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政府広報「NHK」の現状

2016年5月 9日 09:30

 NHK2.jpg籾井勝人氏がNHK会長に就任したのが2014年1月。安倍政権が送り込んだ人間だけあって、就任会見でいきなり歪んだ歴史観を披露し、波紋を呼んだ。以来、NHKが同氏の度重なる問題発言で批判に晒され、公共放送としての資格を問われ続けてきたのは周知の通りだ。
 放送法が謳う「不偏不党」とは程遠い同氏の姿勢だが、今度は局内に原発批判を封殺する形となる指示を行い、再び物議を醸す事態となっている。
 NHKは、公共放送と言えるのか?

原発批判、事実上の封殺

 NHKの関係者によれば、問題の発言があったとされるのは先月20日。熊本地震を受けて開かれた同局の災害対策本部会議の席上だった。会議には、同局理事や現場を取り仕切る幹部ら100名あまりが参加。現地熊本での取材の現状や今後の方針が話し合われたといい、その締め括りで、籾井氏の口から次のような指示が飛び出した。

  • 原発について、いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる。住民の不安をいたずらにかき立てないよう、公式発表をベースに伝える。
  • 自衛隊が活動するようになって、被災地に物資が届くようになったことを報じる。

 熊本地震発生後、隣県鹿児島にある川内原発(薩摩川内市)の運転停止を求める声が高まった。地震の発生源となった断層帯の先には伊方原発(愛媛県伊方町)も存在しており、国民や有識者が万が一の事態を危惧するのは当然のことだと言えよう。今回の籾井発言は、そうした声を黙殺し、原発停止を否定する国や電力会社の発表を垂れ流すよう命じたに等しい。

 地元住民やボランティアの動きではなく、自衛隊の活躍ぶりを取り上げるよう指示したことも容認しがたい。集団的自衛権や安保法で国内が揺れるなか、“防衛省の広報をやれ”と言ったも同然。報道機関のトップが出す指示としては、あってはならない内容だろう。

 籾井氏の指示通りに動くなら、NHKは大本営発表を繰り返した戦前の新聞やラジオと同じだ。さすがに発言内容を問題視した局内関係者がいたらしく、内部情報が他のメディアに流出。23日には毎日など新聞各社が報道に踏み切り、26日には報道の現場を委縮させる発言だとして国会でも取り上げられる事態となっていた。一連の動きを受けたNHKは、27日にホームページ上で反論を展開する。

災害対策本部会議での会長発言に関する報道について 平成28年4月27日

 4月23日以降の新聞紙面で、熊本地震のNHKの災害対策本部会議での籾井会長の発言が報じられています。この発言は、熊本地震に伴う原子力発電所への影響について、住民の不安をいたずらにあおらないよう、従来どおり、事実に基づき正確な情報を伝えるという趣旨のものであり、原発報道全般のスタンスについて述べたものではありません。

 NHKのニュースや番組は、報道機関としての自主的・自律的な編集権に基づき、取材・制作しており、今回の熊本地震も、24 時間の緊急報道体制をとって、防災・減災報道を継続するとともに、被災者の方々の支援に向けた放送に努めています。大きな地震が発生した際には、原発の安全に対する視聴者・国民の関心に応えるため、電力会社や規制当局が公式に発表する前から取材を開始し、最寄りの震度や周辺の放射線量のモニタリング状況に加えて、原発の運転状況、設備などの異常の有無についても報道しています。また、原発の運転に反対する動きなども含め、多角的にお伝えしています。
 発表などの内容や根拠に疑問がある場合は、さらなる取材や検証を行い、放送していくことは言うまでもありません。

 今回の言及は、あくまでも熊本地震に関連したものであり、原発報道全般のスタンスについて述べたものではないことを、あらためて明確にさせていただきます。
 NHKは、放送ガイドラインに基づき、報道機関として不偏不党の立場を守り、番組編集の自由を確保し、何人からも干渉されず、放送の自主・自律を堅持していきます。

 NHKのどの部署の人間が考えた見解なの分からないが、上から言われて渋々書いたものらしく、“言い訳”になっていない。籾井発言は、『住民の不安をいたずらにあおらないよう、従来どおり、事実に基づき正確な情報を伝えるという趣旨』であり、『原発報道全般のスタンス』について述べたものではないのだという。しかし、日本は地震・火山列島であり、現在もっとも危険視されている川内原発はもとより、国内の原発すべてが地震や噴火の影響を受けると見るのが普通。熊本地震関連の原発報道で公式発表しか伝えないNHKが、他のケースで違う方向の報道を行うはずがない。同局の反論が、「熊本地震絡みでは原発の危険性に触れるな」という籾井氏の意思を容認したものである以上、これは『原発報道全般のスタンス』と見るべきだろう。

 原発については、様々な視点から論じられるべきで、福島第一原発という「生き証人」の存在がある以上、危険性があればそこを掘り下げるのも報道の使命だ。そもそも、虚構である「安全神話」を広めたのは国と電力会社。籾井氏は、3.11以降、国民の意識が大きく変わったことを理解できていない。

