の浮沈に関わるのだから、挙党体制が第一の要件になる。だが、鳩山氏は選考前に無所属出馬も辞さずという姿勢を鮮明にしており、党組織を脅した格好。これでは挙党体制など組めるわけがない。選考から漏れたのは、二郎氏の勇み足が原因だったのである。 

 鳩山二郎氏は政治家5世。高祖父は衆議院議長を務めた和夫氏、曾祖父は首相だった一郎氏、祖父は元外相威一郎氏、そして父が故邦夫氏だ。邦夫氏の兄は鳩山由紀夫元首相。政治家が「家業」になっている一族と言えよう。亡くなった邦夫氏は、もともと東京都内を地盤としていたこともあり、福岡への国替えにあたって「世襲はしない」と約束していたとされる。また、二郎氏の大川市長選出馬の折は、「最低でも2期8年」という約束があったのだという。今度は誓約書を反故にした二郎氏。県連内部から“違約”に対する厳しい批判が出ているのは言うまでもない。



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