今年3月、佐賀市内であった商工会の研修会で「オスプレイ配備計画に係る地域振興策について」と題する講演を行った藤丸敏防衛大臣政務官。70分に及び長広舌をふるったが、佐賀県の知事や佐賀市長も知らされていなかった発言内容に、地元は騒然。国会でも追及され、辞任を迫られる事態となっている。
HUNTERは同氏の講演記録を独自に入手したが、今年2月の北朝鮮のミサイル発射に関する発言など、特定秘密に触れる内容だった可能性が否定できない。2回に分けて、藤丸発言を検証する。
(右はミサイル発射当日の緊急情報の画面)
利権話で始まった藤丸氏の講演
問題の講演は3月28日。佐賀市多久・佐城地区商工会の研修会で、「オスプレイ配備計画に係る地域振興策について」と題して行われた。以下、その概要(前半部分)である。
私は古賀(誠)先生が当選した直後から書生として仕え、東京の議員会館で仕事ををしてきた。高校de(教師として)教えていたこともあるが、ほとんど古賀先生と一緒にやってきた。いまは、古賀先生の後を継いでいる。有明海沿岸道路は岩田先生(和親:衆院議員)の努力の成果で、最初は2億(の予算)だったのが去年は10億、今年は更に倍以上になりそうだと聞いている。漁連では、デモや有明海再生のための施策に取り組んだりもしていた。防衛大臣政務官になるとは予想していなかったが、去年の10月に就任し勉強したので、あらかた防衛のことは理解しているつもり。そこで世界の情勢を20分、佐賀の話を30分しようと思う。
まず、防衛の問題。古賀先生からは戦争にならないようにするのが一番大事だと言われている。古賀先生は安保法制に反対の立場で、日本人の血を流さなくていいようにというのが私に託された使命であり、それを肝に命じて政務官をやっている。防衛省の自衛官も、争いに巻き込まれることを望んでいる者は誰一人おらず、防衛に専念するという思いでやっている。とはいっても、平和がなければ何事も成り立たない。だから最悪の事態に備えている。軍備をやめて話し合いをするのが最善だが、なかなかそうはならない。中国・宋の時代に文治主義という思想があったが、北宋は廃れていった。きれいごとだけでは成り立たないのが現実だ。
のっけから利権絡みの話。有明海沿岸道路は、福岡県大牟田市と佐賀県鹿島市を結ぶ総延長55キロの自動車専用道路。藤丸氏が秘書として仕えた古賀誠元自民党幹事長が力を入れてきた事業で、地元福岡7区では「誠道路」と呼ばれてきた。道路整備や橋梁工事で莫大な利権を産んだことは事実。藤丸氏は秘書時代、地元建設業者の仕切りを行ってきたとされる。佐賀1区を地盤とする岩田議員を持ち上げながら今年度予算の額に言及したのは、自分の力を誇示したかったと見るべきだろう。それにしてもこの日の藤丸氏、いつもの口下手と違い、随分と話がうまい。
これが安保法の背景???
なぜ佐賀にオスプレイという話になったのか、という根本の話をする。民主党政権から3年程前に自民党政権になった際、小野寺(五典:衆院議員)さんが防衛大臣になった。その頃、ちょうど中国が東シナ海や南シナ海に進出し始め、ガス田が急増した。南シナ海を埋め立てて陸地を作り、飛行場やミサイルの発射台を置いているようだと――。そこで防衛を見直す必要があるということで、日米安保のガイドライン見直しの際、小野寺さんがアメリカに中国をどうにかしてくれと言った。すると、“アメリカが出て行って何かあった時に日本は助けられないじゃないか”という理由で断られた。そこで小野寺さんが安倍さんと相談して、多少はアメリカの後方支援を出来るようにしないといけないというのが去年の平和安保法制だ。そしてアメリカとガイドラインを結ぶ時に、南のほうを強めようということで、アメリカ海兵隊のような部隊を長崎の相浦に作ろうとしている。そうすると、物資を輸送する必要があるが、(佐賀県の)目達原は滑走路が小さいのでどこか近いところはないか探した。そこで、佐賀空港はどうかという話になった。つまり、目達原の輸送力を強めるために佐賀空港にオスプレイを配置することになった。
国の根幹を揺るがしている安保法制が、この程度の話で決まるわけがない。『アメリカが出て行って何かあった時に日本は助けられないじゃないか』という米国側の主張や、『多少はアメリカの後方支援を出来るようにしないといけないというのが去年の平和安保法制』というのが事実なら、日米安保はすでに崩壊していることになるからだ。安保条約破棄なら、アメリカは即刻沖縄から出ていかなければならない。もちろん、本土にある基地からもだ。本気で話したとするなら、藤丸氏は政治家失格。「嘘つき」と言われてもおかしくはあるまい。
大臣が秘した防衛体制に言及
我が国周辺の安全保障環境についてだが、北朝鮮はミサイルを何度も打ってきている状況。中国は東シナ海と南シナ海に進出している。ロシアはエネルギーで食ってきた国なので、ソ連時代と比べると小さくなったが、技術力はある。アメリカはIS(イスラム国)のような問題も抱えているので、世界の警察官役はいつまでも出来ないと言っている。アメリカの防衛予算は65兆円程度で、そのうち日本に16兆円程度かけている。ちなみに日本の防衛予算は5兆円。中国は16兆円程度。冷戦時代はアメリカの自由貿易を守るという意味合いがあったが、現在はアジアにおける貿易もそこまで多くなく、メリットがなくなってきているため防衛の役割分担をしてほしいというのがアメリカの本音だ。北朝鮮は朝鮮半島の根っこの方から弾道弾を打っている。今年度は5回位打っている。平成21年には日本を飛び越して打ったが、人工衛星にもならず失敗に終わった。平成24年には衛星打ち上げだといって一応衛星にはなった。今年2月7日に打ち上げたのは、2回目の衛星になった。(北朝鮮が)人工衛星(だとしている)大型の弾道弾はテポドン2というもので、これはアメリカ大陸まで届くというもの。ノドンというのが日本を射程距離としているもので、約250発あると言われている。テレビのニュースでよく出てくるトラックに積まれているようなものは大体ノドン。スカッドは韓国までを射程距離としているもの。こういう種類を持っていると言われている。