 言うまでもなく、NHKは税金と受信料という“国民のカネ”で成り立っている組織だ。寄り添うべきは国民のはずだが、会長就任以来の籾井氏の姿勢はまさに政権の犬。安倍首相に寄り添っているとしか思えない。権力側の公式発表しか流さず、独自の視点による問題提起もしないというのであれば、それはまさに権力側の広報。ジャーナリズムとは無縁の媒体ということになる。

権力側の広報と化すNHK

 籾井氏が、NHKを権力側の広報とみなしているのは明らかだ。昨年2月、籾井氏は会見で慰安婦問題に関し「政府のスタンスが見えないので放送は慎重に考える」と明言。「原発に関しては、公式発表以外報じるな」という今回の発言と同様の趣旨で、局内に自身の考えをアピールしていた。また、慰安婦報道に関する発言を厳しく批判した毎日新聞に対し、NHK自体も今回同様の反論を行っている。

2月23日付けの新聞報道について

 平成27年2月23日付けの毎日新聞朝刊の社説において、「国の広報機関ではない」との見出しを掲げ、NHKが、あたかも国の広報機関になってしまうとする報道がなされています。また同日の同新聞夕刊でも「政府の代弁放送になるのか」と題した特集記事が掲載されました。

 しかし、言うまでもなく放送法の下で運営されているNHKが、そうした政府の広報機関になるはずがなく、今回の記事は、視聴者、国民に誤解を与えかねない記事だと言わざるをえません。もとより放送法には「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と第1条に明記されています。また同じ放送法には「何人からも規律されず」「できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」とも記されています。
 このことは、籾井会長自らが、これまでの記者会見や国会答弁などで、繰り返し述べているところです。また、事実として、NHKは、この放送法に則って現在も、これまでも運営されており、いささかもこの姿勢が揺らいでいることはありません。
 実際、昨年12月の会長定例会見で、籾井会長は国際放送に関連して「(NHKには)より客観的な報道への期待がある。国の宣伝に傾斜するのではなく、国内の放送と同様に十分心がける必要がある」と自らの言葉で述べています。また今年1月の記者会見でも、メディアの在り方を問われたのに対し「事実に基づき公平・公正、不偏不党、いろいろな意見についても言及する。何人からも規律されず自主自律であること」と会長自らの言葉で述べているところです。
 今回のいわゆる従軍慰安婦に関する会長会見の発言については、繰り返し説明している通り「慎重に検討すべき」だということを述べたに過ぎず、番組の制作にあたっては、自律した編集権の下、公平・公正、不偏不党を貫くことにまったく変わりありません。
 同時にNHKの放送は、分掌した編集権の下で、放送現場が主体的に番組を提案し、制作し、放送しています。籾井会長就任から一年、この間も、これまでと同じ番組制作の仕組みの中で、放送現場が主体的に、さまざまなテーマを選び、さまざまな角度から取材し番組制作にあたり、さまざまなニュースや番組をお伝えしてきています。こうした放送実績が事実だと考えています。
 こうした方針は、この先、いささかも変わるものではなく、NHKは、放送法の下で何人からも規律されることなく、公共放送としての使命を確実に果たして参ります。

 この時のNHKの姿勢も今回と同じ。組織トップが放った発言に対する反省はなく、現実逃避の文言を並べただけだ。『事実に基づき公平・公正、不偏不党』、『放送現場が主体的に番組を提案し、制作し、放送』――現在のNHKの姿を見て、これを信じる人は少ないだろう。

 ここで、籾井氏が会長就任会見で発言した内容を振り返っておきたい。

― 従軍慰安婦は、「戦争をしているどこの国にもあった」
― 「なぜオランダにまだ飾り窓があるんですか」
― 「韓国が、日本だけが強制連行したように主張するから話がややこしい。それは日韓基本条約で国際的には解決している。蒸し返されるのは おかしい」
― 「日本の立場を国際放送で明確に発信していく、国際放送とはそういうもの。政府が 右と言っているのに我々が左と言うわけにはいかない」
― 「(特定秘密保護法については)通ったので、言ってもしょうがないんじゃないか。必要があればやる。世間が心配しているようなことが政府の目的であれば大変だが、そういうこともないのでは」

 右の代表格である産経か読売のトップならいざ知らず、放送法で「不偏不党」を義務付けられた放送局の会長が発する主張ではあるまい。問題は、歪んだ同局トップの姿勢について、局内からこれを正そうとする動きが出ないNHKの現状にある。

 NHKの内情に詳しいジャーナリストは、こう話している。
「一連の会長発言を論じる度に、外部から『現場が委縮する』という懸念の声が上がる。しかし、いまのNHKは委縮ではなく、自粛。政権に都合の悪い報道を自主規制しているというのが実情だろう。NHKは、上から睨まれると生き残れない組織。余計なことはせず、籾井が満足する政権寄りの報道を続けておこうという雰囲気になっている。まさに政府広報。かつて厳しい権力批判も辞さなかったNHKの面影は微塵もない。籾井発言に対する批判に組織をあげて反論しているようでは、報道機関を名乗る資格などないし、このまま籾井氏のNHK私物化を許すのなら、公共放送としても失格だ。もちろん、受信料徴収に値する組織とは言えまい」



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