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安倍晋三「信なくば立たず」 曲学阿世の証明

2016年6月22日 09:45

首相会見 「信なくば立たず」――政治家がよく使う言葉だ。正確にいえば「民信なくば立たず」。漢文なら「民無信不立」である。
 小泉純一郎元首相が好んだことで知られる論語由来の格言だが、安倍晋三首相も事あるごとにこの一語を口にしてきた。
 “自分は国民の信頼を裏切らない”と言いたいのだろうが、どうやら安倍さんはこの言葉の意味が分かっていない。論語の一節と安倍政治の現実は、明らかに相違がある。

「信なくば立たず」を連発するが……
 育休で注目を集めていた自民党の宮崎謙介前衆院議員が不倫していたことについて、国会で質問された首相は「信なくば立たず。国民の信頼の上に政治活動があり、政策実行も国民の信頼が基礎だ。そのためにも、国会議員、政治家は、しっかりと自らの行動を律する必要がある」と答弁。辞職した舛添要一東京都知事の政治資金問題についても「公私混同という厳しい指摘がなされている以上、政治家は信なくば立たずであるので、しっかりと説明責任を果たしていくことが大切だ」と述べている。

 今月1日、消費税引き上げ延期を表明した時にも――「信なくば立たず。国民の信頼と協力なくして、政治は成り立ちません。“新しい判断”について国政選挙であるこの参議院選挙を通して、国民の信を問いたいと思います」。首相にとって、「信なくば立たず」はじつに便利な言葉のようだ。だが、論語に出てくる孔子のこの格言は、国民から安倍首相に突きつけるべきもの。どうやら首相は、論語をしっかりと学んだわけではなさそうだ。

孔子の真意
 「民信なくば立たず」は、孔子の弟子である顔淵(顔回とも)が偏したとされる「論語」顔淵編の一節に出てくる格言。漢文書き下しだとこうなる。

子貢政を問う。子曰く、食を足し、兵を足し、民之を信にす。子貢曰く、必ずや已むことを得ずして去らば、斯の三の者に於て、何をか先にせんと。曰く、兵を去らんと。子貢曰く、必ず已むことを得ずして去らば、斯の二の者に於て何をか先にせんと。曰く、食を去らん。古自り皆死有り。民信無くんば立たずと。

 孔子の弟子、子貢が政治にとって大切なものを聞いた時の話。孔子は、“食を満たすこと”、“軍備を整えること”、“民衆から信頼されること”の三つを挙げている。ここからが重要で、子貢はその三つのうち、やむなく一つを省くとすればどれかを聞き孔子はまず「軍備を省く」と答えているのである。政治を行うにあたって食、軍、信が必要だが、食や信を守るためには軍は必要ないということだ。このあと孔子は残りの二つからひとつを省くならどちらかと問われ、食だと断言。「信」がなければ政治は成り立たないとした。

曲学阿世
 翻って、安倍政権の3年半はどうか。特定秘密保護法の制定、武器輸出三原則の撤廃、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認、安保法の強行採決……。いずれも国の根幹にかかわる問題だが、首相は選挙で是非を問うことを避け、国民の反対意見を無視してごり押しした。前回総選挙で争点に据えたのは、消費増税先送りという与党にとって都合の良すぎるテーマ。本当の目的は、改憲派の数を増やし政権基盤を固めることだったが、選挙中は憲法問題にはほとんど触れず、経済優先を装った。

 そして今回、1年半前に公約した「再び(消費増税を)延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言致します。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施致します」をあっけなく反故にし、“新しい判断”とやらを持ち出してきた。戦後の政治史の中で、これほど姑息な総理大臣がいただろうか。

 安倍首相が目指しているのが、「戦争ができる国」であることは確か。そのために国防軍を持つということも明言している。現行憲法の中で首相がもっとも変えたいのは「9条」。そのためには衆参で3分の2以上の議席が必要なのだ。首相にとって最も重要なのは「軍事」であって、「信」ではない。つまり安倍さんは、孔子が言った「民信なくば立たず」の本当の意味を理解せぬまま多用しているのである。“曲学阿世の徒”とは、こうした人物を指す言葉だろう。

 きょう22日は参院選の公示。首相は「信を問う」のだという。失敗した経済政策アベノミクスについては、いまさら聞かれるまでもない。そもそも、「信なくば立たず」を連発する首相自身が、肝心の信頼を失っている。



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