週刊誌に事を公にする場合の基準なり内規なりがあるのかどうか分からないが、“話題になって売れればいい”というのが本音だろう。
21日発売の「週刊文春」が打ち上げた鳥越俊太郎氏の女性スキャンダルは、東京都知事選挙に立候補している同氏に“裏の顔”があり、大学生(当時)への淫行に及んでいたというもの。「疑惑」と断りながら、選挙期間中、しかも鳥越氏を含む主要候補が接戦を演じていることが報じられている中での記事は、なんと14年前の出来事を掘り返したものだった。
鳥越陣営ならずとも、「選挙妨害」を疑わざるを得ない内容。問題の記事を子細に見てみると、いくつもの疑問点が浮かび上がってくる。
(写真は、21日発売の「週刊文春」)
当事者の証言なし 補強は「関係者の話」
問題の記事は、14年前の2002年、鳥越氏が私立大学の女子学生を別荘に連れて行き、みだらな行為に及んだというもの。タイトルに「疑惑」とあるが、記事の内容は鳥越氏をクロと断定した形となっている。文春に告発したのは、女子学生の元恋人で、現在は夫となっている男性ということになっている。
一読して感じるのは、断定的に書きながら確かな裏付けがないということ。元女子大生の肉声は一度も出てこず、顛末を語っているが夫だという男性だけなのだ。文春側が元女子大生に会って話を聞いた形跡もなく、“裏をとった”と胸を張れる内容ではない。
記事の補強材料として使っているのが、告発者が鳥越氏に出したというメールの画面と元女子大生が通っていたという「私立大の関係者」。さらに、鳥越氏の人格を否定するために、同氏の古巣である「毎日新聞OB」と「テレビ朝日関係者」の話を紹介している。週刊誌の記事に信頼がおけないのは、この「関係者」という表現を多用すること。情報源の秘匿だという言い訳が聞こえてきそうだが、告発者は別として文春報道に実名で登場するのは鳥越氏本人だけ。あとは、存在さえ怪しいというのがこの記事の実態だ。
「テレビ朝日関係者」の話の前振りに≪こんな声も少なくない≫とあるが、「少なくない」とは「多い」と同義。しかし、テレビ朝日の内部で、鳥越氏は女好きなどという話など聞いたことがない。淫行疑惑報道の発端であるかのように書かれている「私立大関係者」のコメントにしても、この関係者がどのような立場で、いかにして鳥越氏と元女子大生の話を確認したのか不明。“関係者の話”で逃げを打つのは週刊誌の常套手段だが、捏造だとすれば極めてタチが悪い。
証拠のメール画面に強要の疑いも
補強材料の無理は、本筋の話が弱いことを意味している。元女子大生本人が出てこないのだから、“淫行”前後の話はほとんど伝聞に基づくもの。『……という。』表現ばかりが続く内容だ。力強く描かれているのは、告発者の男性が鳥越氏と会ったという場面だけ。甘利明元経済再生担当相を追い込んだ記事のような「動かぬ証拠」は皆無である。
唯一の証拠というのが前述の告発者が鳥越氏に出したというメールの画面。告発男性は、2014年に自分が関わったイベントに鳥越氏が出演することがわかり、出演をキャンセルするようメールで頼んだというのである。不可解というしかない。12年前の出来事。しかも、鳥越氏はテレビ出演の機会が多く、顔を見ない時期は少なかったはず。告発男性は≪自分にとって大事なイベントを汚される気がした≫(文春の記事より)としているが、相手を困らせイベント出演を止めさせたとすれば、強要ととられてもおかしくない行為であろう。
選挙妨害の疑いも
文春は記事の冒頭≪これを報じることは広く公共性、公営規制に資するものであると小誌は考える≫と記している。知事選取材に入ってから、このネタに≪出くわした≫ともある。だが、週刊誌の記者たちの間では、鳥越氏の女性スキャンダルは早くから噂されていたこと。ある週刊誌の記者は、「業界の人間なら、ほとんど知っていた話。ああ、文春が書いたのかという感じ」と話す。文集ともあろうものが、他誌より遅いこの時期にネタを掴んだとは考えにくい。事実、記事の中でも週刊新潮が14年前に取材していたことを告発者男性が語っており、文春が正義感だけでこの記事を掲載したのか怪しい状況だ。
選挙期間中、それも主要3候補が接戦を演じているさなかでの女性スキャンダル、話題にもなるし、文集も売れる。だが、記事の中身は当事者の話ではなく、その夫によるもの。はっきり言って、事実の確認は不十分と言わざるを得ない。そもそも、取材を受けた鳥越氏自身が「事実無根」と返している以上、文春はこの反論を打ち破る材料を提示すべきではなかったのか。批判対象の話に反証できないまま、「売れればいい」で記事化したのならあまりに低俗。選挙妨害の疑いも濃くなる。
鳥越氏側は刑事告訴へ
鳥越氏側の動きは早く、文春発行前日の20日に弁護士による抗議文を文春編集部あてに送付。21日には名誉棄損及び『虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない』とする公選法の規定に違反するとして、東京地検に文集編集人に対する告訴状を送付したことを報道各社へのコメントで明らかにしている。(下の「抗議文」及び「弁護団からのコメント」参照)