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選挙情勢報道 ― 私はこう考える

2016年7月 6日 08:50

DSC04077-thumb-240xauto-17699.jpg 参院選の公示以降、大手メディアが行っている選挙情勢調査の問題点を報じてきた。公示日直後に有権者の0.027%という少ないサンプルを複数社で使い回す現状、無所属や諸派の候補者名を省き既成政党の候補者だけを読み上げて投票先を聞き出す調査手法――いずれも有権者の知らない情勢調査の実態だ。
 そもそも、選挙戦3日目に勝敗の行方を公表することが正しい報道と言えるのか?HUNTERの問いかけに、現場の記者や識者、そして読者から様々な意見が寄せられた。本稿では、足し引きなしにそれらの声を紹介する。

公示日直後の選挙情勢報道 ― 否定派の意見
 かつて選挙中盤で実施されていた情勢調査は、民主党政権が誕生した頃から公示日当日に行われるようになった。選挙の行方に多大な影響を与えることが確実な現在の報道の在り方については、やはり賛否が分かれる。新聞社によっては、情勢報道をどう扱うか激しい議論になることもあるという。まずは、「序盤情勢」と称して公示日直後に大勢を報じることに懐疑的な見方から。

【地方紙記者A氏】
 ポピュリズムが進む中、手遅れになる前に世論の動向を探って読者に示すという意味で、選挙戦の中盤あたりに世論調査をすること自体を否定するつもりはありません。しかし、今回のように選挙の序盤も序盤で、選挙情勢を探る世論調査にどんな意味があるのか疑問です。すべきではない、もしくは取材の一環として調査をするにしても、大々的に報じるべきではないと思います。記事の書き方にも細心の注意が必要です。情勢を探るという本来の目的よりも、世論を誘導してしまうリスクの方が高いからです。
【全国紙記者B氏】
 以前は中盤情勢を報じるのが一般的だったが、民主党政権が誕生した頃から、頻繁に世論調査を行い、その結果に依拠した報道が一気に増えた。取材力の低下を、数字でごまかしている感じだ。情けないが、それが現実。選挙報道で、読者を唸らせるような記事はなくなってしまっている。ご指摘のように、公示から3日で選挙の帰趨を断定的に報じることは、ある意味危険。私は愚行だと思っている。読者が記事の内容に反発して逆の方向に行くにせよ、投票意欲を失うにせよ、影響を与えているのは事実だからだ。選挙をねじ曲げていると言っても過言ではない。新聞にとっての第一の責務は、判断材料を提供すること。新聞は予想屋ではないという自覚を持ちたい。
【大学教授(地方自治)】
 二つの理由で『やるべきではない』と考えます。  まず、公選法上の問題。公選法は「人気投票の公表の禁止」として次のように規定しています。
≪何人も、選挙に関し、公職に就くべき者(衆議院比例代表選出議員の選挙にあっては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数、参議院比例代表選出議員の選挙にあっては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数若しくは公職に就くべき順位)を予想する人気投票の経過又は結果を公表してはならない≫
 マスコミの選挙情勢調査は『投票』ではないので、ただちにこの条文の規定に抵触するものではありません。しかし、同条は、順位予想を公表することで、選挙の公平性が損なわれることを避けるための規定。現在の選挙情勢報道は、比例区も選挙区も順位予測の形になっており、法の趣旨に反していると言わざるを得ません。
 次にメディア側の姿勢。選挙情勢を論じる場合は慎重の上にも慎重を期すべきですが、現在の報道は、メディア側の意図が丸見え。特に政権寄りの新聞は、与党有利の情報を大々的に扱い、選挙戦の流れを作り出すことを目的にしているとしか思えません。HUNTERが問題提起した「日経・読売」の報道と調査の実態などは、その最たる例でしょう。日本のメディアは、「公平・公平」を旨とするとしていますが、そうであるなら、特定政党、特定候補が有利な戦いをしていることなど記事にするべきではありません。届出順に、戦いぶりや公約を紹介するに止めるべきです。選挙結果を決めるのは有権者であり、マスコミではないのですから。
【福岡市在住の主婦】
 始まったとたんに選挙が終わった感じ。はっきり言って、投票意欲が失せました。アベノミクスで生活が良くなったわけではないし、集団的自衛権とか安全保障法制とかにも反対。私の周りは同じ考えの人が多い。それなのに、新聞は(選挙が)始まって3日で「自公勝利」。競馬の予想じゃないんだから。だいたい、選挙公報も届いてないのに「誰に入れますか」と言われても……。余計なことせずに、選挙を盛り上げるような記事を書けと言いたい。

