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選挙情勢報道 サンプルは有権者の0.027%
公示日に投票先聞くメディアの矛盾

2016年6月27日 09:50

新聞各紙 参院選の公示と同時に選挙情勢調査を実施し、舌戦のスタートからわずか2日で自公勝利の予測を報じた新聞各紙。立候補者の顔ぶれはもちろん、各党・各候補の公約など投票の判断に必要な情報は有権者に周知されておらず、この時期に選挙戦の行方を決めつけるような記事を垂れ流すことには不同意だ。
 加えて、読売、日経、毎日、共同のサンプル数は2万7,000人台。有権者約1億人の0.027%の数字で、1面トップに自公優位の見出しを付けることが、許されるとは思えない。大手メディアはいつごろからこうした愚行を行うようになったのか――。過去3回の参院選における選挙情勢報道を検証した。

急減したサンプル数
 下は、2007年(平成19年)から今回までの計4回の参院選で、報道各社が実施した情勢調査のサンプル数をまとめた表。左の数字は実際にかけた電話の数字、右が回答者数だ。

情勢調査サンプル数-1.jpg

 もともとサンプルが少ない日経は別として、読売は2010年から、毎日は13年からサンプル数が急減している。当時の紙面を確認したところ、読売については、この年から日経のグループ会社でマーケティングなどを専門にしている「日経リサーチ」に調査業務を委託するようになったためだと分かった。毎日は、13年から日経と同じ調査方法を採用したものと見られる。

 日経、読売、毎日といった新聞のサンプル数が2万人台になっているのは、改選数が1なら500、2なら750、3・4なら1,000などと選挙区ごとに数字を決めて調査しているため。しかし、改選数に応じたサンプル数を「目標」としており、信頼性を欠く状態だ。新聞社によって違いはあるが、衆院選の選挙情勢調査におけるサンプル数は1選挙区ごとに300から多いところで1,000。全県で1もしくは2県で1という改選数の選挙区で、サンプル500という数はかなり乱暴という他ない。毎日新聞に至っては、何件電話を掛けたのかも不明。調査自体の信頼性に疑問符が付く状況となっている。

携帯電話所有者は無視 
 問題はまだある。国内では携帯電話の普及が進み、固定電話の数を上回っているのは周知の通り。若い世代は、固定電話なしが大半だ。今回の調査は22日と23日でともに平日。架かってきた電話に出る人の年代を考えると、調査内容への信頼度はさらに低くなる。

 前述したように、日本の有権者は約1億人。27,000人といえば0.027%に過ぎない。“取材結果を加味し”と断ってはいるものの、データサンプルの貧弱さを見る限り、1面トップで扱っていい調査結果とは言い難い。

大手メディアの矛盾
 報道各社が選挙情勢の調査結果を公示直後に報じるようになったのは、近年になってからのことだ。下は、2007年(平成19年)から今回までの計4回の参院選で、新聞各紙と共同通信が調査を実施した日付である。

情勢調査2-2.jpg

 07年は各社バラバラ。もっとも早かった読売でも公示日の2日目から。次いで朝日が5日目から。日経、毎日、共同は1週間後となっている。公示日から調査を行うようになったのは、10年の参院選から。この年は、毎日を除く4社が公示日から調査を行っていた。13年、今年と全社がそろって公示日に調査をスタートさせている。旧民主党が政権交代を果たしたのが09年。報道各社は、この頃から選挙情勢報道の早さを競うようになっている。

 公示日の立候補締め切りは夕方5時。常識的に考えれば、初日の調査は避けるべきだ。“事前に立候補者が分かっている”という言い訳が聞こえてきそうだが、駆け込み出馬の可能性はゼロではない。投票先を聞くのなら、最低限各党・各候補の公約が出そろってからにすべきではないのだろうか。

 選挙のたび、マスコミ各社は有権者に政策の重要性を訴えてきた。積極的に各党・各候補の公約をチェックする人は別として、多くの有権者は新聞やテレビで個々の訴えに触れるのが普通。「選挙公報」というアイテムもあるが、有権者に届くのは公示から何日も経った後で、選挙戦初日は乏しい情報しかないのが実情だ。論戦が深まるのも選挙が始まってから。“候補者たちの訴えに耳を傾けろ”というのなら、公示日に投票先を聞く行為は明らかに矛盾している。

 そもそも、公示日直後の調査結果に一喜一憂するのは選挙関係者だけ。有権者にとって必要なのは、公約や候補者を吟味するための情報だ。公示日から情勢調査を実施し勝敗の行方を報じることは、「知る権利」とは無関係。むしろ選挙を冒涜する行為と言っても過言ではあるまい。



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