今年3月、佐賀市内であった商工会の研修会で「オスプレイ配備計画に係る地域振興策について」と題する講演を行った藤丸敏防衛大臣政務官(右の写真)。70分に及んだ話の内容は、佐賀県はもとより、防衛省も驚く“秘密の暴露”のオンパレードだった。
ガイドライン見直しの裏話、佐賀県知事や地元自治体でさえ聞かされていなかったオスプレイ関連予算の内訳、防衛省が画策したアセス逃れの手口……。役所の内部資料まで使った講演は、守秘義務違反を問われてもおかしくないもの。とりわけ、北朝鮮が発射したミサイルを巡る一節には特定秘密に触れた疑いさえある。HUNTERが独自に入手した講演の記録と、防衛省への情報公開請求で開示された資料から、改めて藤丸発言を検証する。
北朝鮮ミサイルに関する藤丸発言
問題の講演は3月28日。佐賀市多久・佐城地区商工会の研修会で、「オスプレイ配備計画に係る地域振興策について」と題して行われた。北朝鮮のミサイルに関する同氏の発言を、可能な限り再現してみた。
次、北朝鮮がありますけども、朝鮮半島の根っこのところでバンバンいろんなの撃ってるんです。根っこの方からバンバンバンバン撃ってるわけですね、ミサイルなんか。ミサイルというか弾道弾を。撃ってるんであります。今年度は5回位撃ってるんですが、これはあの、テポドンの大きいやつなんですけど、上の赤い方のやつ、平成21年に日本を飛び越して撃ったやつです。飛び越して撃ったんですけど、これは大体失敗に終わっているんですね。飛び越したは飛び越しました。しかし、人工衛星と言って打ち上げたんですけど、人工衛星にならなかった。ポチャンポチャンと墜ちただけなんです。次に、黄色でいってるのが、平成24年に衛星打ち上げだといって、一応衛星にはなってるんです。なってるんです。今回、今年の2月の7日に打ち上げたのがこれでありまして、これはまあ、2回目というか前回やったのと同じで、衛星になったという話であります。
で、この人工衛星で大型の弾道弾というのはテポドン2というもので、よく写真に写ってるテポドン2というのを打ち上げています。これはですね、アメリカ大陸まで届く、いうやつなんです。
で、次にノドンというのがありますね。ノドン。ノドンというのが、だいたい日本に届くやつで、だいたい250発くらいあると言われています。250発ですね。よくテレビとかで見ると、トラックとかに積んでますね。トラックに。あれがだいたいノドン。トラックから打つと。どこにおるかわからんわけです、いっぱい。だいたい根っこの方から撃ちますけれども。あの、これはだいたい日本くらいの射程距離でノドン。その横にスカッドというのがあります。スカッドは大体韓国まで飛んでいくやつです。こういう種類を持っているというふうに言っいてます。
これがだいたい射程距離でありまして、円グラフに描いたもので、一番上のテポドン2というのは、やっぱり外っかわまでいって、これよりプラスアルファまでいってワシントンDCまで届くんじゃないかと言われています。それからノドンですね。ノドンはこの辺。だいたい日本届くだろうて。このスカッというのが韓国くらいしか入らないんです。というのが、いま開発されているところであります。
で、どうやって撃ち落とすか。ですね。どうやって撃ち落とすかというと、もう朝鮮半島の根っこから飛んできますけど。だいたいですね、ここから打ち上げたというと赤い炎がでるじゃないですか、打ち上げる時に。赤い炎が出たときには、上の方に警戒衛星というのを置いておくんですよ。警戒衛星。それは色と熱で判断する、熱感知で外にありまして、撃った瞬間に赤い炎がでますから、それで、もうでます。
で、僕はあの、地下のですね、地下6階くらいに、防衛省の地下6階にあるんですが、でかい映像があって、で、そこに座っとかないかんやったんですよ。そしたら、撃った瞬間にぴかっというのが点きますもんね。ぴかって。この早期警戒衛星ていうのがあるんですが、監視するんですけど、これはアメリカんとなんですよ。ばさら高っかけん、日本は打ち上げとらんわけです。
