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「産経新聞」選挙情勢報道の実態

2016年6月30日 09:15

産経記事 参院選の公示から3日目に、大手メディアが一斉に伝えた「自公勝利」の選挙情勢調査結果。少ないサンプル数の同一データを使い回す手法や、論戦も深まらぬ時期での調査には賛否両論あるところだろう。
 数字の信ぴょう性はともあれ読売、日経、毎日、朝日、共同の記事は、一応裏付け数字を基にしたもの。ところが、調査もせぬまま与党勝利を断定するような記事を垂れ流した新聞があった。政権擁護に徹する「産経新聞」である。

調査なしで「自公勝利」を断定
 下は、東京都内で配達された産経新聞6月24日朝刊の1面。トップの見出しには≪改憲勢力3分の2うかがう≫、脇に≪与党、改選過半数の勢い≫とある。記事は、自公の獲得議席が安倍晋三首相の設定した“自公で改選過半数の61議席”という目標を大きく上回る勢いだと断定した上で、「自公におおさか維新の会などを加えた『改憲勢力』は憲法改正の国会発議に必要な3分の2(162議席)確保をうかがう」。政権の犬にとって、もっとも好ましい情勢だ。

産経記事1.jpg

 ここまで断定的に自公勝利を予測するからには、確かな裏付けがあるはず。一体どれくらいのサンプルをとって情勢調査を行ったのかと記事を隅々まで読んでみたが、産経が調査を実施したという記述がない。驚いたことに、自公勝利の裏付けは記事冒頭の「産経新聞社は全国の総支局などを通じて、7月10日投開票の参院選の序盤情勢を探った」結果であることが分かった。

 補強材料として使ったのが共同通信の調査結果。全体の情勢を断定的に書いたあとで「共同通信社が22,23の両日に実施した電話世論調査でも同様の傾向が出ている」。サンプル数も含めた共同の調査結果は明らかにせず、傾向が同じだから自社の記事は正しいという論法だ。産経は独自の調査を行わずに全選挙区の情勢を推測、信ぴょう性を持たせるために他社の調査結果をいいように使っていた。

 結論から言って、この記事の信頼性はゼロ。捏造と言われてもおかしくない内容だ。産経の組織は東京、大阪の両本社の他、総局が全国に10。東北、千葉、さいたま、横浜、中部、京都、大阪、神戸、広島、九州だけだ。支局にしても36カ所しかなく、九州に至っては熊本と鹿児島の2つだけ。当然、記者の数も限られる。その体制で、こうまで断定的に報じることができるような詳しい情勢が分かるとは思えない。裏付けをとるのは報道のイロハだろうが、それにあたるものがない以上、産経の記事はただの推測に過ぎない。推測で特定政党の優勢を報じるのは、世論誘導以外の何者でもあるまい。

「九州・山口特別版」のタチの悪さ
 新聞の紙面は地方によって変わるものだが、下は、同じ6月24日に福岡市内で売られていた産経の「九州・山口特別版」。参院選の序盤情勢を伝える記事は左肩になっており、見出しは≪与党、改選過半数の勢い≫、脇も≪1人区、自民先行「22」≫に。記事も微妙に違っており、東京版の「自公におおさか維新の会などを加えた『改憲勢力』は憲法改正の国会発議に必要な3分の2(162議席)確保をうかがう」が「自公におおさか維新の会などを加えた『改憲勢力』が3分の2(162議席)確保に必要な78議席を超え、憲法改正の国会発議要件を満たすかが焦点だ」と、少し控え目の予想に変わっている。

産経記事2.jpg
 
 一番大きな違いは、九州・山口特別版の記事に「共同通信社が22,23の両日に実施した電話世論調査でも同様の傾向が出ている」の一文がないこと。補強材料を用いなかったことで、若干ではあるが弱めた書きぶりになったと見られる。ただし、全体の論調が「自公勝利」であることには変わりがなく、数字の裏付けがない分東京版よりタチが悪いと言えよう。産経の九州・山口特別版は、捏造記事と言われてもおかしくない。

 選挙情勢を取材する記者たちに、予断や陣営への好悪がないとは言えない。だからこそ、有権者に対し電話や対面での調査を実施し、裏付けとなる数字に取材結果を加味して記事を作るのだ。ところが産経は、世論調査を実施せずに記者の取材結果だけを基に選挙情勢を決めつけた。共同の数字にしてもサンプル数はわずか27,000人。信頼性の低い数字と乱暴な取材結果で、選挙の行方を決定付けるようなマネは絶対に許されない。



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