これをどうやって撃ち落とすかということだが、打った瞬間に出る赤い炎を、早期警戒衛星が色と熱で感知する。防衛省の地下6階にある大きなスクリーンで私も見た。この早期警戒衛星はアメリカのもので、日本は打ち上げていない。2月のミサイルは9時31分に発射されたが、1分後の9時32分には日本のレーダーで捉えられた。そこから数秒で落ちる位置などが計算される。軌道の真上のあたりでイージス艦が捉えて当たりに行く。50発以上もシミュレーションをしたが、もし外れた場合にはパトリオットが迎撃するという二段構えになる。何十発かを一度に打ってきた場合を想定して、二段構えでは弱いかもしれないということも考えている。イージス艦は3隻あればよく、3隻で役割分担をしている。日本は今4隻持っていて、最終的には8隻にしようとしている。ちなみにアメリカはアジアに7隻置いている。
『2月のミサイルは9時31分に発射されたが、1分後の9時32分には日本のレーダーで捉えられた』――特定秘密に該当すると見られているのが、このくだりだ。北朝鮮がミサイルを発射した2月7日、臨時会見を開いた中谷元防衛大臣は、ミサイル発射の第一報をどのような形で入手したかを聞かれ、次のように答えている。
≪これは、9時31分にSEW情報(米軍からの早期警戒情報)を入感致しました。この他、自衛隊の各レーダーによりまして、必要な情報収集も行っておりまして、速やかに官邸の方に通報・連絡を致しました。どのアセットで探知したのかにつきましては、具体的な探知状況について、わが方の手の内を明らかにする恐れがあることによって、お答えの方は差し控えさせていただきたいと思いますが、自衛隊は平素から、米軍からSEW情報を受領しております。今般の発射に係る自衛隊と米軍の連携の詳細等につきましても、双方の運用に関わることでありますので、お答えは控えさせていただきたいと思います。≫
『9時31分』は公表された情報だが、『1分後の9時32分には日本のレーダーで捉えられた』という藤丸発言は未公表。大臣は、具体的な探知状況や自衛隊と米軍の連携の詳細等については話せないと明言しており、藤丸発言は明らかな「秘密の暴露」。単なる守秘義務違反ではなく、特定秘密委保護法違反を疑うべきものだ。野党側が問題視しているのは、まさにこの部分で、今後も国会での追及が続くと見られている。
北朝鮮に関する一連の発言に出てくる『防衛省の地下6階にある大きなスクリーンで私も見た』、『50発以上もシミュレーションをした』、『二段構えでは弱いかもしれないということも考えている』、『日本は今4隻持っていて、最終的には8隻にしようとしている』も、国防に携わる人間が軽々しく話す内容ではない。見たこと、聞いたことをペラペラとしゃべる政治家が防衛大臣政務官……。他国の笑い声が聞こえてきそうだ。
呆れた中国への認識
次に、中国との問題について。この10年の間に中国は経済力を強め、2005年の中国のGDPは約200兆円。それが2015年は1,200兆近く(になった)。とにかく(賃金が)安いから、世界の工場となった。ちょうど2010年に日本の500兆を抜いてGDP世界第二位になった。その後の2012年に習近平が就任し、経済力を背景に大中華思想を打ち出して、力を誇示するために南シナ海に次々にガス田を開発し始めた。ここには工場やミサイルの発射台も沢山作っている。そもそも、フィリピンがアメリカ軍に出て行ってくれと言ったからこの付近に中国が出てくるようになった。水深が50メートル程度と浅いので、中国は土地を埋め立ててどんどん島を作っている。釣魚島には昔は缶詰工場があったが、今は羊が放し飼いにされている。ここに乗り込んでこられたらおしまいだということで、今警備を強めようとしている。毎月5隻以上が領海を侵犯している。中国の手法は大量に侵入してきて、なし崩しにしようとしているらしい。現在は、漁船が侵入してきた場合は海上保安庁が対応し、軍艦が来た場合は海上自衛隊が対応する仕組みになっている。中国は日本と中国の中間線の向こう側にたくさんガス田を作っている。胡錦濤の時代は4個のガス田があって、日本と一緒に行うということで合意ができていたのに、2012年に習近平になった途端、急増した。今14個あって2個建造中なので計16個。ただ、中間線より向こうにあり、日本の領土ではないので表向きは何も言えない。そんなに進出してきて日本は大丈夫か、と思うかもしれないが、中国の軍事力はまだ弱く、アメリカと摩擦になったら大変だから、まだ戦いになることはない。しかし、(中国が)軍事力を増やしているから日本も幾ばくかの対応を要するということ。以上が世界の情勢の話だ。
中国の軍事力が弱く、『戦いになることはない』というなら、米国にへつらって安保法制をごり押しする必要などあるまい。また、中国が軍事力を増すたびに対抗策として自衛隊の予算を増額していけば、きりがない。5兆円の国防費を「幾ばくか」と言う感覚には、開いた口が塞がらない。この後、藤丸氏の発言は国会を通ってもいなかった予算の話に移っていく。