川内原子力発電所が立地する鹿児島県薩摩川内市の副市長二人が、先月行われた鹿児島県知事選挙(6月23日告示、7月10日投開票)の期間中、落選した伊藤祐一郎前知事を支援するため街頭で“辻立ち”と呼ばれる選挙運動を行っていたことが分かった。
副市長は特別職の公務員で選挙運動を行うことは可能。しかし、公職選挙法はすべての公務員に「地位利用による選挙運動」を禁じており、市の幹部がそろって伊藤氏の支援活動を行ったことに、「市長、副市長の立場を前面に出した圧力」(薩摩川内市民)だとして批判の声が上がっている。
期間中、市長と並んで選挙運動
知事選は、原発擁護の伊藤氏と脱原発を掲げて当選した三反園訓氏の一騎打ち。接戦が伝えられる中、原発に頼ったまちづくりを推進してきた岩切市長は伊藤氏の当選に向けて露骨な支援活動を展開し、街頭でも市民に投票を呼び掛けていた。問題の辻立ちはそうした中、市長と向原翼、知識博美の両副市長がそろって行ったものだった。
地方公務員法は“政治的行為の制限”の中で≪職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない≫として一般職の地方公務員に政治的中立を要求している。副市長は特別職の公務員であるため、同法違反には問われないものの、法の趣旨に反するのは確かだ。
一方、公職選挙法はその第136条で公務員等の地位利用による選挙運動を禁止しており、副市長が選挙支援の代償として職務上与えることが可能な補助や契約などの便宜を図った場合は、厳しく罰せられることになる。
街頭で伊藤祐一郎候補の支持を訴える選挙運動を行っていたことに間違いはないか――副市長二人に事実関係についての確認を求めたところ、直接の取材には応じず、広報室を通じて「(訴えを行ったことに)間違いない。街頭活動は1回。指示があってやったことではない」などと回答している。
関係者から厳しい批判
市幹部による異例の選挙運動――。関係者からは、驚きや怒りの声が上がっている。九州地のある副市長経験者は、次の様に話す。
「副市長が街頭で選挙応援とは、ちょっと聞いたことがない。仕える市長の選挙の時に、選挙事務所に顔を出す程度のことはやったが、表立って特定候補の応援をしたことはない。おそらく、どこの副市長も同じ。特別職とはいえ、副市長はほとんど役人が就くポスト。露骨な選挙運動は、控えるのが当然だろう。
薩摩川内市に住む50代男性は、強権的な岩切市政に憤りを隠せない。
「非常識。市長は政治家だろうが、副市長は行政職員のトップ。特別職であろうが、政治的な中立を守るべきだろう。薩摩川内市には原発推進の市民もいるが、反原発・脱原発を望む市民も大勢いる。市長だけならまだしも、副市長が二人までそろって街頭で伊藤さんの支援を訴えたことは、各種業界・団体への威圧に他ならず、市民への圧力ととられてもおかしくない。まさに強権市政。地方公務員法や公選法の趣旨に反する行為であり、直ちに辞職するべきだ」
原発擁護の前知事を当選させるため、なりふり構わぬ選挙支援を行った薩摩川内岩切市政だったが、同市の選挙結果は伊藤氏の23,169票に対し、三反園氏は23,176票。7票差で、脱原発を掲げた三反園氏が競り勝っている。