肯定派の意見
 次が、選挙戦序盤の情勢報道に「賛成」もしくは「必要性あり」とする意見。

【週刊誌記者C氏】
 HUNTERは早い時期での情勢報道に異を唱えるが、否定するのは間違いではないか。例えば、週刊誌で当落予測をやれば、その号の売れ行きが上がるという現実がある。読者は、誰が当選するのか(あるいは落選するのか)に強い興味を持っている。読者の期待に応えるという意味はあるだろう。要求されないものは、新聞だって出さないはず。読者が早く情勢を知りたいと思っているのは確かではないか。問題は、一部メディアが世論誘導的な手法で、権力側に有利な状況を作り出そうとしている現状。HUNTERの指摘はそこ向けられたものだろう。
【全国紙記者D氏】
 (早い記事の情勢報道に)何の問題もない。他社のデータのとり方について、とやかく言うつもりもない。選挙の行方を示して見せるのも、報道の重要な役割の一つだ。早いか遅いかではない。読者が望む情報を、確かな取材に基づいて報じるだけだ。
【鹿児島市在住サラリーマン男性】
 (新聞が)当落が決まったと言っているわけではないので、それはそれで読者への情報提供という意味で許されるのではないでしょうか。私は、参考にしている。これじゃだめだとか、もう少し応援してみようかとか……。ただ、HUNTERの記事にあるように、選挙が始まってすぐでは公約や候補者の人となりとかは分からないでしょうね。アメリカの大統領選挙は長い時間をかけて結論を出しますが、日本の選挙期間はあまりに短い。選んだ後で「間違った」と思うこともしばしばですから。そのあたりはどうにかして欲しいと思います。誤解のないように言っておきますが、特定政党のために世論誘導するようなマネは絶対だめです。産経、読売にはそういう臭いがしますね。これには賛成できません。

 まさに賛否両論。それぞれの主張を否定することなどできない。選挙の情勢調査をどう捉えるかは、有権者側の判断にかかっているということだろう。

最後は「有権者の判断」
 最後は、ある全国紙記者の考察。これまでの問題提起に対する、一つの答えと言えそうだ。 

【全国紙記者E氏】
 新聞各紙の情勢調査に関するHUNTERの追及に考えさせられた。問いかけは重い。一方で、多くの方々の協力を得て実現している情勢調査を社会に役立てたいという思いがある。今回の追及の結果、メディア不信が高まっただけに終われば、それはHUNTERの意図するところでもないだろう。ここでもう一度、情勢調査の意義と課題について考え直してみたい。

 参院選公示から2日後の6月24日、新聞各紙は朝刊1面で一斉に選挙の情勢を伝える記事を掲載した。HUNTERの指摘する通り、読売と日経は、日経リサーチに委託した調査に基づき、それぞれの取材結果も加味して、与党優位と報じた。だが、それだけでは「与党に都合のいい数字を使った政権の犬たちによる誘導記事」とまでは言えない。

 情勢調査の与える影響については、①勝つと予想される候補にさらに票が集まる「バンドワゴン効果」(勝ち馬効果)と、②負けると予想される候補に票が集まる「アンダードッグ効果」(負け犬効果、判官びいき効果)の二つが知られている。どちらにも作用し得る、ということになる。

 読売と日経の記事を、バンドワゴン効果を狙った「与党に都合のいい数字を使った政権の犬たちによる誘導記事」と言えるのだとすれば、それと同じ程度の確度で、あれはアンダードッグ効果を狙った「野党に都合のいい数字を使った反権力の犬たちによる誘導記事」ですよ、と反論することも可能ではないだろうか。

 現在と同じく自公政権下だった2009年の衆院選では、読売や日経を含む各紙が、民主党が圧勝するとの見通しを投票日前に伝えた。このときの記事は劣勢である自公を利するようアンダードッグ効果を狙った「与党の都合のいい数字を使った政権の犬たちによる誘導記事」だろうか。それとも、民主にさらに勢いをつけるバンドワゴン効果を狙った「野党に都合のいい数字を使った反権力の犬たちによる誘導記事」だろうか。

