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教科書採択 不正の温床

2016年7月21日 10:40

0d1c32823f57058939a2741a21530c6a4ce4271a.jpg 今月6日、教科書会社が公立小中学校の教員らに検定中の教科書を見せ金品や飲食の提供を繰り返していた問題で、公正取引委員会が独占禁止法違反に当たる恐れがあるとして、三省堂など9社にこうした行為を止めるよう警告した。
 福岡市では昨年11月、三省堂から現金を受け取ったなどとして市教育委員会が市立中学の男性校長を減給10分の1(2カ月)の懲戒処分に、今年3月にはその後に判明した24名のうち退職者を除く22名について、教科書会社4社との不適切な関係があったとして処分を行っている。
 教科書採択までの過程に不正はなかったのか――。市教委への情報公開請求で入手した教員処分の関連文書などから、不正の温床の実態を検証した。

関係した教員は25人 突出する東京書籍
 教科書会社から金品を受けっとったなどとして福岡市教委から懲戒処分や措置を受けたのは、校長、教頭、教諭など計23人。その他、退職して処分の対象にならなかった校長が2人いた。25人が教科書会社との不適切な関係を持っていたということだ。懲戒は地方公務員法第38条の「営利企業等の従事制限」及び「福岡市職員の公務員倫理に関する条例」に抵触するもの、措置は「福岡市職員倫理行動規準」に抵触したことによる。市教委への情報公開請求で入手した関連文書から、処分・措置の状況を一覧表にまとめた。

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 処分・措置を受けた23人のうち、「福岡市教科用図書採択諮問委員会」(以下、諮問委員会)の委員に就任した経験を有する者が10人。懲戒処分を受けた9人のすべてが、教科書採択に関わっていた。

 福岡市の教員が関わった教科書会社は、三省堂、光村図書出版、教育出版、東京書籍の4社。このうち、東京書籍から現金を受け取ったり、接待を受けたりしていたのが15人と圧倒的に多かった。

採択への影響はなかったと言うが……
 教科書会社からの現金供与、飲食の提供などはどう見ても賄賂。処分された教員らが教科書採択に便宜を図った可能性もある。教科書会社は、諮問委員経験者を中心に会議に招いたのではないか――そう考え、会議出席日に合わせて時系列順に並べ直してみた。(*2度の会議参加者が2名。参加日で分けたため上掲の表と人数が違う)

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 一目瞭然。毎年、いずれかの諮問委員経験者が教科書会社の会議に参加していたことが分かる。教科書会社が、採択に影響力のある教員を招くことで、採択を有利に運ぼうした可能性が高い。不正が疑われる事態だが、教員らへの処分は重くて減給10分の1、軽いものは厳重注意程度。随分と甘い対応だ。教科書採択に絡んだ現金許与・接待だったにもかかわらず、クビになった教員は一人もいない。何故か――。市教委の公表文書にはこうある。

教育委員会において、本人、関係者及び教科書出版会社に対する調査を行った結果、教科書採択への影響はなかったことを確認している。

 つまり、お手盛り調査で「シロ」だと断定。教科書採択自体は、問題がなかったというのである。本当だろうか――。そこで、市内の小中学校で使われてきた教科書について、教科書会社ごとの採択状況を確認した。下が、その推移だ。


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 前述した通り、東京書籍と関係を持った教員は15人。平成22年と27年に集中しており、いずれの年も中学校の教員ばかりだ。これを前提に、採択の状況を確認してみる。

 「平成22年~23年度」に公民、技術、家庭の3冊だった同社の教科書は、「平成24年~27年度」に歴史、公民の2冊になったものの、社会科分野を独占した格好だ。これが「平成28年~30年度」には歴史、公民、技術、家庭の4分野へと倍増。社会・技術家庭の両分野を同社の教科書が占める形となっていた。福岡市教科用図書採択諮問委員会は、採択された教科書の使用が開始される前年の5月から6月にかけて複数回開かれるのが通例だ。東京書籍が教員らに現金を配ったり、飲食の提供を行っていたのは平成22年が2月、27年は主として3月。採択前に、自社の教科書を売り込んだと見るのが普通だろう。

 市教委は、教科書会社と教員らの不適切な関係が、教科書採択に影響を与えた事実はないという。しかし、その結論は市教委内部のお手盛り調査の結果。不正の温床を放置してきた組織が、問題なしと断定するのは早計と言うべきだろう。



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