公共事業の用地買収を巡って、役所が土地の評価に関する情報を隠すという不適切な事案が相次いで発覚した。隠ぺいと見られてもおかしくない行政運営を行っていたのは、福岡市と鹿児島市。九州を代表する二つの都市が、そろって市民や議会を軽視した格好だ。
背景にあるのは、不透明な事業用地取得の実態。関連文書の情報公開請求には、開示すべき文書を省くことで施策の実施過程を隠そうとするなど姑息な手段で対応。両市とも、疑惑隠しに躍起となっている。
福岡、鹿児島――歪む両県都の実情について、これまでの取材経過をまとめた。
(写真左は福岡市役所、右が鹿児島市役所)
福岡――仕組まれた「公募」
福岡市では、市教育委員会が整備を進めている第3給食センター(仮称)の事業用地選定過程における価格調査報告書(不動産鑑定業者作成)が非公表。その理由について市教委は、調査を委託した二つの不動産鑑定業者との契約で、非公表にすることを約束したからだという。しかも、契約書を交わしたわけではなく、「口頭」での約束事だったというのだから呆れるしかない。市教委が出した評価額「6億3,000万円」の正当性を証明する証拠はどこにもないというのが実情だ。
市教委が土地の価格調査報告書を隠す理由は一つしかない。用地選定は公募によるものだったが、形だけ。市教委はその1年前に、事業用地に決定した土地の下調べを行い、所有者である建設会社と面談していた。はじめから給食センター整備地を決め込んでいたと見るのが普通。仕組まれた用地選定だった疑いが濃く、そのため公募の経過も不自然なものになっていた。公募に応じたのは2者だったが、建設会社側には評価額を教え、落選した側には評価を聞かれても無回答。対応が、まるで違うものだったことが分かっている。落選した土地の地主側契約希望額は3億円以下。鑑定業者の評価は同程度かそれ以下だった可能性が高く、絶対に表には出せない数字だったと見られる。土地の価格調査報告書が公表できないはずだ。
鹿児島でも疑惑の土地取引
一方、鹿児島市への情報公開請求では、平成19年に市が81億5,000万円をかけて取得したJT(日本たばこ産業株式会社)鹿児島工場跡地(上荒田町)の「土地評価額」が非公表。こちらは市管財課が算定した土地の評価額だったが、市議会にも報告されていなかった。HUNTERの抗議を受けて評価額開示に方針転換したが、市管財課が評価額を算出した際の文書はすでに廃棄済み。根拠に乏しい数字だけが残された形となっている。
JT跡地には市立病院、市交通局、公園が整備されているが、この再開発事業にともなって行われた市バス営業所の土地買収にも疑問が生じており、更なる情報公開の結果を待って詳細を報じる予定だ。
市民軽視
両市への取材を通じて感じるのは、情報公開の形骸化。どちらも役所も、情報開示にあたって当然そろえなければならない関連公文書を省くという手法で施策の実態を隠しており、恣意的運用で情報公開条例を骨抜きにした形。市政の歪みが顕在化した証拠とも言える。そもそも情報公開は、市民の知る権利に応えると同時に、施策の説明責任を果たすためのもの。役所の都合で開示文書を選んでいれば、条例を制定した意味がない。
福岡、鹿児島両市における最大の問題は、土地評価の情報が市議会に報告されていないこと。議会軽視は市民軽視と同義であり、施策の決定過程を隠すことは市民への背信行為だ。説明責任を果たすのが役所の義務だとするなら、これ以上の隠蔽は許されまい。両市とも、6月は市議会が開催される予定。鹿児島市は改めて評価額を報告するものとみられるが、福岡市教委は「口頭での契約」を盾に報告書の非公表を貫く構えを示している。