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鹿児島市 JT跡地取得の未公表情報を一転して開示
巨額公共事業に広がる闇

2016年6月 6日 09:10

鹿児島市役所 大型公共事業の政策決定過程を検証するために行った情報開示請求を巡り、取得した土地に関する情報を非公開にしていた鹿児島市(森博幸市長)が方針転換。これまで議会にも報告していなかった内容を明らかにした。 
 同市が情報開示を拒んでいたのは、市が81億5,000万円をかけて同市上荒田町のJT(日本たばこ産業株式会社)鹿児島工場跡地を取得した際の「土地評価額」。取引の正当性を確認するための重要な要素だったが、市は公文書中の評価額を黒塗りにしてこの金額を隠していた。
 HUNTERの抗議を受けた同市は3日、市交通局がいったん出した開示決定を取り消したことに伴う情報公開の場で、改めて評価額が記された文書のコピーを交付。隠ぺい姿勢を批判された市が、6月議会を前に対応を一変させた形だ。(写真は鹿児島市役所)

不透明なJT跡地取得の過程
 問題の土地は、68,926㎡に上る市内上荒田町のJT鹿児島工場跡地。市交通局や市立病院の移転用地として、平成19年に市がJTから買収していた。HUNTERが鹿児島市に公開を求めたのは、JT跡地取得までの過程が分かる文書。市交通局に絡む一連の土地取引などを調べるため、3月に開示請求していた。

 これに対し鹿児島市は、土地購入の協議段階から取得完了までを所管した市企画財政局企画部政策企画課と、その他の実務を受け持った交通局が個別に対応。HUNTERは、文書量が少ない政策企画課保有の文書を先行取得したが、市管財課が行ったという土地評価額は黒塗り非開示となっていた。

 市側が示した非開示理由は、「当該公文書には、土地の評価額等が記載されており、公にすることにより、本市が行う用地取得交渉等の円滑かつ適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため」(公文書一部非開示決定通知書より)。しかし、契約金額が明らかになっている以上、取引の正当性を担保する評価額を公表するのが当然。他の自治体では、公共用地の取得に係る役所側の鑑定額、評価額をオープンにするのが通例となっていることもあり、鹿児島市に対し不当な隠ぺいであるとして強く抗議していた。

 一方、市交通局が担当した先月の情報開示では、本来開示すべき文書を意図的に省いていたことが判明。あわてた市側が、いったん出した開示決定を取消すという前代未聞の展開になっていた。一連の動きを報じるなか、市側は唐突に方針転換。二度目となる市交通局の情報公開に合わせ、隠してきた土地の評価額を開示するとしていた。下、左側は当初交付された問題の文書(「公共用地取得検討委員会検討結果」)、右が3日に改めて開示された文書である。

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 再開示された文書によれば、管財課の評価額は平米あたり138,500円。総額で9,546,317,480円となっている。取得価格より高い評価で、安い買い物をした形だが、じつはこの評価額自体が怪しい。市の管財課は、民間の不動産鑑定所などが作製する「不動産鑑定報告書」にあたる土地の評価を行った時の関係文書を廃棄しており、評価が妥当なものだったのかどうか判断できない状態となっているからだ。

土地評価、5年で廃棄
 市側の説明によれば、土地の鑑定評価書の保存期間は5年。JT跡地の土地評価は平成19年だったため、5年後の平成24年には廃棄していたという。文書廃棄の根拠を示すよう求めたところ、送られてきたのが「鹿児島市文書取扱規程」。下は、市側が土地の鑑定評価を廃棄した根拠だとしている同規程の別表で、文書の保存期間決定基準が定められている。

規程.jpg

 青く囲んだ部分が「5年保存」を対象とする文書の種類。鹿児島市は、すべての土地鑑定評価を5年で廃棄にするのが慣例になっていると主張する。しかし、これでは税金の使い道を検証する上で市民側が不利な立場になるのは確か。役所にしても、今回のように説明責任が果たせなくなる。

 そもそも、永年保存の対象文書を指定した中に、赤いアンダーラインで示した通り「不動産その他の財産の取得、管理、処分等に関する文書で重要なもの」という一項がある。規程に従うなら、土地取得額の根拠を示す文書は永年保存。80億円という税金を費消した土地取得の関係文書なら、なおさらだ。公有地取得の際に作成された鑑定評価の保存期間について複数の自治体に聞いてみたが、いずれも予算の規模や施策の重要度によって決めるとしており、鹿児島市のように“一律5年で廃棄”というのは皆無だった。同市の情報公開や文書管理への対応を見る限り、「不都合なものは隠す」という姿勢が歴然。根拠文書の廃棄をいいことに、評価額を明かしたという見立ても成り立つ。

問われる議会のチエック機能
 一連の経過が示す最大の問題は、鹿児島市議会や地元メディアのチェック機能が働いていなかったこと。巨額な公費を投じた事業であるにもかかわらず、土地の評価額は非公表――まともな議会なら議案を承認するはずがないのに、鹿児島市議会はこの不透明な土地取得を容認している。事業経過の記録を情報公開請求していれば、早い時期に数々の疑問点が浮かんでいたはず。だが、これまでJT跡地の開発について開示請求が行われた形跡はない。一体、議会や記者クラブは何のために存在しているのか?6月議会で、きちんとした検証が行われることを期待したい。なお、JT跡地の土地取得や、その後に行われた交通局絡みの土地取得において、数々の疑惑が生じていることも付記しておきたい。広がる闇の詳細は、次の配信記事で――。



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