次にですね、こないだん時は、9時31分に撃ったんですよ。で、9時32分にはですね、日本側のレーダーでぴゅっと捉えるんですよ。31分に撃って、ぱっと点いた。32分の段階じゃ、もう日本のレーダーが捉えるんです。レーダーが捉えてですね、1分後には。そうすると、さっき言った落ちる位置が計算されるんです。数秒で。落ちる位置がですね。
こう上がってくると、勢いと、その方向と、そうすると円を描いてきますんで、ま、ここにいようと。いうのが計算されます。俺は、こう見よったんです。こういう真上くらいでイージス艦がビューンと飛んでいく。当たるかってちゅう感じですが、そら当たってくれよと。何億円かするんですから。1丁。自分でとらえてあたりに行くと。
前半は、どう見ても用意された原稿をベースにした語り口。さほど脱線していない。ところが、方言丸出しになる後半は“自分”を出したのか、防衛省内で見聞きしたことを何の躊躇もなくしゃべっている。これだけでも十分に守秘義務違反と言えそうだが、注目すべきは今年2月に発射された北朝鮮ミサイルを、日本側がどう追跡していたかの部分だ。藤丸氏の話ではこうなる。
・9時31分:北朝鮮がミサイル発射
・9時32分:日本側のレーダーがミサイルを捕捉
防衛省の内部資料では……
藤丸氏が明かしたミサイル対応の時刻は正確だったのか?確認のため、防衛省に「北朝鮮がミサイルを発射した時刻及び日本側がレーダーで捉えた時刻を記録した文書」を開示請求した。下は、防衛省が開示した『北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射のクロノロジー』。ミサイル対応を時系列で示したもので、同省に聞いたところ、開示された統合幕僚監部の内部資料は公表された文書ではないという。該当文書がこれだけであるはずはないが、防衛省として出せるものは他にないということだ。
記述によると、「9時31分頃」にSEW情報を官邸に連絡とある。SEWとは、早期警戒衛星などが捉えたミサイル発射情報のこと。藤丸氏が講演の中で語った≪アメリカの早期警戒衛星≫≪防衛省の地下6回で見たでかい映像≫≪撃った瞬間にぴかっというのが点きますもんね≫≪9時31分に撃った≫に、間違いはなさそうだ。
微妙に違っているのは、日本側のレーダーが北朝鮮のミサイルを捉えた時刻。藤丸氏は「9時32分」としていたが、防衛省の資料では「9時33分頃」に「レーダー情報を入手し」、「官邸に連絡」したことになっている。1分の違いは、結果を大きく変えるものだが、防衛省の資料では『頃』の範囲が曖昧な上、「レーダー情報の入手」が「9時33分頃」なのか、「官邸への連絡」が「9時33分頃」なのか断定できない。曖昧な表現で正確な情報を隠した形で、むしろ藤丸発言の方が正確だったという見方も可能だ。すると藤丸時は、未公表の情報を垂れ流したことになる。
大臣会見での説明を超えた藤丸発言
北朝鮮がミサイルを発射した2月7日、臨時会見を開いた中谷元防衛大臣は、ミサイル発射の第一報をどのような形で入手したかを聞かれ、次のように答えている。
9時31分にSEW情報(米軍からの早期警戒情報)を入感致しました。この他、自衛隊の各レーダーによりまして、必要な情報収集も行っておりまして、速やかに官邸の方に通報・連絡を致しました。どのアセットで探知したのかにつきましては、具体的な探知状況について、わが方の手の内を明らかにする恐れがあることによって、お答えの方は差し控えさせていただきたいと思いますが、自衛隊は平素から、米軍からSEW情報を受領しております。今般の発射に係る自衛隊と米軍の連携の詳細等につきましても、双方の運用に関わることでありますので、お答えは控えさせていただきたいと思います。
大臣は、具体的な探知状況や自衛隊と米軍の連携の詳細等については話せないと明言しており、唯一『9時31分』だけが公表された情報。『9時32分に日本側のレーダーで捉えた』という藤丸発言が正確なら、秘密の暴露であることは明らかだ。講演での一連の発言は、どう見ても守秘義務違反。特定秘密保護法との関連においても、疑義が残る内容なのである。