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記者たちが語る「保守とは何か?」 (上)

2016年8月22日 08:40

20160822_h01-01t.jpg 先週配信した「僭越ながら」で、“保守派”という言葉に疑問を呈した。従来の体制や伝統文化を守るのが保守なら、憲法をはじめとする戦後日本を否定する安倍政権は絶対に「保守」ではない。“保守派”の一語は、かつては見かけなかった大手メディアの造語。安倍一強に委縮し、「右派」や「タカ派」という表現から逃げた証だろう。だが、こうした現状に危機感を抱く報道関係者は少なくない。「保守」とは何か――。新聞、テレビで実際に記事を書く記者たちに、意見を聞いた。

安倍晋三は保守に非ず

【テレビ局記者】
 難しいですが、「保守」とは「従来の価値観や伝統を守ろうとする」考え方ではないでしょうか。ただ、「頑なな懐古主義は保守ではなく、大事なものを守るために変化を恐れないのが真の保守」だと思います。

 本当の「保守」にはまだ柔らかさというか、懐の深さを感じさせますが、極右は自らの方向性を絶対視し、寛容性が無く、根拠なく所属する集団の優越感に浸る、と言った感じでしょうか。思考停止の状態ですね。レッテル貼りというか、この思考停止が増えている気がします

【地方紙記者】
 保守とは革新の反対語であり、急速な改革・変化に慎重な志向。イデオロギーの右とイコールではなく、戦前復古主義的な安倍首相や稲田防衛相ら一派は、「革新右派」と言うべきだ。保守という言葉の意味について、立ち止まって考えることが必要になっている。

 こうした解釈でいけば、安倍首相や稲田朋美防衛相といった“保守派”の面々は、やはり本物の保守ではないということになる。戦後の日本が育んだ価値観とは現行憲法に依拠したもの。守るべきは民主主義であり、平和主義であり、基本的人権だろう。だが、安倍政権は集団的自衛権の行使容認や安保法の制定によって国の根幹である憲法を踏みにじり、平和国家であることを捨てた。自民党の改憲案は、緊急事態条項によって基本的人権に制約を加えることまで是としている。沖縄では、選挙で示された「辺野古移設反対」の民意を黙殺し、民主主義を破壊している。これが保守であろうはずがない。次の全国紙記者は、さらに詳しく述べている。

【全国紙記者】
 保守とは、「個人の理性や知性の産物より、風雪に耐えた文化や慣習に信頼を置く態度」のことだと考えている。革新は逆に、「風雪に耐えた文化や慣習より、個人の理性や知性の産物に信頼を置く態度」になる。だから、いま幅を利かせている「保守派」は保守ではなく、保守ではないものを保守と呼ぶべきではない。

 肉付けすれば、保守は「受け継がれてきた文化や慣習には(たとえ理屈や証拠で説明できないとしても)それだけの理由や価値がある」と考える。だから「受け継がれてきた文化や慣習を修正したり改善したりすることはできても、抜本的に変えることは弊害の方が大きい」と考える。一個人の考えや思いより、集団の経験知を重んじる。不平や不満より、現に享受しているものへの感謝と、その継承に意識を向ける。どちらかといえば、支配する側や富裕層の立場だ。これはこれで合理性のある態度だろう。だが、傲慢に陥れば、「我々は無知無能なんだから」と言わんばかりに、現状を追認したまま思考停止しがちになる。

 革新は逆に、「政府や市民が考え、行動すれば、正しい社会を設計できる」と考える。「正しい社会」になっていないと現に感じている一人の個人の認識が出発点にある。どちらかといえば支配される側、貧困層の立場。これもこれで合理性のある態度だろう。だが、傲慢に陥れば、「私は全知全能なんだから」と言わんばかりに、リアリティを欠いたままその思考は暴走しがちだ。

 中道と言われるものは、保守と革新のどちらが正しいか、どちらが力を持つかは状況によると考える。むしろ、どちらかに振り切れてしまった先に待っている淀みや混乱にこそ注意を払いたい、保守と革新が綱を引きあってそこそこに収まる方が幸せだと考える。

 自称「保守」は、とても奇妙な、鵺(ぬえ)のような存在に私には映る。保守を自称しながら、タチの悪い革新のように見える。風雪に耐えたことへの信頼、個人の理性や知性を超えた集合知や経験知への信頼を表明しているように見えて、彼らがそうした歴史に学ぼうとしているようには思えない。選挙に勝てば「全知全能」とばかりに、先人が積み上げてきた解釈を覆し、公党や学者や市民の批判にも立ち止まることはない。安保法をめぐって彼らが取った態度は、保守が忌み嫌う、思い上がった革命指導者のそれではなかっただろうか。

 二つの憲法がある。一つは施行から50余年の間、数多の犠牲を強い続けた時代の憲法(明治憲法)であり、もう一つはそれを越える長きにわたって平和と繁栄を享受できた時代の憲法(現行憲法)だ。憲法が戦争と平和、窮乏と繁栄のすべてを決めたわけではもちろんなく、革新の論理にも大きな穴が空いているとは思うものの、自称「保守」の信念は本当によく分からない。風雪に耐えたのはどちらか。先人たちの集合知や経験知が詰め込まれているのはどちらか。言葉を正しく使いたい。

 ≪安倍晋三は保守に非ず≫――多く記者たちが、同じような感想を持っているのは確かだ。一方で、産経や読売の記者に代表される≪安倍こそ保守本流≫と信じ込んでいる報道関係者がいるのも事実。次稿では、異なる立場の「保守とは何か」を紹介する。 



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