 HUNTERが記事で指摘したのはもっと本質的で根深い問題だ。誘導記事と思えてならないほどに報道が信用できない、深刻なメディア不信が広がっている、ということだ。

 日経新聞と同じデータを共有しながら、1面で「本社世論調査」と称した読売新聞の姿勢は、メディア不信を助長しかねない。世の中の常識とずれている。世論調査を見るとき、調査主体が読売なのか朝日なのかによって、その数字を割り引いて見る習慣は広く一般に定着しているように思う。実際、調査主体によってバイアスがかかることは少なくとも新聞各社の中では知られた話だ。

 例えば、自民党政権への支持率は朝日より読売の方が高めに出る傾向がある。これは政権に肯定的な読売が支持率を高く見せようと数字を操作しているわけでもなければ、逆に政権に批判的な朝日が支持率を低く見せようと数字を操作しているわけでもない。社外を含む多くの人々が関わる調査について、数字を捏造すれば、それはすぐに外に漏れる。リスクは計り知れない。ではなぜ調査主体によって数字が異なるか。「調査に協力を求められた人の中で、自民支持の有権者は朝日の調査を拒否しがちのため、朝日は自民支持の回答が減る。一方、自民不支持の有権者は読売の調査を拒否しがちのため、読売は自民不支持の回答が減る」とされている。

 それでも「本当は数字をいじっているのではないか」と疑う人もいる。そもそも、情勢調査や世論調査は対象者全員から聞き取る悉皆調査ではない。対象者の一部だけから聞き取って全体を推論する抽出調査に過ぎない。統計学に基づき、実践を積み重ねているが、あくまで推測だ。だからこそ、情勢調査は、その方法(いつ、誰が、誰を対象に、どのように調査したか)を明確に示さなければならない。「世論調査の質問文が誘導的だった」とする批判記事は、メディア側が質問文の一言一句を開示してこそ可能になる。有権者が調査の信頼性やバイアスを吟味できるよう、メディアは結果と方法はセットで報じなければならない。批判と検証にさらされてこそ、信頼に足りる調査と言える。

 読売のケースは、調査方法は紹介している点で、検証可能性をギリギリ残しているが、HUNTERのように注意深くメディアを監視しているのでなければ気づくことは簡単ではない。1面で「本社世論調査」と白抜きの文字で強調すれば、読売新聞社の独自調査と思うのが普通だろう。そうした誤解を招くことが分かっていながら、見栄えのために「本社世論調査」と銘打ったのであれば、「読者への背信行為」(HUNTER)と言われても仕方がないと思う。

 HUNTERが6月30日付けで報じた産経のケースは深刻だった。産経の記事は、「産経新聞社は全国の総支局などを通じて、7月10日投開票の参院選の序盤情勢を探った」としている。どんな調査をしたのか、想像がつかない。検証は不可能だ。

 こうしたことを続ければ、メディア不信は高まるばかりだ。「こんな調査ならやめてしまった方がいい」という意見が出るのも無理もない。だが、目指すべきは信頼に足る調査を続けていくことではないか。

 今や多くの政党が頻繁に世論調査や情勢調査を繰り返して、世論の風向きを探っている。選挙期間中にもなれば、関係者の間で真偽不明の情報が飛び交う。特定の意図を帯びているケースもあるだろう。信頼に足る情勢調査がなければ、そうした怪情報に振り回されてしまう。

 「メディアも政治家も同じ穴の狢で、意図を持って世論を操作している」と見られている現状は確かにある。情勢調査に関して、愚直に今のやり方を続けていくことが完全無欠、唯一無二の正解であるとは思わない。一方で、情勢調査をやめる選択が、よりよい社会につながっていくとも思えない。情勢調査をやめれば、メディア不信がなくなるわけでもない。民主主義に関わる重要な情報を独占させず、広く社会に開いていく。それがメディアの使命だと考えている。「使命を果たしているか」。それがHUNTERの問いかけだろう。情勢調査はその一つに過ぎない。政治報道のあり方を巡って今後も検証、批判されていくことは当然だし、その緊張関係の中で、報道の質を高めていきたい。

 繰り返しになるが、情勢調査は投票行動に影響する。「このままではまずい」と投票に出かけ、周囲にも投票を促す人もいれば、逆に「このままでいい」と棄権して、投票日は行楽に出かける人もいるだろう。あるいは「投票に行くのがバカバカしくなった」と興味を失ってしまう人もいるだろう。プラス、マイナス、双方の影響があるが、どちらの影響を大きくするかは、メディアにも政治家にもコントロールはできない。有権者に委ねられている。終盤情勢の調査結果も近く掲載される。より充実した判断、より後悔のない判断の材料にしていただければと願っている。



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